今回は、物件選びの選択肢の中でも、「医療モール」に入る際の問題点と、土地を買って自分で建築する「自己所有」の注意点についてお話しします。

「医療モール」は患者を奪い合うおそれもあり

集合医療施設テナント(医療モールや医療ビレッジ、医療ビル)に入居する場合の問題点について確認しておきましょう。

 

はじめにそのメリットですが、集合医療施設は、専門性の高いクリニックが複数科目集まるため、集患面における相乗効果が期待できますし、また一般的に合同での駅看板や新聞の折り込みチラシ、ポスティング等を使った広告・宣伝活動も積極的に行われるので早期に認知度も上がります。

 

さらに、集合医療施設は、調剤薬局が主導して展開するケースが多く、こうしたケースにおいては、薬局側から様々なサービスが提供されることになります。多岐にわたる医薬品を常備することはもちろん、最後の患者が帰るまで薬局を開けておくことや休診日が異なっている場合でもどこかのクリニックがひとつでも診療していれば薬局を開けておくことなど、集合医療施設ならではの配慮が数多く見られます。

 

また、複数のクリニックが存在するため、院長間のコミュニケーションやスタッフへの気配りにも目が行き届きます。

 

このようなメリットだけに着目するならば、集合医療施設は、ドクターの立場からすると全く申し分のないように映るかもしれませんが、開業前には見えにくいデメリットも潜んでいるので注意が必要です。

 

まず、複数科目のクリニックが集まる結果として、診療科目によっては患者の奪い合いとなることがあります。例えば、喉の不調などは内科と耳鼻咽喉科のどちらでも診察が可能です。このような診療対象が重なる症状に関しては、目と鼻の先に競合クリニックがあることになるため、「他科に患者を奪われたらどうしよう」というストレスを感じることになるかもしれません。

 

ことにインフルエンザの予防接種に関しては、どの診療科目でも実施するため、クリニック間で軋轢が生じる原因となることがよくあります。実際にあった例としては、内科クリニックが「他科が予防接種をしないように!」と医療ビル管理者にインフォメーションの通知をせまったケースや、あるいは、眼科が予防接種を行っていたため、内科のドクターと喧嘩になったケースなどがあります。

 

この例が示唆するように、集合医療施設では、こうした受診科目の重複やドクター同士の行き違いなどが発端となって、クリニック間での対立が生じ、その結果、院長同士が全く口をきかない関係になることもあるのです。

 

医療ビル内の整形外科に通っていた患者が、診察後に、「胃の調子が悪いので、どこか紹介してもらえませんか?」と尋ねたら、「下のフロアの内科だけには行かない方がいいよ」という答えが返ってきた、そんな話を聞いたこともあります。

 

このような不和や争いごとが良い結果をもたらすはずがないので、集合医療施設で開業する場合には、他のクリニックとのバランスに気を配り、十分なコミュニケーションを培っていく心遣いが必要となってくるでしょう。反対に、こうした配慮が鬱陶しいと思うのであれば、集合医療施設は候補から外して考えていくべきでしょう。

「思いのまま」に建築できる自己所有だが・・・

最後は、自己所有(土地を購入してクリニックを建設する)の場合の注意点です。

 

ケースとしては、診療圏調査をした結果、集患が確実に見込める場所であるにもかかわらず、なぜかテナントが全くない……こんなエリアでの開業を考えているのであれば、この「自己所有」という開業方法は文句なくお勧めできます。

 

何しろ他にはライバルがいないのですから、独り勝ちすることが最初から約束されているようなものです。また、職住近接を望むドクターにとっては、これ以上はないまさに究極の理想型といえるでしょう。

 

しかも、この方法を選択する場合、低利な住宅ローンを活用することが可能です(一般的に住宅ローンは、延床面積の50%超が居宅部分であれば利用が可能です)。いわゆる住宅ローンのほとんどは頭金ゼロを売りにしており、自己資金不足であっても、借入によってカバーできるため、妥協せずに自分の理想のフォーマットでクリニックをオープンすることが可能となります。

 

さらに、テナントや集合医療施設のように既存の物件に入居するわけではなく、全くゼロから建築するので思いのままのプランニングが可能となります。

 

例えば、兄が内科医で、弟が産婦人科医であるなど、兄弟あるいは親子が各々異なる診療科目のドクターである場合には、各々が資金を投入して、ひとつの土地に複数科目が同居するクリニックを建築して相乗効果を目指すこともできるでしょう。

 

しかしながら、この方法には大きなリスクがあることも否定できません。まず、万が一、経営がうまくいかなかった場合において、やり直しがきかないという危険性があります。

 

仮に選んだ場所が見込み違いで思うような集患を得られなかったとしても、テナントや集合医療施設の場合であれば、最悪、賃貸借契約を解除してまた別の物件を探す方法がありますが(もちろん投下資金のロスは発生しますが・・・)、「土地を購入して、さらに建物も建築して・・・」という選択をする場合には、うまくいかなかったからといって簡単に廃院して他の場所に移転というわけにはいきません(ダメな場合は、その地を住居として割り切ってしまうという考えがあれば、当該リスクを払拭することは可能です)。

 

また、開業時に負担する借入金の額も他の2つのケースと比較すると、はるかに大きくなることも不安要因のひとつであるといえます。土地の購入価額次第では、スタート時から2億円近い負債を抱えることもままあります。借入金が大きいということは、それだけプレッシャーも大きくなるので、それなりの覚悟も必要となります。

 

このように、自己所有という形態を選択することは、失敗時のダメージが甚大で、負債の額も過大となる可能性が高いため、テナントや集合医療施設で開業する場合と比較して、シミュレーションを行う際に各部まで詳細に十分な時間をかけて、より慎重な開業計画を立案していく必要があるでしょう。

クリニックの将来形に対するドクターの願望も考慮

開業時にはどうしても資金的な制約があるため、クリニックの面積や内装設備、さらには医療器械の種類やレベル等に関して、自分の思い通りにいかないことが多いでしょう。しかし、もちろん“今は我慢するけれども、経営が軌道に乗ったら、いつかきっと……”という願いは持ち続けることができます。

 

そこで、物件を決定する際には、このようなクリニックの将来形に関するドクター自身の願望も考慮に入れた上で計画を立てておけば万全です。

 

例えば、「将来的には、オペ室を増設したい」と考えているとしましょう。口腔外科はもちろんのこと、眼科であってもレーシック手術を行うのであればオペ室が必要となりますが、オペ室を設けるためには多額の費用が余分にかかるので、開業時点では断念するドクターも少なくありません。

 

では、開業後、経営が軌道に乗り、資金的な余裕ができてオペ室を設置可能な状況になった場合には、開業時の願望を思い通りに実現することができるのでしょうか……。もしかしたら、それまで意識していなかった大きな難問に直面するかもしれません。
“オペ室としてさらに20坪のスペースが必要なのに、今のクリニックは40坪しかない!”

 

このような事態は当然、起こりうることです。もちろん、そこで60坪以上の物件に移転するという選択肢もありますが、開業時の苦労を考えれば想像がつくように、クリニックの移転には並々ならぬエネルギーと莫大な資金が必要となります。そもそも近隣に、都合よく条件をぴったりと満たす物件が見つかるとは限りません。

 

このようなケースからもわかるように、将来的に実現したいクリニックの具体的なイメージがある場合には、その実現が可能となるような物件を開業当初から選んでおくことができるのならば、理想的であるといえるでしょう。

 

ちなみに、オペ室の将来的な増設を想定した場合の物件選定方法には、以下の2つの方法があります。

 

①将来的にオペ室を設置できるように、該当面積を事前に確保しておく
例えば、60坪のスペースを借りて、そのうち20坪については開業当初は内装工事を実施せず、壁で仕切っておいて診療室や待合室等と分離した状態にしておきます。資金的に余裕ができた時点で、必要な医療器械を追加購入し、内装工事を施してこの20坪のスペースにオペ室を設置すればよいのです。

 

ただし、この方法を採用すると、空きスペースの20坪については、開業からしばらくは放置したままなので、未利用部分の賃料を払い続けなくてはならないという難点があります。

 

②賃貸マンションの1階にあるテナントを借りる
こうしておけば、いざオペ室が必要になったときに、院長室や医局等スタッフスペースを上階のマンション部分へ移動するという方法が選択可能です。スタッフスペースを移動した結果、オペ室用のスペースが生まれるため、増設が可能となるのです(クリニックに構造上の一体性を求める規制は、院長室や医局等のバックヤードについては適用されません)。

本連載は、2016年4月刊行の書籍『改訂版 クリニック開業読本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 クリニック開業読本

改訂版 クリニック開業読本

髙田 一毅

幻冬舎メディアコンサルティング

2000年から2015年の医療機関の倒産件数は527件。経営破綻した医科・歯科クリニックの8割は破産を選択せざる得なく、再起も難しい状況です。このような厳しい状況の中でも集患に成功しているクリニックが存在するのはなぜでしょ…

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