葬儀や墓地費用などを含めた「老後資金」はいくらかかるのか?

前回は、簡易診断シートと家族のアルバムを利用して、自分の財産を知る方法などを説明しました。今回は、老後を安心して暮らすための「老後資金」の目安などを見ていきます。

病気・介護・葬儀・・・「老後資金」はいくら必要か?

 

源太郎はテーブルの上に広げた旅行雑誌に目を落とした。

 

「相続のことがすんだら、行ってみようよ」

 

ビールとつまみを運んできてくれた美千子に、「地中海周遊10日間プラン」のページを示す。

 

「ヨーロッパはお金がかかるから・・・」

「いいじゃないか。たまにちょっとくらい贅沢しても生活に響くわけじゃなし」

 

退職金は一部を住宅ローンの返済に回したが、7割程度は残ったので貯金してある。他にファンドなども持っている。夫婦二人の生活費は厚生年金で賄っており、家の補修や、海外旅行などの大きな出費以外で貯蓄を切り崩すことはない。

 

「私だって買いたいものや行きたいところはあるけど我慢してるのよ。月々の年金でやり繰りするのは楽じゃないんだから」

 

「だからそんなに我慢しなくてもいいじゃないか。貯金もあるんだし」

「それはちょっと自分勝手でしょう」

 

珍しく美千子が気色ばんだ。

 

「どちらが先かはわからないけど、あなたが先に亡くなった時には、私はどうやって生きていけばいいの?」

 

源太郎もそのことについて考えたことがないわけではない。美千子が一人になっても現在支給されている年金の半額が遺族年金として支給される。自宅は持ち家だから家賃は要らない。ある程度の貯蓄が残っていれば暮らしに困ることはないだろう。そう思ってきた。

 

「ある程度ってどのくらい?」

 

問い詰められて源太郎は返答に窮した。一家の財布を美千子に任せてきただけに、老後資金はどのくらい要るのか、さっぱりわからない。

 

「ギリギリに切り詰めなきゃ暮らせないというのでは辛いわ。それに、もし認知症になったり身体が不自由になったりしたら、介護施設に入所することも考えないといけないでしょ。私とあなたのお葬式費用だって私たちの財産から出さないといけないし」

 

「そのあたりのことも、由井先生に訊いてみるか」

年金とは別に2000万円程度の資金が必要!?

最初に訪れた日からちょうど一週間後、源太郎と美千子は再びY相続センターを訪れた。数日かけて源太郎が作成した簡易診断シートはすでにファックスで送ってある。

 

「これが、亀山さんの診断結果です」

 

由井が出してきたのは4ページにわたる分析シートだった。財産の現状や老後資金のこと、相続のシミュレーションや相続税額などが詳細に分析されている。

 

「ただし相続のことを考えるよりも前にチェックしておくべきことがあります。今後亀山さんたちが暮らしていくための老後資金も手持ちのお金で賄うわけですから、そちらについてもしっかり把握しておかねばなりません」

 

まさに、美千子が心配していたことだ。

 

「供養の費用なども、考えておきたいんですけど」

 

美千子がつけ足す。

 

「まずある程度余裕を持って暮らすには年間どのくらいの資金が必要なのか考えてみましょう。現在の厚生年金は月額25万円でしたね。持ち家ですし、それで特にギリギリの暮らし、という感じではないと思いますがいかがですか?」

 

「はい」

 

美千子がうなずく。

 

「特に問題なくやり繰りできています」

 

「それではこの金額をもとに計算してみましょう。月額25万円ですから、年額にすると300万円。美千子さんが90歳になるまでを計算してみると、7500万円かかります。あと先ほど奥様からご質問があった供養の費用ですが、財団法人日本消費者協会が2010年に行ったアンケート調査によると、全国平均でほぼ200万円となっています。お二人分だと400万円ですね」

 

[図表1]亀山家の資産負債の診断結果

 

気楽に考えていたが、具体的な金額を出されると決して安くはないという印象を受けた。

 

「お墓にかかる費用は大きさや場所、墓石などによってかなり違います。一般的には、『墓地の永代使用料』『墓石を建てる費用』『永代供養料』『墓地の購入費用』の合計が供養のコストになります。先日お話ししたように、お墓は相続税の課税対象ではありませんから、先に作っておくとそれだけ相続財産を圧縮できる、というメリットがあります」

 

電卓をパチパチと打ちながら由井が続けた。

 

「こういった老後のコストに対して、源太郎さんの年金は月額25万円です。源太郎さんにもしものことがあった場合には、年金は半分に減額されてしまいます。不吉なことを口にして申し訳ないのですが、古希の男性の平均余命15年はお二人でこの金額を受け取り、残り10年はお一人で遺族年金13万円を受け取るとして計算すると、収入は25年間で6060万円になります。年金とは別に、2000万円程度の資金は確保しておきたいところですね」

 

「そんなに・・・」

 

想定を大きく超える数字に、源太郎は言葉を失った。

 

[図表2]老後の出費と収入

 

「はい。数字の大きさに驚かれるかもしれませんが、逆に言えばそういったこともしっかり考えた上で立てた相続対策なら何があっても安心ですよね」

 

言われてみればその通りだ。源太郎はうなずいた。

 

自分と美千子が余裕を持って暮らせるだけの老後資金をしっかり確保できたら、やみくもに節約しなくても、その範囲内で安心して人生を楽しむことができる。

本連載は、2015年2月27日刊行の書籍『家族のトラブルをゼロにする生前の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載家族のトラブルをゼロにする「生前の相続対策」

株式会社関総研結い相続支援センターアズタックス税理士法人 代表公認会計士・税理士

1948年生まれ。香川大学経済学部卒業後、大阪国税局に入局。等松・青木監査法人(現有限責任監査法人トーマツ)を経て、1978年関公認会計士事務所を開設。1983年に株式会社関総研を設立、2004年には株式会社関総研財産パートナーズを設立、そして2013年10月大阪証券取引所ビルに相続・資産管理支援専門の「結い相続支援センター」を開設した。日本M&A協会副理事長。

著者紹介

家族のトラブルをゼロにする 生前の相続対策

家族のトラブルをゼロにする 生前の相続対策

関 博

幻冬舎メディアコンサルティング

平成27年1月、改正相続税法が施行されました。中でも基礎控除の4割縮小により、今まで相続税がかからなかった家族も課税されるケースが増えることが話題となっています。うちの家族は仲がよいから大丈夫、あるいは財産が多くは…

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