今回は、「戦略型」の事業引き継ぎの成功事例を見たうえで、事業継承における「5W2H」について解説します。

タイプの異なる後継者に理念・文化の継承は難しい

まずは、前回に引き続き、経営者タイプと職種タイプが異なる場合の最適な継承パターンと、その成功事例について見ていきます。

 

●戦略型

まったくタイプの異なる後継者に対し、自分の理念・文化の継承を望むのは極めて難しいものです。無理を押しつけて破たんするより、分社化して後継者に新たなステージを用意するほうが引き継ぎがうまくいくことがあります。子会社として分社化する場合、結局親会社の経営方針に縛られてしまうようでは意味がありませんから、株式の委譲などを行って後継者が自由に動けるよう配慮しなければいけません。

 

<成功事例>

1955年に創業された老舗の洋品店であるB社。主に50代以上の女性をターゲットとした商品を扱い、バブルの頃にも事業を拡張せず地元に根差した経営を行ってきました。

 

創業者が50代で急死したこともあり、2代目のU氏は20代の若さで事業を相続して以来家業を守り続けてきましたが、店舗を構える商店街は、バブル崩壊をきっかけにどんどんさびれていき、次第に客足が遠のいていきました。さらに、近隣に大型のショッピングセンターができたことで、地元の顧客もそちらに流れてしまい、経営的には厳しい状況に追い込まれていました。

 

60代後半となったU氏は、自分の代で店をたたむことも検討しましたが、親族や古株従業員の反対もあり、最終的には事業を継承することを選択しました。後継者候補は、息子のE氏です。E氏はB社の従業員として働いているのですが、会社の一事業としてインターネットを使った古着の売買を独自に行い、次第に業績が上がっている最中でした。

 

ただ、E氏は30代前半であり、婦人洋品よりも若者層をターゲットにしたビジネスを好みます。堅実なU氏に比べると、E氏は事業を大きくすることを望み、経営者タイプも異なっています。そこでU氏がとったのが、分社化です。現在の店舗は存続させて従業員たちの雇用を守る一方で、子会社として別会社を立ち上げ、E氏を経営者に据えたのです。そしてE氏に、B社の株式を集中することで実質的な経営権をそちらに預けました。

 

E氏としては、採算の思わしくないB社の業績まで担うことになったのですが、結果的にE氏のインターネットビジネスは順調に推移し、倉庫兼実店舗として古着店を複数、運営するほどになりました。家業の洋品店の赤字を補っても十分な利益が上がるようになったことで、従業員の雇用も守られています。

事業継承の「5W2H」とは何か?

ここまでの内容を一通り理解し、マニュアルの準備も整ったら、引き継ぎの具体的な計画表をつくります。ビジネスを円滑に進めるための標語として「5W2H」があります。これは「What(何を)」、「When(いつ)」、「Why(なぜ)」、「How(どのように)」、「How much(いくらで)」などを明確にし、より計画的にものごとを進めるための指針ですが、事業継承にも、同様の考え方が適用できます。

 

事業継承の「5W2H」は以下の通りです。

 

●Who(誰が)

例:代表者個人、親族の役員、役員全員

自分ひとりだけが引退するのか、まわりの役員すべてが引退して組織を一新するのかなども考える必要があります。

 

●Whom(誰に)

例:親族・肉親、側近、知人、知人以外

誰に引き継ぐのかを考えます。場合によっては、一人だけでなく複数人に引き継ぐという選択肢も考えられます。

 

●What(何を)

例:屋号、現預金、固定資産、その他資産、事業内容、取引先、従業員、息子・孫の生活、具体的業務分野

理念や経営方針といったソフト面の引き継ぎと、資産、株、不動産といったハード面の引き継ぎに分けて、自分が何を所有して何を引き継がせるのかを考えましょう。

 

ソフト:理念、従業員、取引先、事業内容

ハード:屋号、現預金、固定資産、その他資産、株、不動産など

 

なお、ハード面の引き継ぎにおいては相続税や贈与税などが関連してきます。どういったものを自分が所有しているのか、また自分がどの程度力を残しておきたいかによって株の分け方なども変わります。ハード面については税理士と相談しながら進める必要があるでしょう。

 

●When by(いつまでに)

例:6か月以内、1年以内、3年以内、それ以上

 

●Why(なぜ)

例:年齢的背景、人間関係的背景、事業的背景

 

●How(どのように)

例:会議・ミーティング、引き継ぎ資料、顔合わせ

引き継ぎの際に、どういった方法で引き継ぐのかを考えます。

 

●How much(どの範囲まで)

例:完全に(引退:100%)、アドバイザー的立場で(相談役:80%)、ある程度(会長職・取締役:60%)、少しずつ(代表権を持ったまま:20%)

前述した「ソフト」と「ハード」に関して十分に意識しつつ、事業継承の「5W2H」について、書き出していきます。特にWhatについてできるだけたくさん記述してあったほうが、引き継ぎがしやすくなります。また、How muchに関しては、この段階では「株式の○○%を譲るから・・・」などとあまり細かく定めなくても大丈夫です。

 

【図表 事業承継の5W2H

 

 

本連載は、2015年10月25日刊行の書籍『たった半年で次期社長を育てる方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった半年で次期社長を育てる方法

たった半年で次期社長を育てる方法

和田 哲幸

幻冬舎メディアコンサルティング

中小企業は今後10年間、本格的な代替わりの時期を迎えます。 帝国データバンクによると、日本の社長の平均年齢は2013年で58.9歳、1990年と比べて約5歳上昇しました。今後こうした社長たちが引退適齢期に突入します。もっと平…

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