今回は、自分と経営者タイプが違う後継者に事業承継を行う場合の成功事例を見ていきます。

思考パターンの違いは経営方針に影響を与える

職種タイプが同じでも経営者タイプが異なる場合は、思考パターンが違うことが経営方針にも影響を与えるので、売り上げの質が変わる可能性があります。

 

例えば、1対1の直接営業が得意な前経営者と代理店による拡販方針をよしとする後継者の場合では、同じ職種タイプでも利益率が変わることなどが考えられます。もし現在の会社の方針を維持してほしいと望むなら、古株の幹部社員なども交えて、今後の方針について事前にじっくり話し合ったうえで、方向性を固めておく必要があります。それにはどうしても、ある程度の時間が必要になるでしょう。

 

ただ、経営者タイプは16パターンあり、ひとつしか違わないケースから、すべてが真逆、というケースまであります。一見すると真逆であるほうが合意が難しそうですが、実は真逆であると、自分と後継者はタイプが違うことがはっきり認識できるので、それを受け入れたうえで違う視点からアドバイスできるため相性がいいといえます。むしろ少しだけ違うほうが、細かい点での相違が目立ちやすく、手間取ることが多いかもしれません。

 

【タイプと継承パターンの相関図】

違う意見でも「良いものは認める」姿勢が大切

●後見型

経営者タイプが異なり、性格の違う後継者に自分の思いを引き継ぐのは難しいものですが、それでも職種タイプが同じであれば、事業継承はうまくいきます。

 

例えば「営業重視」など、職種タイプに由来する経営手法において共通する部分は必ずあるので、経営者のカラーを残すことができます。経営方針に関しては、相手が自分と違う考えの持ち主であることを十分認識したうえで、多少の時間をかけて後継者を見守り、徐々に相手の理解を得ていきます。ポイントは、自分と違うやり方であっても、いいものなら認めることで、互いのよい部分をミックスする意識で事業継承を行うと成功しやすくなります。

 

<成功事例>

大手保険会社のトップ営業マンであったY氏は、1980年に独立し、35歳で保険代理店O社を立ち上げました。Y氏の営業力に加え、バブル景気の上昇気流をうまくとらえたこともあり、経営は極めて順調に推移。O社は全国で複数店舗を経営するまでに成長しました。

 

Y氏は、65歳で大病にかかったことをきっかけに、事業継承を考えるようになりました。後継者候補として、同じく保険業界にいる、息子のA氏がいました。A氏は当時、大手保険代理店の営業部に勤務していました。

 

長男であったA氏にも、いつかはO社を継ぎたいとの思いがあったようで、Y氏の招へいに応じ、取締役として経営陣に加わりました。A氏が参入して3か月。Y氏としては、健康面の不安からできるだけ早く事業を継承したかったのですが、それを躊躇させることがひとつありました。それは、自らと息子との経営タイプがかなり違っていることでした。

 

直情的で行動派、営業マンの個の力を重視するY氏に対し、A氏は冷静で慎重派、個よりも組織力で勝負するべく、ビジネスモデルや仕組みを重視していました。両名とも職種タイプは直接営業型で一致しているのですが、経営者タイプが違うことで、経営方針にも差が生まれたのです。

 

Y氏のもともとの営業スタイルは、足を使って走り回り、面と向かって契約をとる直接営業型。O社もそのカラーを反映し、人件費を使って優れた営業マンを確保したうえで事業を広げる戦略をとっていました。しかしA氏が提唱したのは、営業スキルのマニュアル化やフランチャイズ展開などによる拡販戦略でした。

 

こうした違いに対し、Y氏はどのように対応したのかといえば、A氏を代表取締役として、自らは会長職に就きつつ、経営権は1年をめどに段階的に譲渡していく手法をとりました。A氏は最初、父の承認なしには従来路線の変更ができない状況でしたが、あらかじめY氏からその旨を聞かされ、合意していたため、トラブルにはなりませんでした。

 

こうして事業継承後も父と息子の二人三脚で経営を行う中で、互いの考えを少しずつ理解していきました。Y氏が特に意識したのは、新たなやり方を感情論で否定しないこと。論理的に納得できれば、自分の路線と違う意見でも賛同し、改革を受け入れました。

 

こうして、Y氏とA氏の手法がハイブリッドされてつくられた経営方針は、結果的に「いいとこどり」になったようです。O社は代替わりしたのち、インターネットなどに事業領域を広げるとともに、従来の営業マンも変わらず活躍し、現在でも安定した経営を行っています。

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