前回は、ときに高額な相続税が必要となる「借地権」相続時の問題点を挙げました。今回は、その具体的な解決策について見ていきます。

土地へのこだわりを捨てて売却し、新たな住居を探す

前回は、世田谷在住で、150坪ほどの借地に自宅とアパートを所有するDさんの相続時の問題点として「借地権とはいえ高額な相続税になる」「小規模宅地等の特例が使えない」をあげました。今回は、その解決策について見ていきます。

 

●解決策1 解体、立ち退き処理なしでアパートを売却
評価額の高い借地権に加え、小規模宅地等の特例が使えない状況を踏まえると、そのままこの土地にこだわらず売却する方向性が見えてきます。売却して節税効果と納税資金を考えた上で新たな住居を探す方が明らかに賢明です。

 

そこで今度は、こちら側から不動産会社に借地を買ってくれという交渉をしました。すると不動産会社は土地を買い取るのはやぶさかではないが、それだったらアパートの入居者を全員立ち退きさせてから、という条件を提示します。

 

これは常識的に考えれば当たり前の主張ではありましたが、Dさんの年齢、病状、体調の面を考えると立ち退きなどで何カ月もの時間をかけるとその間に何が起こるかわからないので、なるべく早めに対策を進めなければいけないと感じていたのです。

 

そこで、立ち退きをしないまま売却する方向で交渉することを考えました。実のところ、アパートの全入居者を立ち退きさせてしまうことは、不動産会社にとって本当に適切とは言い難かったのです。不動産会社は借地を購入した後には、おそらく分譲して活用していくことになります。ただ150坪もある土地です。そのすべてを分譲して活用するのもありかもしれませんが、アパート1棟を残していても十分に活用できるはずです。そこで相手に区画割りをしてみてください、と伝えます。区画割りをすればアパートを残すべきかどうかが見えてくるからです。

 

また、実はアパートをそのまま残しておけば、買い取った後もすぐ収入が得られるというメリットもあります。アパートの入居者を追い出してしまうと分譲してマンションなどを建てて収益を出すまでは無収入の土地になってしまいますが、アパートをそのまま経営していればその間でも家賃収入が手に入ります。

 

さらには、こちらで立ち退き処理をしないにしても、土地を売却する金額の総額から立ち退き料として必要になる分を差し引くことにしました。立ち退き料は1人当たりの入居者の家賃、年収、入居年数などを考慮して、これだけの金額を渡せば断られることはないだろうという金額を試算しています。また、解体する場合の費用も総額から差し引いて、家主にはオーナーが代わったということを伝えての引き継ぎも行うという条件をつけました。

 

そこまで提案したところで、不動産会社は合理的な試算に基づいているし、決して損することにはならないと納得して、アパートもそのまま買い取ることを決めてくれました。これによって、次の対策へもスピーディーに取り組めることになったのです。

収入面の不安は賃貸併用の二世帯住宅で解消

●解決策2 最善の引っ越し先と居住方法を決める
売却はうまく折り合ったところで、次の問題は引っ越し先です。Dさんは生まれてからずっと世田谷に住み続けているということで、売却するなら同じ世田谷区内での引っ越しを希望するということでした。

 

ところが、同じ世田谷区内で新しい住居を探すとなると、どうしても土地が坪140万~150万円ほどと高額になるので、今までと同じ程度の広さの土地で考えると価格は2億円を超えてきます。借地の売却で得たお金ですべてを捻出できることは考えにくく、だからといってアパートも手放していますから、73歳にして借金を新たにするということも難しい問題でした。

 

引っ越し先については、世田谷区だけでなく隣接する杉並区、三鷹市、調布市や少し離れた川崎市や稲城市の物件情報などを集めて検討していたときに、相続案件でお世話になっていた別のお客様から川崎に相続対策で売却したいという土地があったので、その土地の情報もいち早く確認し、検討することにします。

 

そこは70坪の角地でしたが、川崎ですから金額としても世田谷ほど高くなく、建物を建てても現金には余裕が残せます。引っ越し先の条件として適した物件でした。ただ、Dさんが世田谷を出ることに抵抗があることも知っていたので、世田谷から多摩川をまたいで川崎に越すことによって、今後の生活がどうなるか、またどのような相続対策になるのかを、しっかりと示さなければ納得してもらうことは難しいと感じていました。

 

そこで行き着いたのが、川崎に賃貸併用で二世帯住宅を建てるという提案です。同じく世田谷で実家の近くに持ち家を持っていた息子夫婦にもその家に越してきてもらうことを考えました。その理由は、川崎になったとはいえ、今度は借地ではなく土地そのものを持つことになりますから、その土地を相続するときのことを考えてのことです。

 

二世帯住宅というのは、以前は小規模宅地等の特例では建物の内部でつながっていなければならず、適用が厳しかったのですが、平成26年の改正によって内部で行き来できなくても同居として認められるようになりました。つまり、この二世帯住宅に長男夫婦が一緒に住んで長男が相続することになれば、小規模宅地等の特例は難なく適用できることになります。川崎の土地は70坪で、当時の路線価では6000万円程度でしたが、二世帯住宅で一緒に住めばさらにそこから80%差し引かれるので、せいぜい1200万円の評価額ということになります。ここまで下がれば建物を含めても相続税はほとんどかからない算段です。

 

長男は今の持ち家を売却することになりますが、売却で得たお金を納税資金にも今後の生活費にもできます。さらに二世帯住宅を建てれば新築に住めるわけですし、自身や中学生のお子さんの希望などを相談することもできますから悪くはない話です。

 

そして、長男に二世帯住宅を残すということは、長女には何か別のものを用意しなければなりません。そこは、川崎に建物を購入することで余剰金が出ているので、その現預金から用意することにしました。世田谷区では余剰など出る余地もなかったと思いますので、川崎に移す意味はここにもありました。

 

それから、Dさんの今後の収入がないということも解決しなければならなかったので、賃貸併用住宅にしました。賃貸併用住宅とは、同じ建物の中で自分の居住地と賃貸部分とを設けた建物です。これなら家賃収入によって生計や今後の資金繰りを考えることができるのです。

 

この提案について一通りご説明すると、Dさんはそれが子どもに迷惑をかけないことになるならと納得してくれたのでした。川崎に引っ越すことにはなりますが、それによって遺産分割の心配がなくなり、納税資金も問題なく、相続税も節税となるプランが出来上がりました。今所有している土地に固執していたら、これほどバランスの取れた対策にはならなかったはずです。

孫にまで配慮した相続対策で皆が納得

今回の相続対策について長男夫婦に伝えると、引っ越すことも、今の持ち家を売却することも快諾してくれました。持ち家についても購入から15年近く経っていて、そろそろ建て替えやリノベーションを考えていたそうなので、父と相談しながら間取り等を決められるなら何の問題もないと言ってくれました。

 

それよりも長男は父であるDさんが越境することを認めたことに驚いていました。今までDさんは土地を守りたいと考えるタイプだったので、まさか多摩川をまたぐ決断をするとは、と意外な心地だったようです。しかし、だからこそ、子どもに迷惑かけたくないというDさんの気持ちを強く感じてうれしかったとのことでした。

 

また、嫁にいった長女も現預金をくれるならその方がうれしいと納得してくれました。Dさんは、現預金をある程度確保しておくためにも、結局一部借金をして建物を建てましたが、賃貸を併用することで毎月のローンを返しても余りある家賃収入を得られるので、その後の生活には問題ありませんでした。むしろ、現預金がさらに積み重なっていくことが考えられたので、相続税が高くならないように、年に何回かは旅行して、しっかりと使い切ってくださいとお伝えしました。

 

そして実は、今回の相続対策で最も配慮をしたかったのは長男夫婦の子、つまりDさんにとっての孫でした。当時、中学2年生で世田谷から川崎への引っ越しですから、通常であれば学校が変わることになります。しかし思春期ということもあり、学校が変わるということがいろいろな影響を及ぼす懸念もあり可哀想なことだったので、学校を変えなくてもいいようにできないかと教育委員会に申し出ました。

 

本来は東京都と神奈川県ということで都道府県をまたがり、行政区も異なるので転校せざるを得ないということになるのですが、多感な歳ということを配慮して、行き帰りの通学を親が送ってあげられるなら、という条件のもと、認めてくれたのです。

 

お父さんは、それで娘が転校しなくてもいいならと喜んで承諾し、高校生になるまで毎日娘を学校まで送り迎えをすることを決めてくれました。これによって相続対策の方向性は完全に確定し、実施段階でも何の問題も起きませんでした。皆が納得して順調に生活しつつ、いつ相続が起こっても誰も困らない状態が出来上がったのです。

本連載は、2015年12月10日刊行の書籍『税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策

税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策

株式会社財産ドック

幻冬舎メディアコンサルティング

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