「相続対策を専門とする税理士」の探し方・選び方

前回は、相続対策に取り組む上で、真っ先に実施すべきことを説明しました。今回は、「相続専門の税理士」を選ぶべき理由を見ていきます。

税理士にも医者と同じく「専門分野」がある

 

さんざん迷った挙げ句、源太郎が電話をかけたのはサラリーマン時代の同期だった。源太郎は営業畑だったが、彼は経理部。税理士との付き合いもあったはずだ。

 

「相続のことを相談できる税理士を誰か知らないか? 会社の顧問だったところでもいいかと思うんだけど」

 

「ダメダメ、あそこはダメだ」

「え?何か問題でもあるのか?」

 

「そうじゃない。企業税務ではいい事務所だ。ただ、相続対策はほとんど手がけていないから」

「税理士なんだからそのくらいできるだろう。うちみたいな庶民の相続税なんて、企業の税務に比べたらよほど単純だと思うが」

 

同期が電話の向こうでため息を漏らした。

 

「うーん、世間一般の認識はそういうもんかね」

「違うのか?」

 

「違う。税理士は医師と同じで専門性が強い仕事なんだ。脳外科、皮膚科、眼科、精神科・・・それぞれ得意分野が違うだろう? 税理士もそれと同じだ」

 

考えたこともなかった。税理士は税理士だろう。税務の専門家であり、誰でも同じことができるはずと源太郎は単純に信じていた。

 

「そうじゃない」

 

あっさりと同期は否定した。

 

「専門性に加えて、手がけてきた事例数によっても力量が違う。症例数を重ねた医師と同じで、いろいろなケースにぶつかって腕を磨いてきたわけだから」

「たしかにそうだろうけど・・・」

 

同期は経理マンらしく、会社の顧問だった税理士事務所に教えられて国税庁の資料などを実際に調べてみたことがあるという。

 

「国税庁の資料によると、亡くなった人のうち、相続税の申告があった人は2011年で4万6000人ほどだ。一方、税理士事務所と公認会計士事務所を合わせると全国に3万軒ほどもある。つまり、平均的にならしたとしても、1軒の会計事務所が扱う件数は年間1.5件程度しかない」

 

「なるほど。たしかにそうだな」

 

「さらに普段から税理士との付き合いがない人の場合、取引先の銀行などが紹介してくれた事務所を利用することが多い。銀行が紹介するのは付き合いがある大手の税理士・公認会計士事務所だ。そういうこともあって相続税については経験の豊富な税理士・公認会計士と、経験がほとんどない税理士・公認会計士との差はとても大きいんだ。実際、年に100件以上扱っている事務所は全国に10軒もないようだ」

 

源太郎は思わず小さくうなった。税理士選びでそれほど考えるべきことがあるとは思っていなかった。最初から難関にぶつかるとは。

 

「しかし相続に強いかどうかなんて、どうやって見分ければいい?」

 

「簡単な方法がある。物納を手がけたことがあるか訊いてみるんだ。物納は手続きが面倒で税務署との駆け引きも難しい。相続にかなり詳しい税理士・公認会計士でなければ、まずやりたがらない」

 

「その『物納』というのはそんなに難しいのか?」

 

「簡単ではない。本来、相続税は金銭による一括納付が基本だが、状況によってはそれができないことがある。そんなときにはまず納付期限を延ばす『延納』という方法をとって、なるべく金銭で納めることを目指す。だがそれでもなお納税資金が手当てできない場合には、相続したものを直接納付する『物納』という手段を執ることができるんだ」

 

「なるほど。相続財産をそのまま納めてしまうわけだな」

 

「そうだ。ちなみに、物納が認められているのは、処分してお金に換えやすい財産に限られている。不動産以外では国債や地方債、船舶、社債、株式、信託の受益証券、自動車や家具などの動産がこれにあたる」

 

「さすがに蛇の道は蛇というべきか、詳しいな。それでどこかいいところを知っているか?」

家族が幸せになれる形を作ることが相続対策のゴール

同期が紹介してくれた「Y相続センター」はビジネス街の一等地にあった。

 

「15時にアポをお願いした亀山です」

 

受付の女性に来意を告げると、応接室らしき部屋に案内された。女性が退室するのとすれ違うように大きなファイルを抱えた男が一人、ヒョッコリと部屋に入ってきた。

 

「どうも、由井です」

 

差し出された名刺には簡潔に「Y相続センター代表税理士・公認会計士由井満」と記されている。紹介してくれた同期によると、相続税申告書の提出件数は800件を超えるというからまさに専門家の中の専門家だ。

 

「老後を安心して暮らせるよう相続の対策をしたいと思いまして。相続税法が変わって課税対象が広がっているとも聞きましたし」

 

源太郎が本題に入ると、由井は腕を組み首をかしげた。

 

「つかぬことをうかがいますが、亀山さんは何のために相続対策をしたいとお考えですか?」

 

(おかしなことを訊く税理士だ)

 

源太郎は少しばかり不安を覚えた。相続のことで税理士に相談するのだ。相続税の節税がしたいに決まっているではないか。それでもとりあえず考えていることをそのまま答える。

 

「そうですね。もし相続税が課税されるならきちんと納税できるようにしておきたいですし、できれば節税につながるような手も打っておきたいので」

 

「それは相続対策ではなく相続税対策ですね」

「同じではないのですか?」

 

横から美千子が訊ねた。

 

「はい。相続税対策は相続対策の一部に過ぎません。大切な一部ですが相続については、それより遥かに重要なことがあります」

 

「税金より大切なこと・・・」

「相続を円満に完了することです」

 

由井が言った。

 

「家族のみんなが喧嘩することなく、相続を経て幸せになれる形を作ること。それこそが本当に目指すべき相続対策のゴールなのです」

 

「先生、うちはその点については大丈夫です。資産もないし、自慢できることと言えば、子供たちが仲良く育ったことくらいですから」

 

源太郎は胸を張った。てっきり美千子も同意してくれるものと信じていたが、意外にも隣で困った顔をしたまま何も言わない。

 

[図表]相続専門税理士選びのポイント

本連載は、2015年2月27日刊行の書籍『家族のトラブルをゼロにする生前の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

関 博

株式会社関総研結い相続支援センターアズタックス税理士法人 代表公認会計士・税理士

1948年生まれ。香川大学経済学部卒業後、大阪国税局に入局。等松・青木監査法人(現有限責任監査法人トーマツ)を経て、1978年関公認会計士事務所を開設。1983年に株式会社関総研を設立、2004年には株式会社関総研財産パートナーズを設立、そして2013年10月大阪証券取引所ビルに相続・資産管理支援専門の「結い相続支援センター」を開設した。日本M&A協会副理事長。

著者紹介

連載家族のトラブルをゼロにする「生前の相続対策」

家族のトラブルをゼロにする生前の相続対策

家族のトラブルをゼロにする生前の相続対策

関 博

幻冬舎メディアコンサルティング

平成27年1月、改正相続税法が施行されました。中でも基礎控除の4割縮小により、今まで相続税がかからなかった家族も課税されるケースが増えることが話題となっています。うちの家族は仲がよいから大丈夫、あるいは財産が多くは…

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