前回は、不動産仲介会社による営業活動が、どの程度「空室対策」に効果があるのかを説明しました。今回は、「時代を捉えた」入居者獲得の方法について見ていきます。

「値段が安いから」買ってもらえる時代は終わっている

時代を捉えた入居者獲得の方法とは何でしょうか。それは仲介会社の営業マンではなく、入居者を見て物件づくりを行うということです。仲介店舗の来店者に物件を紹介するのは営業マンですが、最終的にどの部屋にするのかを決めるのはあくまで入居希望者です。

 

にもかかわらず、オーナーは仲介会社の営業マンのやる気を高めることに腐心し、営業マンは自分の売上を伸ばすために、悪く言えばオーナーの物件を利用してきました。

 

そうやって入居希望者が置き去りにされているうちに、ポータルサイトの検索システムが大きく進化し、仲介会社の存在意義が薄れたいま、本当の意味で入居希望者に選ばれる物件づくりが求められる時代になったということです。

 

筆者自身も賃貸業界に身を置く一人として、入居者ニーズに応える物件づくりを模索してきました。競合や賃貸市場の調査・分析はもちろん、現在の日本人の消費者ニーズが時代とともにどのように変化してきたのかを検証していく中、物件の成約のネックになっている一つの価値観が次第に見えてきました。

 

日本は戦後のモノ不足の時代から高度経済成長期に入り、大量生産・大量消費の時代を迎えます。努力して働いて所得が増えてきた人びとはモノの充足に喜びを感じ、「消費は美徳」と謳われたほどです。

 

ところが経済が成熟し、モノ余りの時代を迎えると、物質的には満たされた消費者の価値観が多様化し始めます。たとえ高価でも〝価値あるもの〟に相応の対価を支払うようになったのです。この傾向は第二次安倍政権による一連の経済対策(アベノミクス)によってデフレが解消しつつあるいま、より顕著になってきているといえます。

 

一方、消費者は価値がないと自ら判断したものに対しては、たとえ価格が安くても手を出さないようになりました。

 

さらに近年はモノに対してだけでなく、手数料といった〝見えないもの〟に対する支出も引き締める傾向が強まってきています。銀行のATM手数料は無料が当たり前になりましたし、メーカーと消費者の間に入って利ざやを得ていた問屋業も衰退の一途をたどっています。

 

こうした価値観の変化は、賃貸業界においても同様の現象が見られます。入居時に支払う敷金や礼金はもちろん、そのほかの仲介手数料や保証会社の家賃保証契約料といった諸々の費用を支払うことに対して、入居者が疑問を感じ始めているのです。

具体的な用途が見えない「礼金」は、やはり時代遅れ

2009年に発刊された『フリー』(日本放送出版協会)という書籍をご存じでしょうか? これは無料の商品やサービスからお金を生み出す新しいビジネスモデルを紹介した書籍です。この本の出版以降、「無料」というキーワードが一躍、世の中に躍り始めることになりました。

 

部屋探しの方法を覆したネット検索は無料ですし、多くの人が普段使っているフェイスブックやツイッター、ブログといったSNSサービスも一部を除けばすべて無料です。スマートフォンやタブレット端末のゲームや各種アプリケーションも無料版が大量に存在します。一定の条件を満たせばパソコンやタブレットが無料でついてくるプロバイダサービスも当たり前になりました。

 

こうして時代は大きく変化しているのにもかかわらず、ひとたび賃貸業界に目を転じれば、いまだ古い慣習が根強く残っていることに気づきます。その代表例が敷金と礼金でしょう。

 

敷金とは法律上、「借り手の債務(家賃の支払いなど)を担保するために、貸し手(大家)に渡すもので、賃貸契約終了時に、借り手に債務不履行がなければ返金するもの」とされています。入居者にとって敷金は大家に預けておくお金で、退去する際に戻ってくるのが前提です。その上で家賃の滞納が発生したり、退去時に修繕が必要になったりした際は、敷金から差し引かれて残りが返金される仕組みとなっています。

 

一方の礼金は入居時に大家に渡し、そのまま戻ってこないお金です。この礼金の発祥は諸説あるようですが、部屋を貸してくれた大家に対するお礼金という意味合いがあります。地方から大学進学で上京した学生の親が、下宿先の大家に「子どもをよろしくお願いします」という気持ちを込めて送ったのが始まりという説もあります。

 

敷金・礼金の意味や謂われがどうであれ、入居者にとっては両方とも〝目に見えない〟お金であることに違いはありません。百歩譲って敷金の目的は理解できますが、わざわざ入居時に支払いを要求しなくても、オーナーの費用負担が発生した時点で必要額のみを請求すればいい話です。礼金に関しては、時代遅れといわざるを得ないでしょう。

 

無料が当たり前のこの時代、具体的な用途が見えないお金を支払う文化が残っているのは、どう考えてもおかしいと思うのです。

 

敷金・礼金をもらわなければ地主業が成り立たないと思われるオーナーもいらっしゃるかもしれませんが、もともともらう必要のなかったお金を徴収し、それを収益としてしまっていた発想自体を見直さなければなりません。

消費者ニーズに応えることで物件に競争力を持たせる

用途の見えないものに対する支出は控え、価値あるものにお金を使いたい――。消費者ニーズの分析を進める中、筆者なりにたどり着いた日本人の現在の価値観です。

 

たとえばブランドもののバッグが好きな人は、日常の支出はいろいろ工面して切り詰める一方、何十万円もするブランドバッグは自分へのご褒美として購入します。ただし一括で支払うのではなく、分割払いを選択する人が多いはずです。自分にとって価値あるものは高額でもいとわず手に入れますが、かといって日々の生活レベルは落としたくないため、利息を支払ってでもリボ払いなどで負担を分散するのです。

 

これは住まいに関する価値観にも当てはまります。用途が見えない初期費用は払いたくない一方、自分にとって価値のある住まいには相応の家賃を支払うことには納得できるのです。この消費者ニーズに応えることで、オーナーの所有物件に圧倒的な競争力を持たせることは十分に可能です。

 

さらに入居希望者がインターネットで物件を探す時代を迎えたいま、ネット検索の時点で選ばれる物件づくりも同時に必要になってきます。ネットで確認し、他の物件との違いがひと目でわかる物件に仕立てれば、競合との入居者獲得合戦で生き残ることができるのです。

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    本連載は、2015年12月10日刊行の書籍『入居希望者が殺到する驚異の0円賃貸スキーム』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    池田 建学

    幻冬舎メディアコンサルティング

    大家が抱える最も悩ましいリスクは空室だが、これまで賃貸不動産で客付けをしようと思えば、「家賃を下げる」「リノベーションなどをして付加価値をつける」「広告料を仲介会社に多く払う」方法しかありませんでした。 にもか…

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