なぜ「法定後見制度」は使い勝手が悪いのか?

法定後見制度では、成年後見人が「財産を減らさない」ことを意識するあまり、よい結果が生まれないこともあります。今回は、そういった観点からの法定後見制度の問題点を見ていきます。

本人や家族のためになるお金の使い方ができない!?

本連載の第3、4回で紹介した親族や専門家による横領事件は極端な例だとしても、筆者には他にも法定後見制度をあまりお勧めしたくない理由があります。それというのも、成年後見人はなるべくお金を減らさないように財産管理をしていくため、判断能力の低下した本人にとっても身近にいる家族にとっても、本当に生きたお金の使い方ができなくなる可能性が高くなるからです。

 

では、事例をもとにご説明しましょう。

 

【事例1】
本人と妻の2人暮らし。子どもはいません。本人の認知症が進んできて、妻と通いのヘルパーだけでは日常生活の面倒を見るのもおぼつかなくなってきたため、介護施設への入所を検討することにしました。

 

本人は事業で成功し、裕福な生活を送ってきました。十分な財産があり、子どももいないことから、妻は、認知症であっても少しでも快適に過ごせるよう高級老人ホームに入所させることを希望しましたが、後見人の弁護士から「それはご本人の意思ではありませんね」と拒否されて、お金を引き出してもらうことができませんでした。

 

【事例2】
本人と妻の2人暮らしで、すでに結婚して独立した長男と長女がいます。東京郊外の、最寄り駅からバスで15分のところにある土地100坪、建坪50坪の家に住んでいますが、長男が「今の家は足回りが悪いから、自分の家の近くにある都心のマンションに引っ越した方がいい」と言いだしました。

 

自宅買い換えのための資産は十分にあるので、妻はその気になりましたが、後見人の弁護士から「それは本当に必要なんですか? 本人のためではなく、奥様自身のためでしょう?」と言われてしまい、話は一向に進みません。

個別の事情を「斟酌」することが非常に難しい制度

いずれもお金は十分にあるのに、後見人が首を縦に振ってくれないために、実現不能となったケースです。本人はすでに判断能力が失われてしまっているため、後見人に「それは本人の意思ではない」「奥様が自分のためにそうしたいだけなのでは?」などとこのように言われてしまうと、事態は思うような方向には進みません。

 

確かに、物事を認識する能力が落ちたり、言葉が話せなくなったりしている状態では、本人の気持ちを言葉で確かめることはできません。しかし、本人の気持ちをおもんぱかるに、裕福な暮らしをしていた人であれば、たとえ認知能力が低下して自分自身では物事が分からなくなったとしても、豊かな生活レベルをそのまま維持して、他人からも尊重されて過ごしたいものなのではないでしょうか。

 

また、自分自身のことに限らず、長年連れ添って苦労を共にしてきた配偶者が望むことであれば、少しでも老後を快適に過ごせる環境を整えてあげたいと考えることでしょう。ところが、法定後見制度では、そのような事情を斟酌してもらうことが非常に難しいのです。

 

後見人にしてみれば、最も大切なのは「財産を減らさないこと」だからです。それゆえに、後見人がつくことで、それまでのライフスタイルや考え方が尊重されず、おそらく本人にとっても、配偶者はじめ身近な親族にとっても、望ましい方向とは全く逆の方向に物事が進んでしまうことがあるのです。

 

筆者はそうした点で、法定後見制度は非常に硬直的で使い勝手の悪い制度だと考えざるを得ません。財産を守るという点では確かに正しい選択なのでしょうが、本人や生活を共にしてきた家族のクオリティ・オブ・ライフについては、尊重されているとはいい難いものがあります。

 

想像してみてください。あなたは現役時代、配偶者の助力を得つつ努力に努力を重ねて事業を成功させ、5億円の資産をつくりました。ところが残念なことに、年老いて認知症を発症しました。財産管理ができないところまで症状が悪化したので、専門職の後見人がつくことになりました。そのとたん、5億円の資産は後見人のもとで厳重に管理され、あなたも配偶者も他の身近な親族も、誰も自由に使うことができなくなってしまったのです。

 

裕福だったあなたは、高級なホテルに泊まるのを楽しみのひとつにしていました。自宅の室内の調度についても一過言あり、寝具ひとつについても、好みがはっきりとしていました。あなたの資産は、あなたのクオリティ・オブ・ライフを高めてくれる役割を果たしていました。

 

ところが、後見人がついてからは状況が一転。「財産を適正に管理する」という理由のもと、およそ高級とはいい難い介護施設に入居させられ、寝心地の悪いベッドに寝かされています。そして、かけがえのない妻は便利な場所に移り住むこともできず、最寄り駅からバスで15分揺られて、電車を乗り継いで面会にやってきます。十分な資産があるにも拘らず、自分も配偶者や身近な親族も、生活を快適にするためにお金を使うことが許されません。「何を大げさな」と思われるかもしれませんが、こうしたことがすでに現実に起こっているのです。

本連載は、2015年11月25日刊行の書籍『老後の財産は「任意後見」で守りなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載老後の財産を守るための「任意後見」活用術

南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員 弁護士/公認会計士

弁護士・公認会計士。南青山M’s法律会計事務所代表。芦屋大学経営教育学部客員教授。
1973年愛媛県生まれ。1995年一橋大学経済学部卒業。2006年成蹊大学にて法務博士号取得。1995年監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入社、上場企業の監査、M&A等に携わる。その後、会計事務所、法律事務所勤務等を経て2009年に南青山M’s法律会計事務所を設立。個人、企業にとって身近な法律問題はもちろん、税務問題、会計問題、それらが絡み合う複雑な問題についても、冷静に問題を分析し、依頼者にとって最も利益となる問題の解決方法を提案、実践している。著書に『ドロ沼相続の出口』(幻冬舎)。

著者紹介

老後の財産は 「任意後見」で守りなさい

老後の財産は 「任意後見」で守りなさい

眞鍋 淳也

幻冬舎メディアコンサルティング

昨今、高齢者を狙った詐欺や「争続」が新聞やテレビなどのメディアで盛んに取り沙汰され、老後の財産管理に対する不安が高まっています。高齢になると判断能力が低下してしまい、望まないかたちで財産を失ってしまうケースは多…

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