所有している財産の土地に、賃貸物件を建築することで評価額が下がり、相続税も圧縮することができます。今回はまず、賃貸物件を建築するメリットなどを見ていきます。

下がる理由は賃貸物件特有の「不便な性質」と関連

相続税の節税対策として賃貸物件を建築することを、「相続税評価額を圧縮する」といい表すことがあります。これは、実際に所有している財産の土地に、賃貸物件を建築することで評価額が下がり、それに伴って相続税も少なくなることからきています。

 

なぜ評価額が下がるかというと、それは「建物や土地を自分の自由にできない」という賃貸物件特有の不便な性質と関連してきます。まず注目すべきは、「維持管理」の点です。オーナーの立場になるわけですから、そのアパートやマンションに何かしらの欠損などがあれば、修繕費用を出さなければなりません。空室があればその分の家賃収入が入らなくなりますから、住民募集の広告も打つことになるでしょう。

 

また、もし何かしらの原因が生じてアパート経営が難しくなり、賃貸の契約が更新できなくなったとき、最悪そのアパートの住人に立ち退いてもらうことになります。その場合、住人の方が立退きを了承してくれたとしても、立退き費用を支払わなくてはなりません。立退き費用の相場は、明確に定められているわけではありませんが、それによって生じる住民への迷惑料や引っ越し代(新居入居時の敷金・礼金等)、そのほか発生する費用等を踏まえて支払を行うことになります。

 

また、住人にそこに住み続けるための正当な理由があった場合、立退きに応じないどころか裁判沙汰になることも十分に考えられます。単純な更地と比べて、このような面倒なことが増えてしまう可能性があるのが賃貸物件なのです。ですから、更地などの土地に比べて賃貸物件の建っている土地の評価額が低くなるのは、当然ともいえるのです。賃貸物件の建っている土地の評価額は、同じ面積でも更地に比べて低くなるわけですから、もちろん相続税額も下がります。

減額割合は「借地権割合」によって異なる

ここで相続税評価額1億円の土地(更地)を持っている場合を考えてみましょう。

 

まず、更地に賃貸物件を建てたと仮定します。その土地の評価は更地の状態よりも約15~20%減額されます。減額割合は、その土地の所在している地域の「借地権割合」によって異なります。例えば、銀座などの都心部では借地権割合が90%のところも多く、一方で地方では30%のところもあります。

 

その地域の借地権割合が仮に70%だった場合、土地の評価額が70%分減額されるということです。また、その賃貸物件の賃貸割合(=入居率)によっても価額は変わります。要するに空室が少ないほど、減額幅は大きくなっていくのです。

 

仮に賃貸物件の賃貸割合を、1(=100%)とします。その上で、賃貸物件のオーナー(地主)が、70%減額できる地域(=借地権割合70%)に住んでいるとしましょう。その場合の計算は、1億円×〈1-0.7(借地権割合)×0.3(借家権割合)×1(賃貸割合)〉=7900万円となります。

 

土地の相続税評価額は7900万円であることがわかりました。次に考えなければならないのは、賃貸物件の相続税評価額です。建物の相続税評価額は「固定資産税評価額」が基礎となります。固定資産税評価額は、目安として「鉄筋」であれば建築価額の7~8割、「木造」なら建築価額の4~5割ぐらいです。

 

ちなみに固定資産税評価額は、自治体によって違ってきますので注意が必要です。たとえ同じハウスメーカーが建てた同じ規模の建物でも、場所によって固定資産税の評価額は変わってしまいます。

 

仮に1億円の建築費をかけて、鉄筋の賃貸物件を建設したとします。1億円の建築費に対して70~80%の割合で固定資産税評価額がかけられるというイメージですので、ここでは7500万円の固定資産税評価額がついていることとしましょう。そして、賃貸物件には貸家を減額してくれる「借家権割合」が適用されます。この「借家権割合」は、全国一律で30%減額と定められています。

 

よって計算は、7500万円(物件の固定資産税評価額)×〈1-0.3(借家権割合)×1(賃貸割合)〉=物件の相続税評価額5250万円となります。

 

評価額1億円の土地はもともと持っていて、そこへさらに1億円の建築費をかけて賃貸物件を建てたことになりますから、2億円を投じた財産となるわけです。しかし、この土地と建物は、賃貸物件として貸し出すことによって、評価額でいうと1億3150万円(7900万円+5250万円)になりますから、総合的には財産の価額が圧縮できたということになります。

賃貸物件建築のメリットは評価額の圧縮と家賃収入

賃貸物件の建築をすることによる最も大きなメリットは、相続財産額が大幅に減額されることにあります。さらに賃貸物件を建てることによるメリットとして、家賃による現金収入があります。家賃で得た所得は、相続時の納税資金に回せる可能性も出てきます。ただし、納税資金に関しては、遺産分割が成立するまでは被相続人の預貯金に手をつけられないため、絶対に機能するとはいい切れません。

 

こうした「土地・家屋の評価額減」「家賃による現金収入」が、「賃貸物件の建築」によって得られるメリットといえます。また、借入金などの債務があった場合、相続税の計算上、債務を遺産の総額から差し引くことになりますので、さらに遺産総額の価額が下がり、相続税額も下がることになります。

 

もともと土地というのは評価額をつけることが難しい割に、遺産の中でも特に高い評価額をつけられてしまうことがネックとなるものでした。その評価額を大幅に下げるだけでなく、その土地に「家賃収入」という収益性がつくのですから、こんなに素晴らしい節税対策はない、と思われてしまうのも無理はありません。これだけパーフェクトに思える「賃貸物件の建築」ですが、実際には大きなリスクが存在するのです。

本連載は、2015年9月1日刊行の書籍『得する相続、損する相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

得する相続、損する相続

得する相続、損する相続

岡野 雄志

幻冬舎メディアコンサルティング

2015年の税制改正により、都心部の土地所有者は相続税納税の可能性が高まった。ちまたに溢れる「賃貸建築」や「法人化」などの節税対策は、じつはリスクが非常に高い。目先の節税にとらわれてしまうと資産自体を無駄にしかねな…

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