今回は、2人の子供を持つ開業医が、医療法人の持分対策等によって円満相続を実現した事例を見ていきます。

「突然」相続が発生した場合に備える

Cさんは人工透析病院(医療法人)の理事長です。地域に透析を受けられる病院が少なく、また、近年は診療報酬削減もあって業績は横ばいですが、透析患者自体が全国的に増加していることもあり、Cさんの病院経営は開業以来、安定した経営を保つことができています。

 

Cさん61歳[医療法人・人工透析]

 

●家族構成・・・Cさん(院長)、妻、長男(医師・32歳)、次男(医師・31歳)

●相続財産・・・合計8億円(相続税評価額)

●内訳・・・医療法人の持分、自宅の土地、建物・クリニックの土地、建物、医療機器等、駐車場、株式などの金融資産、現預金

 

先日、開業医たちが集まるセミナーがあり、そこでCさんはある噂を耳にしました。「○○医院が潰れたらしい。相続で病院の承継がうまくいかなかったようだ」

 

○○という病院をCさんはよく知っていました。同じ透析病院であり、理事長が自分と同じくらいの年齢であったことから親近感を覚え、何度かセミナーや学会などで話をしたことがありました。

 

院長が不慮の事故で亡くなってしまい、残された医師の子が2人で揉めてしまって、医療法人の承継がうまくできずに結局廃業したという話を聞いて、Cさんは同じような立場として「他人事ではない」と焦りを覚えました。

 

というのも、Cさんには2人の子がいるのですが、そのどちらもがCさんの医療法人で勤める医師で、以前から後継者となることに意欲を示していたからです。

 

この時点では、Cさんは承継の具体的な話をしていないどころか、自分の医療法人の持分評価がいくらになるのか、自分に持分がいくらあるのか、自宅などの不動産がいくらになるのか、相続税がどれくらい発生するのかなど、何も把握していませんでした。

 

開業以来、顧問税理士任せで、自宅の固定資産税なども妻が毎回の支払いをしてくれていたため、自分自身はその額すら知らないという状態だったのです。

 

その日から、Cさん個人の財産の棚卸しをして、医療法人の持分評価などを行うことから始めました。「現状で突然相続が発生したら、相続税額が2億5000万円を超える」という試算を見て、Cさんは目をむいていました。

 

膨らんだ持分の評価を一刻も早くどうにかしなければならず、そのためには、医療法人の理事長をどちらにするか事前に決めておかなければなりません。どちらを理事長にするかが決まっていないと持分の評価減対策は実施できても、後継者への持分の贈与や納税資金対策などを具体的に進めていくことができません。

納税資金に困らないよう持分の評価減と贈与を実施

Cさんの相続対策のポイントは以下です。

 

①2人の子から後継者を選定

 

対策:長男次男との対話により、全員が納得するかたちで後継者を決める

 

②医療法人の持分対策

 

対策:相続時に後継者が納税資金に困らないように、持分の評価減と贈与を進める

 

③後継者以外へのフォロー

 

対策:クリニックの後継者でない子への遺産分割に偏りが出ないよう、給与面などで折り合いをつける

 

早急に医療法人の後継者を選定し、持分対策を行うべきとの忠告をすると、その日の晩に家族会議が開かれました。初めは長男次男ともなかなか引き下がらず、兄弟2人で経営していくことも考えました。

 

しかし、Cさんは「2人の息子が医療法人の持分を持って勤める場合には後々のトラブルが考えられるので、どちらか1人に絞るほうが安全だ」と考え、根気強く息子たちを説得しました。最終的には、長男が後継者となり持分を集中的に持つことで、次男も腹に一物抱えることなく納得してくれました。

 

後継者が決まったところで、持分評価を下げる対策を施し、今後の贈与の計画を立てました。医療法人の承継については、その計画どおりに事を進めていけば自ずと承継が完了する手はずになっています。

 

一方、後継ぎの座を長男に譲った次男に対して何もしないわけにはいきません。今のうちから給料を倍にして渡したり、Cさんの死亡時に受け取れる保険を用意するなどしたりして、不公平感が残らないようなフォローをしてあります。

 

一連の対策を整えて、Cさんは「今のうちに気づけてよかった。何も対策をせずに死んでいたら家族に迷惑をかけただろうし、病院も○○医院の二の舞いになっていたかもしれない」と胸を撫で下ろしていました。

 

このケースではCさんが早めに〝何の相続対策もできていない〟ことの危険性を自覚できたのが幸いでした。しかし、そのきっかけはたまたま聞いた同業者の廃業の噂です。

 

近しい人からの失敗談を聞いて危機感を覚えるというのは開業医に限った話ではなく、相続全般によくある話です。もしその話を聞くタイミングが遅かったり、聞く機会がなかったりしたら、それで手遅れになってしまう危険性は十分にあります。

 

早めなら打てる手がたくさんあります。周りの噂を耳にしてからではなく、自発的に、まずは相続税の試算からでも進めていくことが相続対策の必要性の気づきにつながるのです。

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    本連載は、2014年11月29日刊行の書籍『開業医の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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