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連載オネエタレントの相続~「税理士ツチヤの相続事件簿」より【第3回】

突然の危篤状態――『ツチヤさんを呼んで』

小説

突然の危篤状態――『ツチヤさんを呼んで』

パリで一躍、文化人として脚光浴びるようになったオネエタレントの夏菜恋(なつなれん)。帰国する飛行機の中で、突然、胸の痛みに襲われて、着陸後、緊急搬送されました。 ※本連載は、税理士・土屋祐昭氏、FP・社会保険労務士・佐藤敦規氏の著書、『税理士ツチヤの相続事件簿』(サンライズパブリッシング)の中からの抜粋です。

ツチヤ税理士のスマホに表示された「夏菜恋」

「電車が止まる前に帰ったほうがいいよ」

 

ツチヤ税理士は、職員の橋本智子に声をかけた。

 

「朝、電車が遅れるのが嫌なので、今日はここに泊まっちゃおうかな?」

 

朝から降り続けている雪は、都心でも20センチにも達する恐れがあると報じられていた。

 

「やめとけ。徹夜するとその週は、使いものにならなくなる」

 

「だって仕事、全然終わらないですよ」

 

橋本智子は不服そうに言った。採用して半年の見習職員だ。170センチと身長が高い。証券会社の総合職として7年勤めたあと、税理士になりたいと言って志望してきた。在職中から税理士を目指していたが、多忙なため勉強時間を捻出できず、まだ2科目しか合格していない。ずば抜けて頭が切れるわけではないが、馬力はあった。

 

それに証券会社で培ったのであろう。クライアントが大物でも物おじしない度胸もある。しっかり教えこめば、大活躍してくれそうな予感はあった。2月、確定申告や企業の決算の関係で最も忙しい時期だ。ツチヤ税理士も毎晩、遅くまで書類と格闘していた。今日も定時を過ぎていたが、まだまだ仕事が終わる気配はなかった。

 

ツチヤ税理士は窓を開けた。横殴りに粉雪が降り続けていた。路面にもはっきり雪が積もっているのが分かる。車は徐行していた。

 

「わあ、これは大変だ」とつぶやいたとき、スマートフォンが振動した。ディスプレイに夏菜恋と表示されている。

最悪の場合、あと4日位しかもたない!?

1ヶ月前に会ったときは、遺言を書くことを勧めた。その気になったのであろうか?

 

「今、お話して大丈夫ですか? マネージャーの吉沢です」

 

「どうしました?」

 

ツチヤ税理士は、嫌な予感がした。

 

「社長がパリから戻る飛行機の中で倒れたのです。救急車で空港近くの病院に搬送されました。心筋梗塞だということで応急処置を施されたあと、専門の先生がいる聖路加病院に移されたのです。集中治療室で今、手当を受けています。さきほど先生から合併症があるため、最悪の場合、あと4日位しかもたない恐れがあるということでした」

 

吉沢は一気にまくしたてた。橋本智子がキーボードを打つ手を止めて、こちらに視線を注いでいる。

 

「『ツチヤさんを呼んで』と繰り返しているので、連絡いたしました。お忙しいところすみません」

 

「わかりました。今から行きますよ」

 

「雪も降っているので明日の朝からでも」

 

「一刻の猶予も争います。集中治療室には外部の人が入れるのですか?」

 

「私のほうで病院に話しておきますので、それは大丈夫です」

 

吉沢の声が柔らかくなった。夏菜恋とは、20年前からの付き合いだった。当時は今のようにブレイクしていなかった。成功すると態度が変わる人が多い中、夏菜恋の腰の低い姿勢は変わらなかった。もっとも仕事に関しては、シビアなようだ。マネージャーは頻繁に替わる。

 

「何度注意しても同じ失敗を繰り返すのでクビにしたわ。ツチヤさん、誰かいい人いたら紹介してくれない? 給料はたくさん出すから」

 

真顔で聞かれたことがある。今の吉沢は、2年近く勤めている。長く続いているほうであろう。

 

ツチヤ税理士は、ノートパソコンの電源を落とすと鞄にしまい込んだ。

 

「緊急な要件が発生したので出かける。なんかあったら携帯に連絡してくれ。無理しないようにしなさい」

 

帰れとは言えなかった。手帳を取り出し、明日の予定を確認する。アポイントも入っているが断わらなくてはいけないであろう。

 

「身内の人が具合でも?」

 

「夏菜恋さん。聖路加病院のICUにいるようなので、今から行ってくる」

本連載は、2016年2月26日刊行の書籍『税理士ツチヤの相続事件簿』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

土屋 裕昭

土屋会計事務所 所長 税理士・CFP・登録政治資金監査人

1973年米国アラスカ生まれ。1995年早稲田大学政治経済学部卒業。大学卒業後、一般企業勤務を経て、簿記知識ゼロから3年間で税理士試験合格。相続税に強い税理士として個人資産家からの信頼も厚く、HP(相続税申告のツチヤ)には多数のお客様の声が掲載されている。監修に『いちばんわかりやすい確定申告の書き方』(ダイヤモンド社)、共著に『小さな会社は「決算だけ」税理士に頼みなさい』(ダイヤモンド社)などがある。テレビ、週刊誌などメディア取材多数。

著者紹介

佐藤 敦規

FP・社会保険労務士

1964年東京生まれ。中央大学卒業後、パソコン関連誌の編集に携わる。30代からは印刷会社に勤務し、テクニカルライターとして家電製品からシステム関連まで100種類以上の取扱説明書を作成。2年前より年金や生命保険のあるべき姿をより多くの人に伝えるべく、FP・社会保険労務士に転向。マネー&相続関連のセミナーなどを行う。ミステリー小説の新人賞、江戸川乱歩賞の予選を通貨したこともある。

著者紹介

連載オネエタレントの相続~「税理士ツチヤの相続事件簿」より

税理士ツチヤの相続事件簿

税理士ツチヤの相続事件簿

土屋 裕昭・佐藤 敦規

サンライズパブリッシング

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