生前贈与には「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」がありますが、相続税対策としての効果はまったく異なります。それぞれの活用にあたっての注意点を見ていきましょう。

非課税枠の少なさに難がある「暦年贈与」

相続税対策の一つとして挙げられる贈与(=生前に財産を与えること)についても触れておきましょう。通常の贈与のことを「暦年贈与」といい、贈与の際は受贈者(=財産を受け取った人)ごとに、税金(贈与税)の申告が必要になります。

 

贈与税は、1年間の贈与を合算した額に課税されますが、毎年110万円までは非課税となります。この「110万円の非課税枠」を利用して毎年贈与を行い、相続財産を減らしていく方法を「連年贈与」といい、昔から節税対策に利用されています。


この連年贈与は、有効な節税対策ではあるのですが、多額の財産を一度に移行することができないというマイナス面があります。また、贈与税を払っていませんので、贈与の証拠を贈与契約書等で残しておかないと「贈与」とみなされない恐れもあります。


贈与税は暦年贈与だけではなく、平成15年に創設された「相続時精算課税制度」を利用する方法もあります。この制度は、生前に贈与した財産を、相続発生時に遺産とまとめて合算して課税するというものです。

 

平成27年1月1日以後の贈与(税制改正後)については、


贈与者:60歳以上の親もしくは祖父母
受贈者:推定相続人である20歳以上の子もしくは20歳以上の孫

 

上記条件を満たす場合、2,500万円までの贈与がいったん非課税となり、2,500万円を超えた分から20%の税率がかかることになります。


相続時精算課税制度を活用すれば、相続より前に多額の財産を一度に相続人に譲ることができます。さらにこうした国の制度を利用することで、法的根拠のある明確な受け渡しが可能となります。

相続時精算課税制度を使うと暦年贈与には戻れない

暦年課税と相続時精算課税では、相続税対策としての効果がまったく違います。

 

相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、最終的に遺産に加わるわけですから、遺産を減らすという意味合いはないのですが、遺産総額が相続税の基礎控除額以下の場合、相続を待たずに資産を移転できる利点があります。


ただし、相続時精算課税は、「贈与時の価額」で評価が行われるという点に注意しなければなりません。

 

例えば、贈与したときに相続税評価額が2,500万円であった土地が、いざ相続が発生したとき、相続税評価額が2,000万円まで下がってしまっていた場合、差額の500万円分は精算時に引くことができずにそのまま課税されてしまいます。


また、今回の税制改正により、相続税の基礎控除額が下がったことからもわかる通り、税制改正によるリスクも考えておかなければいけません。


相続税がかからないと思って相続時精算課税制度を利用しても、しっかり遺産の総額を把握しておかないと、合算した際に、遺産の評価額が基礎控除の枠から出てしまい、結果的に相続税がかかってしまうという可能性もあります。


さらに、この制度は一度利用すると、暦年贈与を選択できなくなるという危うさも抱えています。

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    本連載は、2015年9月1日刊行の書籍『得する相続、損する相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    岡野 雄志

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