これからは誰もが個人で将来のための資産形成に取り組み、資金を管理・運用していく時代です。本連載は、元銀行員でファイナンシャル・プランナーの高橋忠寛氏の最新刊で、2015年10月に刊行された『銀行員が顧客には勧めないけど家族に勧める資産運用術』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋し、お金との上手な付き合い方や、効率のよい運用に役立つヒントを紹介します。

投資でもっとも大切なのは「出口戦略」

資産運用では、「どのような商品を選べばよいのか」とか、「どのような投資法がよいのか」「どのタイミングで投資すればよいのか」など、入口の話ばかりが語られます。金融機関の営業担当者にとっても、投資をスタートさせることや追加投資のサポートをすることが仕事の中心だから、なおさらです。

 

しかし、本来いちばん大切なのは、資産運用の出口戦略を考えることです。

 

出口戦略については、損切りや利益確定の方法など、主として短期的な取引における話は語られますが、長期投資における出口戦略の話はほとんど語られることがありません。長期投資の出口戦略は、20年後、30年後という遠い将来にやってくる問題なので、現時点で真剣に考えている人がほとんどいないのでしょう。

 

金融機関側からすると、提供している金融商品の利用を引き揚げることにつながるアドバイスをするはずがありません。もし、出口戦略のサポートに力を入れている営業担当者がいるとすれば、次に何か別の取引につながる可能性があるためだと考えるのが自然です。

 

しかし、長期投資における出口戦略こそ、真剣に考える必要があります。積立投資をしている人は、自分の年齢が上がるにつれて、どんどん資産が積み上がっていき、同じ10%の変動であっても影響を受ける金額が大きくなります。そのまま平穏にマーケットが値上がりし続けていれば問題ありませんが、たとえば65歳くらいになったときに、リーマンショックのような大暴落が起ったら、それまでせっかく積み立ててきた資産の半分くらいを失うことになってしまう恐れもあります。

 

そうした危険を回避するために必要なのが、出口戦略です。出口戦略として大切なのは、お金が必要となる時期に合わせて、値動きが安定するような配分に少しずつ移行していくということです。単純に、リスク資産への投資割合を減らしていくだけのことです。

年を重ねるごとに急な出費が必要になるケースが増える

では、どのタイミングで、投資に回している資金の額を減らしたらよいのでしょうか? 私が考えるゴール設定は、給与所得者であれば定期収入がなくなるタイミングです。つまり、定年を迎えるころからリスク資産の運用比率を引き下げていくのが理想です。

 

そのためには、定年を迎えるよりも少し早い段階から、退職後のライフプランを考えておくことが重要です。

 

もらえる退職金の額やその後の収入見込みを踏まえてキャッシュフロー表などを作成し、資金計画を考えます。万が一病気になったときや介護が必要になったときにどうするか、いずれは老人ホーム等の施設に入るのかなど、出ていくお金も同時に把握してイメージしておく必要があります。

 

年を重ねるごとに、急にお金が必要になるケースも増えていきますので、何かあったときにはすぐに動かしやすいように少し早めに価格変動の少ないポートフォリオに移行していきます。

 

たとえば、75歳までに4000万円の投資資金を1500万円程度まで引き下げて、2500万円はいつでも動かせる資金として確保しておきたいと考えたとします。その場合、10年前から少しずつ準備を始めます。65歳で4000万円を3500万円に引き下げ、68歳で3500万円を3000万円に引き下げます。さらに、70歳で3000万円を2500万円に引き下げ、73歳で2500万円を2000万円に引き下げます。

 

その後、75歳のときに同様にリスク資産への投資比率を下げていけば、75歳ではリスク資産の投資金額が1500万円まで下がります。あとは自分の意欲が続く限り、この1500万円を運用し続けます。

 

これはあくまで一例です。どのくらいの資産を保有していて、どの程度の生活水準をしていくかによっても各個人で大きく異なります。

 

そして最後に、投資資金として残しておいた1500万円を、いつの時点で止めるかということですが、これは自分で運用しようという気力がなくなったときです。もちろん、ほかの資産があって1500万円はそのままにしておいても大丈夫な場合、頭の体操を兼ねて運用は続けたいとか、相続資産として運用資金もそのまま家族に引き継ぎたいというのであれば、自分自身で管理し続けなくても問題ないような商品を活用して、そのまま運用を続けておけばよいと思います。

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

銀行員が顧客には勧めないけど 家族に勧める資産運用術

高橋 忠寛

日本実業出版社

世の中に発信されている金融商品や資産運用に関する情報の大半は、金融機関など「売り手側」から出されているものです。また、最も身近な金融機関である銀行の営業担当者は、お金や金融商品に詳しいプロであるという一面と金融…

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