どんな人でも「投資」に無知・無縁ではいられない理由

銀行預金や年金などを通して、じつは私たちも間接的に「投資」にかかわっています。今回は、無知ではいられない「投資」との関わり方について改めて考えて見ます。

投資の第一歩となる「思考実験」とは?

「投資」は怖い、と感じられる人もいることでしょう。しかし、皆さんの多くはそれと気づかぬうちに「投資」商品を購入しています。例えば、あなたが銀行に預けたお金は、銀行によって「投資」に回されています。たとえ銀行が「投資」に失敗したとしても、倒産しない限りあなたにはツケが回ってこないので、関係ないといえばそれまでかもしれませんが、銀行が企業に対する資金の融資も含めて「投資」をなりわいにしていることは知っておいてもいいはずです。

 

なぜなら、それは銀行自身が普通預金や定期預金よりも、他の「投資」にお金を回したほうがよほど効率よく利益を出せると考えていることを示しているからです。例えば、多くの銀行は、預金を通して集めたお金で国債を購入しています。なぜならば、預金の金利よりも国債の金利のほうがわずかですが高いからです。国債は国の借金ですから、よほどのことがない限り安全な投資商品です。

 

銀行の預金も、最終的には国が保証しているので、安全度でいえばほぼ同じといってもいいかもしれません。だとするならば、私たちが直接国債を購入すれば、銀行にお金を預けるよりも利益を出せるのではないでしょうか? 実際には、金利だけではないメリット・デメリットがあるので一概にはいえませんが、そのような思考実験をしてみることが「投資」の第一歩といえるでしょう。

インフレに備えて年金資金も「投資」で運用されている

もう一つ、皆さんが間接的に「投資」に回しているお金があります。それは年金です。あなたが加入している年金は、あなたから毎月、一定額を掛け金として徴収しているはずです。実は、これらの資金は全員分が一つにまとめられて「投資」によって運用されています。分かりやすくいえば、株式や債券の購入をしています。

 

そんな危険なことを、と思う人がいるかもしれませんが、年金資金を「投資」で運用するのは、どこの国でも行っている当たり前のことです。なぜなら、経済成長に伴って物価は上昇していくものですから、年金資金もそれに伴って増やしていかなければ、将来の給付ができなくなってしまうからです。そのため、インフレに強い株式や、基本的には元本保証で安全に増やせる債券などの「投資」商品をバランスよく購入しています。

 

もちろん、年金は国の制度ですから、建前上は国が補償することにはなっています。しかし、ただでさえ破綻が懸念されている年金で、はたして十分な補償が受けられるものでしょうか。現実には、運用できた範囲内で、あるいは国家予算の許す範囲内での給付にならざるを得ません。

 

あなたの支払っている年金掛け金が毎年増額されていることや、平成25年度から老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給開始年齢が、60歳から65歳へと段階を踏んで引き上げられることになったこと、そして年金財政の悪化に伴い給付金の水準を減額することができるマクロスライド制が導入されたことなどを考えると、年金機構による「投資」の失敗は、税金による補塡も含めて、私たちが負わねばならないものと考えたほうがいいでしょう。

 

また、2012年のAIJ投資顧問株式会社による企業年金消失事件も記憶に新しいところです。この事件は、企業年金の運用を委託されていたAIJ投資顧問が、企業から預かったお金の運用に失敗し、資金の大部分を失いながらも、損失を隠すために粉飾決算を続け、顧客に対しては「240%の運用利回りを確保している」などと虚偽の説明を行い、損失を補塡するために、さらに企業年金の運用を受託していた詐欺事件です。

 

日本の年金制度は、一般に3階建てになっていて、国が資金の半分を拠出する1階の国民年金部分、そして企業が資金の半分を拠出する2階の厚生年金部分、ここまでは年金機構によって資金が運用されています。しかし、さらに年金を充実させたい企業は、3階部分として独自の企業年金を用意して運用しています。AIJ投資顧問は、この企業年金の運用を委託されていましたが、運用に失敗して資金を失ってしまったわけです。

 

もちろん、企業年金の運用の失敗は企業の責任ですから、企業が損失を補塡することにはなるでしょう。しかし、企業の負担とはすなわち従業員の負担でもあります。年金の運用の失敗は、いずれにしろ最終的には年金を受給する私たちの肩にのしかかってくるものなのです。

 

このように考えると、郵便局の定額貯金と、銀行の定期預金しかしたことがないという人でも、実は株式や債券の「投資」に深くからんでいることに気づかざるを得ないでしょう。「投資」などという危ないものとは無縁でいて、こつこつと真面目に働いていればいいと考えているあなたも、その給料の源泉となっているのは日本経済の力であり、日本の経済力が「投資」によって大きく左右されていることを知れば、労働がいちばんいいなどと笑ってはいられなくなるはずです。

 

「投資」について無知であり続けることは、自分の将来の年金や、あるいは現在の給料の金額について、他人任せにするのと同じことです。他人任せにしておいて文句だけを言うのは非常に楽なことですが、成熟した大人のやることではありません。年金について不満を述べるのであれば、まず仕組みや運用について詳しくなる、消費税や所得税について要望があるのであれば、日本の経済や国の借金について勉強する、そして何よりもきちんと投票に行くことが必要です。

本連載は、2014年7月29日刊行の書籍『インフレ時代の投資入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載インフレ時代の投資入門

パインブリッジ・インベストメンツ株式会社 代表取締役社長

学習院大学経済学部卒業後、1985年に野村證券投資信託委託入社。日本株式運用、総合企画、秘書室勤務を経て野村アセット・マネジメント・シンガポール、野村ブラックロックで幅広い資産運用ビジネスを経験。その後、メリルリンチ・インベストメント・マネジャーズのディレクターを経て、2002年5月に投資信託本部長としてAIG 投信投資顧問(現 パインブリッジ・インベストメンツ)入社、その後、常務執行役員投資信託本部長を経て、2011年6月から現職。日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

パインブリッジ・インベストメンツ株式会社 執行役員 グ ローバル・マルチアセット運用部長

慶應義塾大学商学部卒業後、1987 年に三井生命保険入社。1993年より同社英国投資顧問現地法人に勤務し、ロンドン・シティからグローバルな株式・債券投資を行う。その後、スカンディア生命保険、三井住友海上シティインシュアランス生命保険を経て、2004年にAIG 投信投資顧問入社。その後、執行役員 運用本部長兼グローバル・バランス運用部長を経て、2013 年1 月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員およびCFA 協会認定証券アナリスト。

著者紹介

インフレ時代の投資入門

インフレ時代の投資入門

杉浦 和也・前野 達志

幻冬舎メディアコンサルティング

仮に今、あなたに1000万円の預金があるとしましょう。安倍内閣が掲げるインフレ目標2%が今後毎年達成された場合、その預金の価値は毎年2%、つまり20万円ずつ目減りしていくことになります。預金の金利はもちろんつきますが、現…

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