相続・事業承継 M&A
連載開業医のハッピーリタイアを実現する「クリニックM&A」の進め方【第7回】

基本合意書の締結から後継クリニックの診療開始までの流れ

M&A排他的交渉権デューデリジェンスクロージング

基本合意書の締結から後継クリニックの診療開始までの流れ

前回に引き続き、実際にM&Aを選択した場合、どのような流れで物事が進んでいくのか見ていきましょう。

基本合意書の締結まで進めばM&A成立はより近づく

前回に引き続き、実際にM&Aを選択した場合、どのような流れで物事が進んでいくのかを見ていきましょう。今回は、「基本合意書の締結」から「フォローアップ」までの流れを説明します。

 

[図表]クリニックM&Aの流れ

 

⑦基本合意書の締結

 

●大筋で条件が合意できたら、基本合意書を締結します。基本合意は、M&Aを実行する法的な義務を規定するものではありませんが、一般的には価格、譲渡スキーム、譲渡時期など、「これまで話し合ってきた内容で合意したことに間違いありません」ということを双方が意思表明するために交わされます。

 

●合意書には排他的交渉権などが織り込まれます。これによって、双方ともが当事者以外との交渉をできなくなるため、M&A成立に向けた大きな前進となります。

 

⑧デューデリジェンスの実施

 

●デューデリジェンス(DD)というのは、クリニックの資産的価値を適正に評価する手続きのことです。財務面でのDD、法務面でのDD、労務面でのDDなどがあり、クリニックの収益性やリスクなどを総合的かつ詳細に調査して、査定額を出します。

 

●DDは主に買い手のために行われます。目的は、クリニックの経営実態の把握とリスクの抽出、承継することで生まれる相乗効果の分析などです。

 

●DDによって売り手も見落としていたような重大な欠陥やリスクなどが見つかった場合は、金銭で換算できるものについては査定額からマイナスするなどの措置が取られます。金銭換算できないものについては、基本合意で合意された条件・内容を変更するための交渉が行われます。

 

⑨最終契約書の締結

 

●すべての交渉が済んだら、最終契約書(スキームによって持ち分譲渡契約書、合併契約書、事業譲渡契約書など異なる)を結びます。この契約を交わすことで、当事者にM&Aを実行する法的な義務が発生します。

 

●最終契約書には、双方がクロージングまでに行わなければならない事項が規定されています。各当事者がそれぞれの前提条件をクリアしない限り、クロージングへは進めません。

 

●新院長側は、契約を締結したらクリニックの診療開始に向けて、保健所や厚生局と届出手続きについての事前相談を開始します。

 

⑩クロージング

 

●対価の支払いをもってクロージングとなります。これによってM&Aが実行されたことになります。

 

●M&Aが無事に完了したら、アドバイザーへの報酬を支払います。

 

⑪後継クリニックの診療開始

 

●最終契約締結のめどが立ったあたりから、M&A後を見据えて後継クリニックの診療開始のための準備作業を始めます。

 

●クロージング後1か月くらいで診療開始するつもりで実行計画を策定します。

 

●後継クリニックの診療開始後に診療や経営がスムーズに滑り出すように、前院長と新院長との間で患者や従業員の引き継ぎや、労務管理の擦り合わせなどを行います。カルテの引き継ぎは自治体によって対応は異なりますが、愛知県の場合はおおむね3か月以上一緒に診療をすれば認められるようです。

 

●労務管理の擦り合わせでは、次のような項目を重点的に行います。(労働時間、各種手当の支給額、休日・休暇関係、宿直・日直の取り扱い、勤怠管理、退職金、年次有給休暇、就業規則、給与規定、その他労使慣行)

診療開始後は「従業員の不安解消」が最も重要となる

⑫フォローアップ

 

後継クリニックの診療開始に向けて、新院長はクリニックの大きな方向性を従業員に示さなければなりません。そのメッセージにより不安を和らげ、モチベーションを高める効果があります。大きな方向性とは、理念=診療方針であり、そこに向かって進めていこうと呼びかけるものです。

 

診療開始後は従業員の不安解消が最も重要になります。従業員にとっては、新しい体制になってリストラされてしまうのではという不安が付きまといます。

 

また、スタート時点の賃金については、特殊なケースを除き、月例賃金水準を引き下げないというのが基本的な対応となりますが、改革が必要なこともあり得ます。その場合は、期間を限定して、通常は1年程度の移行期間を経てから適正な水準に移行します。

 

従業員にとっては、賃金水準についての不安も少なくありませんので、慎重な対応が求められます。ただし、一部の手当などが形骸化して実質を伴わない場合や、複数の複雑な手当に分散している場合などは、調整手当の名目に統合して対応することができます。

 

一方、賞与については従来と同水準を確保できない場合もあります。事前の説明の段階から「賞与はあくまで業績しだいであること。業績を向上させるためには、これまで以上の努力が必要であること」を伝えておくことが重要になります。

 

クリニックをM&A募集に出してから、M&Aが完了するまでの期間は、1年~2年くらいです。マッチングや条件交渉がスムーズに進めば、半年というケースもあります。

 

すでに経営者が高齢で承継が差し迫った課題であるとか、経営に疲れて一刻も早く承継をしてしまいたいといった状況でも、M&Aなら比較的短期間でゴールできる可能性が高いといえます。

 

親子承継にこだわって、子どもとの関係を悪くしながらずるずると経営を続けたり、アテもなく身近で承継先を探したりしていることを思えば、ずっと効率的でスピーディーな方法です。

本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『開業医のためのクリニックM&A 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

岡本 雄三

岡本雄三税理士事務所 代表
株式会社MARKコンサルタンツ 代表 

岡本雄三税理士事務所代表。株式会社MARKコンサルタンツ代表。税理士、行政書士、宅地建物取引士、M&Aシニアエキスパート、経済産業省認定経営革新等支援機関。1967年生まれ。1991年、早稲田大学商学部卒業。1998年、岡本雄三税理士事務所開設。2000年、公益社団法人日本医業経営コンサルタント登録。個人医院の開業、医療法人の設立、税務など、医業コンサルティング業務のほか、一般法人の税務、事業承継、M&A支援、資産税にかかわるコンサルティング業務を手掛ける。

著者紹介

連載開業医のハッピーリタイアを実現する「クリニックM&A」の進め方

開業医のためのクリニックM&A

開業医のためのクリニックM&A

岡本 雄三

幻冬舎メディアコンサルティング

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