遺言書に関するルールは民法が定めていますが、法律の規定が必ずしも明確ではないケースもあります。今回は、「特定の相続人」が遺言者より先に亡くなったとき、その遺言の効力はどうなるのかを見ていきます。

「相続させる」という遺言の代襲相続は認められるか?

遺言書の作成にあたっては、最高裁の判例について注意が必要となることがあります。遺言書に関するルールについては民法が定めていますが、法律の規定は必ずしも明確なものではなく「果たして、このような内容の遺言書の作成が許されるのか?」と悩んだような時に、条文の文言だけからはその答えを得づらいこともあります。

 

このように遺言書の有効要件などが問題となり、法律の文言からは不明確な場合は、最高裁判所が具体的な個々の事件に対する判決の中で解釈を示すことで、新たなルールをつくることがあるのです。特に、近時、今後の遺言書の作成において無視することができないと考えられる重要な判断を最高裁が示しましたので、ご紹介しておきたいと思います。

 

問題となったのは、金沢市内に不動産などの財産を所有していた女性が残した遺言でした。1993年に作成されたその遺言の中では「長男に全財産を相続させる」旨の内容が記されていました。ところが、長男は2006年に母親より先に死亡し、その後、母親も亡くなりました。

 

このような状況の中で、残った長女が長男の子供らに対して「母親の遺産について法定相続分に相当する持分を取得した」と主張して、母親が持分を有していた不動産について、「自分が相続した法定相続分に相当する持分等を有すること」の確認を求めて訴訟を起こしたのです。

 

まず、本件の遺言書は、「特定の相続人に相続させる」という形となっていました。このような遺言は一般的に遺産分割の方法を指定したものと理解されています。それを前提として、この「特定の相続人」が遺言者より先に亡くなった時、その遺言の効力はどうなるのかが、裁判における最も大きな争点となりました。

 

一審は、このような場合、死亡した相続人の相続人に、当然に代襲相続されるとの判断を示しました。それに対して、二審は、特定の相続人が先に死亡した場合には、原則として遺言は無効となって、法定相続のルールにしたがって遺産が分割されることになるが、遺言の内容により、代襲相続が適切と認定できるのであれば、そのように解釈してもよいとの見解に立ちました。

孫に代襲相続させたいのなら遺言書に明記する

このような二審の判断を上告審である最高裁も支持しました。参考までに最高裁の判決を引用しておきましょう。

 

上記のような「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。

 

本ケースのような「特定の相続人に相続させる」旨の遺言書は、その「特定の相続人」が遺言者より先に亡くなった場合には、最高裁のルールによれば、原則としてその子供は代襲相続しないことになる点にくれぐれも注意してください。

 

この判決文に示されているように、その「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が例外的に代襲相続させる意思を持っていたと解釈できない限り、代襲相続は認められないのです。

 

したがって、自分の子供を対象として「相続させる」旨の遺言を残すのであれば、代襲相続させるか否かも検討して、もし子供の子供、すなわち孫に対しても遺言の効力を及ぼしたいのであれば、その旨をしっかりと記載しておくことをお勧めします。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『相続争いは遺言書で防ぎなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続争いは遺言書で防ぎなさい

相続争いは遺言書で防ぎなさい

大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

相続をきっかけに家族がバラバラになり、互いに憎しみ合い、ののしり合う──。 故人が遺言書を用意していない、あるいはその内容が不十分であったために、相続に関するトラブルが起こってしまうケースは数多く存在していま…

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