帝国データバンクの統計によると、医院機関の休廃院・解散はここ5年で3倍に急増、2014年には過去最多を更新しました。後継者のいない開業医がとるべきリタイアの最善策は、やはりM&Aです。連載第1回目は、クリニックM&Aを行う「理想のタイミング」について見ていきます。

「自分」が理想とする承継のタイミングはいつか?

クリニックM&Aを成功させる秘訣のひとつは、「理想の〝タイミング〟を見計らい、逃さず実行する」ことです。

 

開業医の先生向けにセミナーなどをする機会があると、いつM&Aを決めるのが正解かを聞かれることがあります。おそらく「民間企業の定年と同じ65歳」とか「借入金の返済が終わったとき」とか「収益がピークのとき」などといった、具体的な答えや目安を知りたいと思っての質問でしょう。

 

しかしクリニックをいつ承継するのが正解かという問いには、すべての人に当てはまる共通の答えはありません。唯一いえるとしたら、人それぞれにベストなタイミングがあり、それを設定することが開業医の課題だということになるでしょう。

 

何歳まで開業医を続けたいかは、人それぞれで違います。同じ50歳の開業医でも経営からは早めに手を引き、医業に専念したいという人もいれば、自分の采配で動ける開業医が性に合っているから、できるだけ長く続けたいという人もいます。すると、前者にとっては55歳あたりが現実的な年齢になるでしょうし、後者にとっては20年先でもまだ間に合うかもしれません。

 

大事なのは、自分が理想とする承継のタイミングを前もって考えておくことです。人生を先まで見通してライフプランを立て、それに合わせて〝承継どき〟を決めるのです。そして、そこに照準を合わせて様々な準備をし、機を逃さずに実行することが、最も安全で確実かつ理想的なM&Aのやり方です。

患者や家族など「関わる人たち」への配慮も必須

ただし、M&Aにかかる期間が約1~2年くらいだからといって、売りたい1~2年前になってから考えればいいという単純な話ではありません。すでに承継が差し迫った状況なら仕方ありませんが、前もって考えられるにもかかわらず放置しておいて、いざ1年後には必ず売りたいというのは少し無理があります。何よりも、患者が困惑してしまうに違いありません。

 

常連の患者になるほど、私の体のことを一番よく分かってくれていると信頼しているものです。死ぬまで面倒を見てもらうつもりの高齢患者もいるはずです。かかりつけ医は身近な存在だけに、患者にとって〝精神安定剤〟的な役割も果たしていると思うのです。それが急に行き場を失ったら、いくらクリニックは今まで通り残るとしても、今まで診てもらっていた先生がいなければ患者は安心できません。

 

だからこそM&Aが成立した場合は、後継の医師に診療に参加してもらいながら、従業員や患者が新しい医師に打ち解け、さらに実際に譲渡する間際に従業員や患者に伝えたほうがいいでしょう。

 

また、忘れてならないのは家族への相談です。院長の家族も心の準備のないまま収入が途絶えるかもしれない事実を伝えられれば、不安が募ります。それが原因で家庭不和を招きかねません。しっかりM&Aの条件を固めてから伝えたほうがいいかもしれません。

 

自身の希望を叶えるためには、関わる人たちへの配慮が不可欠なのです。

本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『開業医のためのクリニックM&A 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医のためのクリニックM&A

開業医のためのクリニックM&A

岡本 雄三

幻冬舎メディアコンサルティング

人口の4人に1人が高齢者という超高齢社会を迎え、社会保障費が年々増加を続けている日本。政府による医療費圧縮策や、慢性的な看護師不足、さらに後継者不足により、日本の開業医はかつてない苦境に立たされています。 帝国デ…

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