仲の良い二人を引き裂いた「ドロ沼相続」の実例と予防策

前回は、相続した株式の「売渡し請求」が来た場合の対処法について説明しました。今回は、生前に行っておきたい「相続トラブルの効果的な予防策」を見ていきます。

「泥沼の芽をいかに摘んでいくか」がカギ

今までの連載では、ドロ沼化した相続にどのように対処すればよいかを見てきました。しかし、「争続」は被相続人の生前から十分な対策をとっていれば防止することが可能ですし、たとえ起こったとしてもドロ沼化することを避けられます。

 

そこで今回からは、生前に行っておきたい相続トラブルの効果的な予防策について、前回までと同様、事例をもとに具体的に解説していくことにします。

 

ドロ沼の芽をいかに摘んでいくかを知ることが、円満な相続をむかえるための何よりの近道になるのです。

実の親子のように仲むつまじかった二人が・・・

<事例1>

籍を入れていない男女(内縁関係の夫婦)の内夫がガンで死亡しました。内夫には母がいましたが、母と内妻は、内夫が健在のときは非常に仲が良かったようです。

 

内夫の死亡により団体信用生命保険がおりたため、内夫と内妻が住んでいるマンションのローンは消滅しました。そこで、母は仲のよかった内妻に対して、突然その明け渡しを要求してきたのです。

 

被相続人の住宅ローンが団体信用生命保険で消滅することを全く想定していなかったような場合、相続対策がおろそかになりトラブルとなることが少なくありません。本ケースは、その一つの具体例です。

 

まず、確認をしておくと、内縁関係にある者の間では互いに相続が発生しません。夫婦間の相続は、あくまでも法律上の婚姻関係がなければ認められないのです。そのため、この事例でも、死んだ内夫のマンションは内妻に相続されず、相続人である内夫の母親によって相続されることになります。そして、内夫の母親から明け渡しを求められた以上、内妻は、原則としてマンションを立ち退かなければなりません。

 

この二人は、内夫の存命中は、連れだって温泉旅行に行ったり、母親から内妻にプレゼントが贈られたりなど、非常に良好な関係を保っていました。そのような両者の親密な関係が、内夫の死後も続いていれば、内妻がマンションを追い立てられるような状況になることはなかったでしょう(ちなみに、闘病中の内夫を献身的に介護する内妻の姿を見ていた内夫の弟は、マンションを内妻に譲ることを母親に対して促していました)。

 

しかし、内夫の死後しばらくしてから、内妻が「マンションの相続権を放棄してほしい」と母親に求めたことをきっかけに、両者の仲はこじれ、ついには修復が不可能な状況に陥ってしまったのです。

 

内妻は、自分がマンションの相続権を持たないことに不安を抱き、住む場所を失うことをおそれるあまり、ついそのような行動に出てしまったのでしょうが、母親は大きなショックを受け、内妻に対する強い不信感を持ち始めました。

 

ついには、「息子を懸命に看病したのも、財産目当てだったのではないか」と“財産泥棒”呼ばわりするようになり、今までにプレゼントした物もすべて返すよう求めるほどまでに内妻への嫌悪感を募らせていったのです。

 

実の親子のように仲むつまじかった二人の間に生じたこのような激しい断絶を、亡くなった内夫がもしあの世で知ることができたならば、おそらく胸が張り裂けんばかりに悲しんだに違いありません。

「遺言書」さえあれば内妻はマンションを失わなかった

しかし、こうした事態となることを、内夫は、生前に防ごうと思えば、防ぐことができたのです。しかも、さほど難しくない方法で。

 

すなわち、遺言書を一通作成し、その中に「マンションは内妻に与える」といった一文を記しておけばよかったのです。そうしておけば、内妻はその遺言書を登記所に提出し、マンションの登記を内夫から自分に単独で移し、そのままそこに住み続けることが可能となったのです。

 

また、母親には遺留分がありますが、遺言書でマンションを内妻に与えることが明らかにされていれば、息子の意思を尊重したはずであり、「マンションを売却して代金を一部渡すように」などと遺留分を求めてくるような行動も、おそらくとらないはずです。

 

そもそも、遺言書があれば、母親が内妻に不信感や嫌悪の念を抱くこともなかったでしょう。内妻に対する悪感情を肥大化させていったのも、息子の意思がわからず、疑心暗鬼に陥ったことが大きな原因だったに違いありません。

 

ちなみに遺留分とは、法定相続人が最低限相続できる割合を言います。通常、被相続人の意思を尊重し、遺言書の内容が優先されるのですが、たとえば、遺言書の内容が愛人に全財産を相続させるなどとなっている場合に、親族である法定相続人が何の財産も手にできないのでは非常にかわいそうなため、遺留分があるのです。

 

なお、このケースでは、遺言書を残すことに加えて、内夫が亡くなる前に婚姻届を出して、内妻を相続権が認められる配偶者にしておくという選択肢もあったでしょう。そのような手段を含めて、相続対策が全くされていなかったのは、やはり団信でローンがなくなるなどとは考えもせず、「自分には財産などなく、借金が残るだけ」と内夫が思い込んでいたからなのかもしれません。

「公正証書遺言」で争続を防ぐ

ところで、遺言書には一般的によく使われるものとして、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。前者は、その名の通り、遺言書を自筆で、後者は公証役場で公正証書の形で作成するものです。

 

「遺言書を残すとき、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらにすべきなのか」と尋ねられることがありますが、基本的には、公正証書遺言の形で作成しておくことをお勧めします。

 

今回以降で紹介する事例の中で触れていくように、自筆証書遺言には数々のデメリットが存在するのに対して、公正証書遺言にはそうしたデメリットがなく、逆に「争続」を防ぐうえでの数多くのメリットが見られるからです。

 

また、公正証書遺言だけでは、家族への思いを伝えきれないという場合には、遺言書とは別に、エンディングノートのようなものを作成しておくのも一つの手です。

 

たとえば、今回紹介したケースであれば、マンションを内妻に与えた理由や「母親と内妻にいつまでも仲良くしていてほしい」といった願いやメッセージをそのような書面に書き綴っておけばよいでしょう。

本連載は、2013年9月20日刊行の書籍『ドロ沼相続の出口』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載ドロ沼相続の対処法と事前防止策

南青山 M’s 法律会計事務所 代表社員 弁護士/公認会計士

弁護士・公認会計士。南青山M’s法律会計事務所代表。芦屋大学経営教育学部客員教授。
1973年愛媛県生まれ。1995年一橋大学経済学部卒業。2006年成蹊大学にて法務博士号取得。1995年監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入社、上場企業の監査、M&A等に携わる。その後、会計事務所、法律事務所勤務等を経て2009年に南青山M’s法律会計事務所を設立。個人、企業にとって身近な法律問題はもちろん、税務問題、会計問題、それらが絡み合う複雑な問題についても、冷静に問題を分析し、依頼者にとって最も利益となる問題の解決方法を提案、実践している。著書に『ドロ沼相続の出口』(幻冬舎)。

著者紹介

ドロ沼相続の出口

ドロ沼相続の出口

眞鍋 淳也

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の増税が叫ばれる昨今。ただ、相続で本当に恐ろしく、最も警戒しなければならないのは、相続税よりも、遺産分割時のトラブルです。幸せだった家族が、金銭をめぐって骨肉の争いを繰り広げる……そんな悲劇が今もどこかで…

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