相続・事業承継 相続対策
連載オネエタレントの相続~「税理士ツチヤの相続事件簿」より【第5回】

話すことしかできない状態・・・それでも「遺言書」は残せるか?

小説公正証書遺言

話すことしかできない状態・・・それでも「遺言書」は残せるか?

オネエタレントの夏菜恋は、病に倒れた1ヶ月前に、自らの財産の相続について税理士のツチヤに相談をしていました――。本連載は、税理士・土屋祐昭氏、FP・社会保険労務士・佐藤敦規氏の著書、『税理士ツチヤの相続事件簿』(サンライズパブリッシング)の中から一部を抜粋し、ある日、突然降りかかってくる「相続」という問題とその解決策を小説形式でお伝えします。

急性の心筋梗塞で手術をしないと助からない・・・

聖路加病院の集中治療室の前に来ると、ソファに座りこんでいたマネージャーの吉沢が立ち上がった。顔がげっそりとやつれている。横には、スーツ姿の40前後の男が膝に手を乗せて座っていた。夏菜恋の彼であろう。画家を目指しているが、それでは食えないので美術関係のデザイナーをやっていると聞いた。

 

「こんな雪の中、ありがとうございます」

 

吉沢が頭を下げた。つられて彼も立ち上がって頭を下げた。

 

「夏菜さんの具合は?」

 

「急性の心筋梗塞です。エールフランスのスタッフが応急手当をしてくれたのと、空港近くの病院にすぐ搬送してくれたこともあり、なんとか助かりました。ですが合併症というか、左室が破裂して大出血する恐れがあると先ほど先生から言われました。準備ができ次第、手術をする必要があるそうです。手術しないと断続的な胸の痛みにより、亡くなるそうです」

 

吉沢は一気に話した。夏菜恋は、54歳。最近、同じ歳の経営者が心筋梗塞で亡くなったというニュースを見た。3日前までは、仕事をしていたという。寒い時期になると心臓に負担がかかる。

 

「以前から悪かったのですか?」

 

「『胸が苦しくなることがある』とは言っていました。それに血圧が高くて、下げるための薬を飲んでいました」

 

ラーメンの食べ歩きなど、油っこいものを食べていた影響もあるのであろう。体の調子が悪ければ、外国なんて行かなければいいのに・・・という言葉を飲み込んだ。

2人以上の証人の立ち会いで残せる公正証書遺言

「夏菜さんと話すことはできますか?」

 

「今は無理です。ちょっとよろしいですか?」

 

吉沢は手招きするしぐさをした。ソファから数メートル離れた廊下のくぼみにツチヤ税理士を導いた。マスクをした看護師が数人、ストレッチャーを押しながら、向かってきた。一瞬で前を通過し、集中治療室の中に吸い込まれていった。

 

「あの、今から私が社長から言われたことを先生に伝えますので、それを遺言書とすることはできるのでしょうか?」

 

吉沢は小声で尋ねた。

 

「残念ながら、できません。遺言書は必ず自筆で書かなくてはいけません。テープなどで録音したことを書き起こすことも認められていないのです」

 

パソコンで書くのも不可だった。

 

「社長が自筆で遺言を書くのは不可能です。どうすればよいのですか?」

 

「夏菜さんが、話すことができるのでしたら、公正証書遺言をやってみましょう。通常、公証役場というところに行く必要がありますが、今回のように遺言者が動けない場合は、公証人に病院まで来てもらえます」

 

「公正証書遺言というのがあるのですね。初めて聞きました。書類とか準備が必要ですよね?」

 

公正証書遺言とは、本人が遺言の内容を公証人に話して、作成する遺言方式である。2人以上の証人の立ち会いがあれば、自筆でなくてもかまわなかった。

 

「いくつか必要です。これからメールしますので、それをご覧になってください」

 

「明日、手術の前に書いてもらうことはできますか?」

 

「手術の前に書くのですか?」

 

「体力的にも弱っているので最悪なことも起こりうるそうです」

 

手術は胸を開き、出血した血液を吸引するというものらしい。

 

「なんとかやってみましょう」

本連載は、2016年2月26日刊行の書籍『税理士ツチヤの相続事件簿』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

土屋 裕昭

土屋会計事務所 所長 税理士・CFP・登録政治資金監査人

1973年米国アラスカ生まれ。1995年早稲田大学政治経済学部卒業。大学卒業後、一般企業勤務を経て、簿記知識ゼロから3年間で税理士試験合格。相続税に強い税理士として個人資産家からの信頼も厚く、HP(相続税申告のツチヤ)には多数のお客様の声が掲載されている。監修に『いちばんわかりやすい確定申告の書き方』(ダイヤモンド社)、共著に『小さな会社は「決算だけ」税理士に頼みなさい』(ダイヤモンド社)などがある。テレビ、週刊誌などメディア取材多数。

著者紹介

佐藤 敦規

FP・社会保険労務士

1964年東京生まれ。中央大学卒業後、パソコン関連誌の編集に携わる。30代からは印刷会社に勤務し、テクニカルライターとして家電製品からシステム関連まで100種類以上の取扱説明書を作成。2年前より年金や生命保険のあるべき姿をより多くの人に伝えるべく、FP・社会保険労務士に転向。マネー&相続関連のセミナーなどを行う。ミステリー小説の新人賞、江戸川乱歩賞の予選を通貨したこともある。

著者紹介

連載オネエタレントの相続~「税理士ツチヤの相続事件簿」より

税理士ツチヤの相続事件簿

税理士ツチヤの相続事件簿

土屋 裕昭・佐藤 敦規

サンライズパブリッシング

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