破綻のリスクがある国でもデットを発行できますし、投資をする人もいるのは何故でしょうか?前回は、デットとエクイティについてその違いについて触れましたが、今回はデットについて、もう少し詳しくご説明しましょう。

預金と債券の微妙な違い

銀行預金も債券もデットの一種ですが、厳密に言えば違いがあります。


まず、債券と違って、普通預金には銀行の返済期限が決められていません。といっても返済されないわけではなく、投資家はいつでも預金を解約してお金を引き出すことができます。また、定期預金には返済期限が決められていますが、投資家はその気になればいつでも中途解約ができます。その場合にはあらかじめ定められた金利は支払われませんが、元本の返済は保証されます。

 

ですから正確を期すのであれば、銀行預金は、債券によく似た銀行独自の金融商品というべきでしょう。また、デットは投資先が破綻しない限り元本保証だと書きましたが、銀行預金の場合は例外です。銀行預金の場合は、たとえ銀行が破綻したとしても元本1000万円までは国の出資する預金保険によって保護されています(ただし外貨預金については預金保険の対象外なので注意してください)。

投資先の破綻リスクがある、銀行預金以外のデット

銀行ばかりでなく日本国内の金融機関(証券会社や保険会社など)については、たとえ会社が破綻したとしても利用者が不利益をこうむらないように保険がかけられています。証券会社の場合は投資者保護基金、保険会社の場合は保険契約者保護機構が、それぞれその任を果たします。

 

しかし、銀行預金以外のデットの場合は、投資先の経営破綻のリスクは依然として残ります。例えば、証券会社が破綻した場合でも投資金は通常は戻ってきますが、証券会社を通して別の会社の社債を購入していて、その会社が破綻した場合、投資金が返済されるかどうかは保証の限りではありません。

 

ですから、国債など投資先(お金を貸す相手)が国家の場合には、銀行預金に近い安全性がありますが、地方債や社債などになると、相手先の安全性をよく見極めねばならなくなります。例えば、都債(東京都の債券)やトヨタ自動車の社債などのように、利益を潤沢に上げていて資本も内部留保も大きい相手であれば安心してお金を貸す(債券を購入する)ことができますが、アルゼンチンやギリシャのように破綻が懸念されている国の国債であると、購入がためらわれます。

ハイリスクでも買い手はつく

だとすると、アルゼンチンやギリシャの国債を買う人なんていないように思われますが、そうでもありません。なぜならば、リスクの高い投資先の場合(ハイリスク)、リターンも高くなるからです(ハイリターン)。

 

言い換えると、破綻のリスクがある国や自治体や会社が債券を発行する場合、金利を高くしなければ買ってもらえないのです。これをリスク・プレミアムと呼びます。プレミアムとは付加価値のことです。リスクがあるぶん、金利が付加されているからです。

 

例えば、今、市場でアルゼンチンの長期国債を購入すると、おそらく利回りは10%以上になるでしょう。一方、東京都が2017年6月に発行した公募20年債の金利は1.29%です。ハイリスク・ハイリターンのアルゼンチン債か、それともローリスク・ローリターンの東京都債か、どちらにもメリットとデメリットがあります。なお、2017年4月時点での日本の20年国債の金利は1.1~1.2%です。東京都は日本国とほぼ同じ信用度があるわけです。

 

ちなみに、アルゼンチン国債の利回りの高騰とは、同国債の価格の暴落とイコールになります。市場で売りに出ているアルゼンチン国債は、返済の期日(償還日)とクーポンとがあらかじめ設定されています。クーポンで保証された利回りはそれほど高くないのですが、アルゼンチン国債には信用リスクがあって買い手が少ないので市場では額面金額よりも低い価格で買うことができます。

 

このように低価格で購入しても、クーポンは額面価格に対して固定されているので、購入価格から見れば高い金利がつくことになります。

 

ところで、いくら債務不履行(デフォルト)のリスクがあるとはいえ、あれだけの国土を持つ国家であるアルゼンチンの債券の価格が、なぜここまで暴落するのでしょうか。

 

それには理由があります。まずアルゼンチン国債は2001年に実際にデフォルトを起こしています。当時、投資家の多くが紙屑になるよりはましと、ディスカウント価格で新たな国債との交換を受け入れました。いわば元本割れを経験しているわけです。また、現在のアルゼンチンはインフレに見舞われています。2015年のインフレ率は4月時点で19%弱でした。2016年はさらに高率になると予想されています。

 

金利が10%以上ついても、それを上回るインフレ率で、アルゼンチンの通貨ペソが安くなってしまえば、自国通貨(例えば円など)に戻すときに損をしてしまいます。

 

例えば、アルゼンチン国債(ペソ建て)の金利が10%だとすると、10年後には投資額が2倍になります。しかし、その間にアルゼンチンのインフレのせいでペソが毎年10%ずつ安くなっていたとすると、最終的に円に換算したときの金額は変わりません。手数料を引いたら損をしてしまうくらいです。

 

このように、外国通貨建ての債券や預金や株式に投資するときには為替の変動リスクもついてまわります。

本連載は、2014年7月29日刊行の書籍『インフレ時代の投資入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

インフレ時代の投資入門

インフレ時代の投資入門

杉浦 和也・前野 達志

幻冬舎メディアコンサルティング

仮に今、あなたに1000万円の預金があるとしましょう。安倍内閣が掲げるインフレ目標2%が今後毎年達成された場合、その預金の価値は毎年2%、つまり20万円ずつ目減りしていくことになります。預金の金利はもちろんつきますが、現…

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