今回は、遺留分を無視した遺産分割によって、子供たちの間で「争族」が起こりそうになってしまった医師の事例と、その対策を見ていきます。

遺言書に優先する「遺留分減殺請求」の権利

Eさんのケースでは、病院の後継ぎである長男と、後継ぎでない他の兄弟姉妹とで財産の偏りが生じてしまい、長男が孤立しそうになった話です。

 

Eさん57歳[医療法人・精神科]

 

●家族構成・・・Eさん(院長)、妻、長男(医師・30歳)、次男(会社員・28歳)、長女(会社員・27歳)

●相続財産・・・合計15億円(相続税評価額)

●内訳・・・医療法人の持分、自宅の土地、建物、現預金

 

Eさんはかねてより「医療法人の持分、自宅の土地と建物、相続税の納税資金としての現金をすべて長男に相続させる」旨の遺言書を作成していました。Eさんの考えでは、家業を継ぐ者が全財産を継ぐのは当然で、長男以外の子らもそれぞれに自立しているので大丈夫と思っていたのでしょう。

 

一応、妻には相談しましたが、「それでいいんじゃないかしら。あなたの財産なのだから、あなたの好きにしてください。子どもたちも仲がいいから文句は言わないでしょう」と賛成してくれていたので、すっかり安心していました。

 

ところが、ふとした折に遺言書の内容について長男に話したところ、「お父さん、今の時代、家督制度は通用しないよ。僕が全財産を相続するとなったら、弟も妹もきっと遺留分を主張して裁判になるよ」と言ってきました。

 

「遺留分」というのは、法定相続人が最低限の財産を相続できるように保証する権利です。下記図表に示す割合で、遺留分が認められています。

 

[図表]遺留分

 

Eさんのケースでは、妻に4分の1、3人の子らに12分の1ずつの遺留分があります。たとえば、相続財産が15億円ならば、妻には3億7500万円、長男、次男、長女には1億2500万円ずつ相続できる権利があります。

 

この遺留分を侵害された場合、「遺留分減殺請求」をすれば、不当な遺産分割に「待った」をかけられます。長男はこの「遺留分減殺請求」を心配しているのです。

 

法的な効力のある遺言書を利用しても、遺留分請求の権利が優先されることを初めて知ったEさんは、「今のままでは確かに子どもたちの間で揉め事が起こってしまうかもしれない。長男が孤立してしまっては大変だ」と考え直し、弊社に相談に来られました。

 

遺留分を無視した遺産分割は〝争族〟の最たる原因です。兄弟間できっちり平等に遺産分割することは難しくても、少しでも偏りの少ない分割にしたほうが後々の揉め事は起こりにくくなります。

 

どうしても後継ぎに多く偏りが出てしまう場合は、事前に後継ぎ以外の子らに事情を話し、理解を求めておくことが大事です。そして、せめて遺留分を侵害しないラインで財産分与を考えておくべきです。

「遺族それぞれの気持ち」をないがしろにしない

Eさんの場合の相続対策のポイントは以下です。

 

①遺言書の内容の検討

 

対策1:遺留分を侵害しない範囲で、遺産分割を指定する

対策2:遺産分割に偏りが出ることについて、生前に家族で話し合っておく

 

Eさんには、相続人それぞれの遺留分に配慮した内容で、遺言書を作成し直すようアドバイスをしました。それでも評価額の高い医療法人の持分がネックとなっており、医療法人の後継者となる長男への財産の偏りは避けられないため、取り分が少ない次男と長女に対しては、事前に理由を話して、了解を得ておくようすすめました。

 

最初は、長男だけ財産の取り分が多いことを他の2人は渋っていましたが、「開業医」というものの特性上、そうするしかないことを丁寧に説明すると、「長男は財産をもらう代わりに、責任も多く負わなくてはならないんだね。それなら、自分たちは遺留分でいい」と得心してくれました。

 

今の様子を見ているかぎり、おそらくEさんの相続が起こっても、この家族は〝争族〟にはならないでしょう。

 

被相続人にとって「誰に相続させたいか」といった〝自分の意志〟も大切ですが、「相続した側はどう思うか」といった〝遺族それぞれの気持ち〟も大切にしてほしいと思います。特に医療法人の場合には、持分という財産が絡むので、遺留分の侵害については人一倍敏感になるべきです。

本連載は、2014年11月29日刊行の書籍『開業医の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策

開業医の相続対策

藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

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