有資格者である「看護師」「医師」の採用の進め方

医療業界全体が人材不足の中、どのクリニックも優秀なスタッフを確保しようと懸命になっています。今回は、5番目のポイントである「スタッフ採用」の中でも、看護師と医師の採用について見ていきます。

「気心が知れているから」と安易に雇うのは禁物

オープニングスタッフとして、大学病院など以前の勤務先で一緒に働いていた看護師を、積極的に雇いたがるドクターがよく見受けられます。昨今の看護師不足を考えると、その気持ちもよく理解できます。

 

“初めて会う看護師よりも、気心が知れているから”“ずっと一緒だったので技量がよくわかっている”などという点が採用のポイントなのでしょうが、実は、そのような“ 気心の知れた一緒に働いていた関係”であったことが、かえって災いして、両者の間に不和が生じることがよくあります。

 

そもそも、以前の職場においては、医師も看護師も双方とも雇用されている立場でした。しかし、開業後は、医師は雇う側、看護師は雇われる側になるのです。それぞれの立場はもはや違っており、その立場の違いゆえに、医師はこれまでと同じ感覚で看護師に接することはできなくなります。

 

本来であれば、看護師も雇われた際に置かれる立場が違うことを十分に理解していなければならないはずなのですが、なかなかそう簡単に切り替えはできません。例えば、看護師のタイムカードの押し方に問題があったので、院長としての立場から注意をしたとします。しかし、看護師の頭の中には、医師がまだ大学病院で勤めていた頃の「愛想がよく感じのいい先生」という印象が強く残っているかもしれません。

 

このようなギャップがある場合、看護師は「先生は開業して意地悪になってしまった!」とむくれて、院長に対して強い不満や反感を抱くことになってしまうのです。以前とはポジションが異なることを理解せずに、こうした雇用者と被雇用者との間における立場をわきまえぬ不満や反感が積み重なっていけば、両者の関係はただただ悪化していき、クリニック経営にも悪影響がもたらされることになってしまうでしょう。

 

こうした弊害が十分に起こり得ることから、単に気心が知れているという理由だけで、熟慮せず安易に雇ってしまうことは禁物です。本来であれば、たとえ昔馴染みであっても一般求職者と同じ日に求人面接を受けてもらい、同席している面接官の意見も参考にしながら、冷静に「採用すべきか否か」を判断するべきです。

 

しかし、採用したいと思っている看護師が、内視鏡の取り扱いに精通しており準備から洗浄まで迅速に完璧にできる、あるいは、臨床検査技師がマンモグラフィーの取り扱いを熟知しており安心して任せられるなど、高度の専門的能力を有しており、しかも他に該当者がおらず、是非とも採用したい人材であるような場合ならば、話は別です。

 

このような高いレベルの有資格者はそうそう簡単には見つからないでしょうから、むしろ、給与面を高く設定したり、福利厚生面を手厚くしたりといった特別待遇で迎えるべきでしょう。

分院展開に管理者となる医師の雇用は不可欠だが・・・

将来、分院展開をしていくことや常時2診制を導入していくことを考えているのであれば、開業後において、あらたに勤務医を雇用することも検討していく必要があります。医療法人として分院展開をする場合、2院、3院、4院……とクリニックの数を増やしていくためには、その分院数に応じた人数の医師を管理者として確保していかなければなりません。

 

仮に自分自身のほかに、父親、弟が医師だとします。その場合、3院目までは、管理者を身内で充足させることが可能です。しかしながら、4院目からは第三者を管理者である勤務医師として雇用することが必要不可欠となります。

 

しかし、通常は雇い入れた医師も何年か経つと自らが開業するために退職していくでしょう。その場合は、別の医師を新たに探さなくてはなりませんし、管理者交替にともなう役所への書類提出等の諸手続きも必須です。

 

雇用した医師が退職する度にこうした手続きが発生するわけですから、できるのであれば、同じ医師がずっと分院長を続けてくれることが最良の選択であることは言うまでもありません。

勤務医の雇用は「可処分所得のアップ」がポイント

それを実現するためには、開業意思を有さない医師に巡り合って、末長く分院長として働いてもらうことです。世間には、「リスクを負って多額の負債を抱えてまでして開業することを望まない」「常に勤務医でいる方が気楽でいい」「これからの医療を取り巻く環境を考えると、開業するよりも大きな組織の一員であるべきだ」という考えを持った医師も少なからずいます。

 

このような考えを持った医師に巡り合えば、長期的に安定した医院経営が実現可能となるのです。

 

しかしながら、こうした考えを持った医師に巡り合い、長く働いてもらえるケースばかりではありません。最終的に開業を考えている医師の方がやはり絶対数は多いといえます。そんな中でも、少しでも長く分院長を引き受けてもらうためにはどうしていけばよいのでしょうか。

 

雇われる医師としては、近い将来、独立開業することを考えているわけですから、当然のことながら、できるだけ多くの開業資金を貯めていきたいはずです。そこで、実質的な可処分所得をアップさせるようなシステムを構築するのです。「より長く働けば、より多くの資金を貯蓄できる」ということであれば、本人にも励みとなりますし、説得力もあります。

 

実質的な可処分所得をアップする方法のひとつとして、まずは、退職金支給規程を設けることが挙げられます。退職金に関しては、税制上の優遇があるため、給与として受給するよりは可処分所得がはるかにアップします。それも勤続年数が長いほど、その恩恵も大きくなります。

 

さらに支給額についても、勤続年数に応じて逓増していく計算方法を採用するのです。勤続3年ならば月給の3カ月分、勤続5年ならば月給の6カ月分、勤続10年ならば月給の15カ月分というように勤続年数が長くなればなるほど、支給される退職金もアップしていくのです。

 

また、自動車(社用車)を貸与することも効果的な方法です。もちろん、この自動車は渡し切りなので、クリニックへの通勤だけでなくプライベートでも使えます。貸与される医師の側からすれば、「課税後の自分の給料で自動車を買わないで済む」という点において可処分所得がUPします。貸与するクリニックの側にも「医院経費として計上できる(家事消費分を除く)」という点においてメリットがあります。

 

さらに、分院長が賃貸住宅に住んでいる場合には、医療法人が借主として賃貸借契約を締結して、そこを役員住宅とする方法もあります。分院長は理事にあたるので、家賃の50%相当額を自己負担すれば良いことになります。この方法を採用することで、やはり結果的に可処分所得がアップすることになります。

 

三種の何とやらではありませんが、「退職金」「社用車」「役員住宅」、これら全てを実行することで、勤務している医師に対してこちらの誠意が伝わり、またメリットも享受してもらえるので、分院長として長く勤めてもらえるはずです。

 

次回は6番目のポイント、「医療器械の選定」についてお話しします。

本連載は、2016年4月刊行の書籍『改訂版 クリニック開業読本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載成功する「クリニック 開業」のノウハウ

みなとみらい税理士法人 髙田会計事務所 所長 税理士

1965年生まれ。兵庫県出身。
1984年栄光学園高等学校卒業。
1988年上智大学文学部新聞学科卒業。
2002年税理士登録。
2003年神奈川県鎌倉市に髙田会計事務所を開業。
2011年税理士法人化をして神奈川県横浜市西区へ移転。みなとみらい税理士法人髙田会計事務所(東京地方税理士会横浜中央支部所属)となり現在に至る。2016年4月現在、スタッフ総数63名、顧問先総数837件の医科歯科に特化した会計事務所の所長を務め、これまでのクリニック開院サポート実績は600件を超える。

著者紹介

改訂版 クリニック開業読本

改訂版 クリニック開業読本

髙田 一毅

幻冬舎メディアコンサルティング

2000年から2015年の医療機関の倒産件数は527件。経営破綻した医科・歯科クリニックの8割は破産を選択せざる得なく、再起も難しい状況です。このような厳しい状況の中でも集患に成功しているクリニックが存在するのはなぜでしょ…

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