今回は、中小ベンチャー企業のM&Aにおいて「投資ファンド」が買い手候補になる理由を見ていきます。※本連載は、起業支援NPO、金融コンサルティング・M&A・不動産・投資教育事業会社などを多数運営する、佐々木敦也氏の最新刊『中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A』(ジャムハウス)の中から一部を抜粋し、中小ベンチャー企業経営者のための「会社(事業)の売り方」をご紹介します。

利益優先のイメージが強い「投資ファンドだが・・・

投資ファンドの企業買収と聞くと、一般的なイメージは、NHKドラマの『ハゲタカ』などでみたような「企業を食い物にして稼ぎまくる」という印象が強いのではないだろうか。ファンドの活動内容は基本的に、以下である。

 

①企業の過半数(それ以下もある)の株式を取得

     ↓

②企業の完全支配権を得る

     ↓

③息のかかった経営者を派遣

     ↓

④効率の悪い事業・子会社を切り離す

     ↓

⑤経営資源を本業に集中させるなど「選択と集中」戦略を進める

     ↓

⑥企業価値を上げる

     ↓

⑦株式公開、他社・経営陣などへの株式売却でキャピタルゲインを得る

 

そしてそこから浮かぶ懸念といえば、①利益最優先で、買収後経営陣を含む激しいリストラが待っているのではないか、②キャピタルゲイン(譲渡額−取得額)を得るために再売却されるが、譲渡先は高く売れるところが最優先でその後ことは考慮しないのではないか、という点があり、これが『ハゲタカ』のイメージに繋がるのである。

中小ベンチャー企業にとってはメリットもある

しかし、以上は主に上場企業における敵対的戦略M&Aでの話である。中小ベンチャー企業における投資ファンドのM&Aは、基本的に友好的戦略M&Aであり、上記不安は必ずしもあてはまらないといえる。そしてそのメリットは、以下の点がある。

 

①ファンドの資金・経営ノウハウが入る

②企業の信用力が高まる

③事業会社によるM&Aに比べて、売り手経営陣がそのまま残るケースが多い

 

したがって、上記の懸念に対しては、①無理なリストラは行なわない、②再売却時は共同株主や社内キーパーソンと相談して最適な相手を決める、といった対応となるケースも多いので、そういう活動方針であるファンドの買収であれば、初めから拒絶することはないということになる。

 

現状、中小ベンチャー企業のM&A案件でファンドが買い手となるのは数%に過ぎない。その理由は、以下などが挙げられる。

 

①ファンドの資金力から上場企業対象の規模が大きい案件に目が行きがちなこと

②友好的戦略M&Aの場合、買収先(売り手)企業の業績自体の業績は良く、信用の毀損がないこと等条件がある程度絞られること

③通常、ファンドの出口(再売却)は3〜5年であり、時間制限の中、成果があげられるM&A案件が限られている

 

また売り手にとっては、事業会社によるM&Aに比べて、会社成長などのシナジー面の効果が直接的でない(ファンドがどこまで成果をあげるのか?)等の懸念があり、ファンドによる買収を単純に受けにくいという面もある。

 

今後をみると、中小ベンチャー企業M&Aの投資ファンド数は増加していくだろう。その中で、売り手企業としては、上記に述べたファンドの運営・活動方針をしっかり確認した上で、例えば今までのオーナーが出来なかったこと、①社内各種ルールの制度化・透明化②社員のモチベーションアップへの取り組みなどに熱心に知恵と汗を出してくれるかどうかが評価(M&Aの受入)のポイントとなる。買い手候補として、事業会社と並び視野に入れておく価値は十分にあるといえるだろう。

本連載は、2015年8月31日刊行の書籍『中小ベンチャー企業経営者のための“超”M&A』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

中小ベンチャー企業経営者のための“超”入門M&A

佐々木 敦也

ジャムハウス

日本の中小ベンチャー企業がM&Aをどのように活用できるか、またすべきか、という視点に重きをおいてまとめた入門書。 元M&Aアドバイザーが客観的・中立的な視点で、大企業でない中小ベンチャー企業のM&A市場を概観し、M&Aの…

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