前回は、「MS法人」をつくる6つのメリットについて説明しました。今回は、MS法人によってどのように節税できるのか、簡単なシミュレーションを見ていきます。

贈与せずに配偶者や子に財産を移転できる「MS法人」

いくつもメリットを考えられるMS法人ですが、どのようにして節税できるのか簡単にシミュレーションしてみましょう。

 

被相続人が個人事業として経営する医院で、院長は毎年1500万円の個人所得を計上していたとします。これに対する所得税率は33%、控除額153万6000円で、税額341万4000円となります。毎年約1150万円の資産が積み上がり、何もせず10年経つと1億1500万円が被相続人の財産となります。1億1500万円に対する相続税額は、概算で2900万円となります。

 

今度はMS法人を設立した場合です。MS法人では配偶者を社長とし子1人を役員にします。MS法人には会計・窓口業務や経営管理業務を委託し、院長に入っていた1500万円の所得から、MS法人の配偶者と子に対する役員報酬・給与を捻出し、500万円の経費が計上されます。すると、院長は1500万円から500万円を差し引いた所得に対して、所得税として176万4000円かかります(各種控除は考慮しない)。

 

これによって院長は毎年820万円の財産が積み上がります。10年で8200万円です。8200万円に対する相続税額は概算で1760万円です。何もしなかったときよりも1140万円の節税となっています。

 

一方で、配偶者と子に対して500万円の役員報酬・給与が支払われています。内訳を配偶者に300万円、子に200万円としていた場合には、それぞれの所得税を差し引いても、毎年配偶者に約280万円、子に約190万円が支払われていきます。10年経てば、配偶者には2800万円、子には1900万円の財産が分散されていることになります。

 

MS法人を設立した場合、所得税と相続税が節税され、贈与せずとも配偶者や子に財産を移転することができるということになります。

 

MS法人設立前・・・所得税約3400万円(各種控除は考慮しない)、相続税2900万円

MS法人設立後・・・所得税3人合計で約2070万円、相続税1760万円

 

ここに住民税や給与所得控除、税理士報酬やその他の諸経費などが絡んできますので、細かく数字が変動する可能性はありますが、MS法人の設立による恩恵は大まかにこのように考えることができるのです。

代償分割に備えるリスクヘッジとしても機能

被相続人が個人で所有している賃貸不動産がある場合、それをMS法人に売却します。MS法人が賃貸不動産を購入することで、それ以降の利益が被相続人の懐に入るのを防ぎ、相続財産の積み上げを避けられます。

 

また、MS法人の株主を後継ぎの子にしておけば、会社からその子に報酬という形でお金が流れます。すると、贈与税を支払うことなく、被相続人の財産を後継ぎに移転することが可能になります。

 

MS法人に売却する賃貸不動産は、収益性の高い不動産であることが重要です。

 

被相続人にしてみれば、収益性の高い不動産を手放したほうが相続財産の積み上げが減って、相続税の節税になるからです。後継ぎにしてみれば、収益性の高い不動産のほうが、結果として自分に入ってくるキャッシュも大きくなります。

 

たとえば被相続人が個人で所有している賃貸不動産を3000万円でMS法人に売却したとします。被相続人には3000万円の現金が入りますが、その賃貸不動産が毎年300万円の収益を出しているとすれば、10年以上経過したときには3000万円以上の財産の積み上げとなるので、売却したほうが節税となります。

 

MS法人に入る収益は、社長や役員になっている配偶者や子に役員報酬・給与として分散することができます。その現金は相続税の納税資金にしたり、代償分割の原資としたりすることも可能です。

 

代償分割というのは、特定の相続人が財産を相続する代わりに、他の相続人に金銭などを与える方法です。たとえば、「長男がすべての遺産(5億円)を相続し、その代わりに長男が次男に代償金(1億円)を支払う」といったように行われます。

 

開業医の相続では医療法人にせよ、MS法人にせよ、自宅等の個人資産にせよ、どうしても後継ぎに財産分与が集中してしまいます。それは開業医という性質上、仕方のないことです。けれども、「仕方がない。開業医とはそういうものだから」と後継ぎ以外の相続人が納得するとは限りません。納得が得られなかったときのために、代償分割のための資金は用意しておくに越したことはないのです。

 

MS法人をつくることは単純に相続税の節税だけでなく、代償分割が必要になったときのためのリスクヘッジにもなるのです。

本連載は、2014年11月29日刊行の書籍『開業医の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策

開業医の相続対策

藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

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