今回は、相続時に「配偶者軽減」を受けないほうがいいという、レアなケースをご紹介します。 ※本連載は、相続税の専門家として「相続税還付」に力を入れている佐藤和基氏の新刊で、2015年12月に刊行された『不動産の知識があれば相続税は取り戻せます!』(住宅新報社)の中から一部を抜粋し、納め過ぎた相続税を取り戻すノウハウなどをご紹介します。

相続税の面でかなり優遇されている配偶者

配偶者が相続した財産については、1億6000万円までは配偶者軽減により相続税はかからないことになっています。また、1億6000万円を超えても法定相続分までの取得については相続税がかかりません。つまり、1億6000万円か配偶者の法定相続分のいずれか多い金額までについては相続税がかからないのです。

 

そのため、配偶者は相続税の面でかなり優遇されているといえます。税理士に「配偶者軽減の適用は受けたほうがいいですか?」と質問したら100人中100人が「配偶者軽減の適用を受けたほうがいいです」と回答するでしょう。

 

税理士試験の相続税法でも、配偶者がいる問題では必ず配偶者軽減の適用を受けて計算します。普通に考えれば相続税が安くなる制度ですので、適用を受けるのは当然です。しかし、長年相続の仕事に携わっていると、通常では考えられないようなレアなケースと出会うことがあります。今回は実際にあったケースを紹介したいと思います。

相続税の取得費加算の適用が受けられない!?

都内の地主の一族の方でした。通常であれば、1億円ほど相続税がかかる資産規模の方でしたが、親の相続が発生した直後でしたので、相次相続控除の適用を受けることができました。

 

配偶者軽減と相次相続控除の両方を適用すれば、余裕で相続税はかからないですし、あえて配偶者軽減の適用を受けずに相次相続控除のみの適用でも、ぎりぎり相続税はかからない内容でした。

 

相続税の負担のみを考えるのであれば、どちらでも結果は変わらないため、通常であれば余裕を持たせるためにも、配偶者軽減の適用を受けるのがベストであると思われがちです。それでも配偶者軽減の適用を受けなかった理由としては、相続後に不動産を売却する予定だったからです。

 

相続の発生から3年10カ月以内に相続した財産を売却した場合には、譲渡所得の計算上、相続税の一部を経費にすることができる「相続税の取得費加算」という制度があります。

 

もちろん、相続税を納めていない人は相続税の取得費加算も通常であればゼロとなります。しかし、実際の相続税の取得費加算の金額は、納めた相続税そのものではなく、贈与税額控除や相次相続控除の適用を受ける前の相続税をベースに計算することになります。

 

そのため、相次相続控除の適用を受けて相続税の納税がゼロでも、相次相続控除の適用を受ける前の相続税が発生している場合には、相続税の取得費加算を適用できるのです。ただし、配偶者軽減の適用を受けてしまうと、相続税の取得費加算の適用も受けられなくなってしまいます。

 

このような事例はレアなケースですし、この記事を読んだ税理士の方は「本当に?」と疑問を持ちながら条文を読み込むことでしょう。筆者も初めは「そんなバカな・・・」と疑問を持ちながら、条文を読み込んだものです。ちなみに、相次相続控除の適用を受けて相続税の納税がゼロになる場合には、申告要件がないため申告する必要がありません。

 

しかし、その後相続財産の売却を検討している場合には、相続税の取得費加算の適用を受けるためにも申告しておく必要があります。配偶者軽減の適用を受けなかったり、申告要件がないにもかかわらず申告をしたりといろいろと疑問の出てくる案件でしたので、今でもよく覚えています。

本連載は、2015年12月9日刊行の書籍『不動産の知識があれば相続税は取り戻せます!』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

不動産の知識があれば相続税は取り戻せます!

不動産の知識があれば相続税は取り戻せます!

佐藤 和基

住宅新報社

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