「自己投資」と「株式投資」では何が違うのか?

前回は、「投資」とは何か、改めて検討しました。今回は、「自己投資」と「株式投資」を比較し、その違いを見ていきます。

自己投資と株式投資をお金の損得で比較すると・・・

自己投資の大切さは理解したという場合でも、株や債券への投資はやはりまだちょっとためらわれるという人が少なくないでしょう。そこで、自己投資と株式投資とは何がどう違うのかを考えてみましょう。

 

例えば、社会人5年生が、司法試験を受けて弁護士になりたいと一念発起して自己投資を始めた場合と、同じく社会人5年生が将来を見据えて株式投資を始めた場合とを比較してみましょう。

 

司法試験を受けるためには、法科大学院を修了するか、司法試験予備試験の合格が必要です。予備試験の合格は非常に難しいので、ここでは普通に法科大学院に入ることとしましょう。法科大学院は通常は3年間が必要で、その場合の学費は私立の場合ざっと500万円です。その前に法科大学院に合格するための勉強も必要ですね。予備校に通うのであれば、さらに1年間と予備校の学費100万円が必要になるでしょう。

 

また、法科大学院を修了したとしても、司法試験にすぐ合格できるとは限りません。2年くらいは司法浪人生活を送ると考えると、合計で6年もの時間が必要になります。学費は600万円と見積もりましたが、そのほかに生活費も必要になるでしょう。

 

さて、600万円と6年間の時間を投資して、首尾よく司法試験に合格したとしましょう。それに見合うだけのリターンが得られるかどうかは、あなたが弁護士という仕事に何を求めているかによります。

 

お金だけを考えるのであれば、その後、何十年も弁護士を続ければいつか回収は可能でしょう。もちろん6年間は勉強のためにまともに働けなかったり、司法試験に合格しても1年間は司法修習生として給料なしの生活になったり、弁護士になれても当初はイソ弁(居候弁護士)やノキ弁(軒先弁護士)として下積み生活を送らねばならなかったりで、資金を回収して利益を出すまでには10年以上の時間が必要になるとは思いますが、それでも最終的に高給取りの弁護士になれるのであれば投資は成功といえます。

 

ここでは仮に、弁護士を志してから元手をプラスマイナスゼロに戻すまでに15年かかったとしてみましょう。では、株式投資の場合を考えてみましょう。

 

同じく600万円の元手があったとして、15年間それらを株式投資に振り向けたとしてみます。ご存じのように株というものは上がったり下がったりですが、ここでは年間の利回りが5%くらいで投資に成功したとしてみましょう。そうすると、15年後には600万円の元手が1247万円になっている計算になります。差し引き647万円のプラスです。15年かけても、まだ株式投資のほうが自己投資よりも有利だったということになります。

 

もちろん、この比較はまったくのナンセンスです。年利5%の利回りを得ながら確実に運用するのは難しいですし、運用に失敗したら元本割れしてマイナスになっている可能性もあります。

 

しかし、それをいうなら司法試験に合格することも相当難しいですから、失敗して10年近い年月と、その間に働いて得られたはずの収入を棒に振ることだってないとはいえません。「投資」というものはいずれにせよ、成功すれば大きなリターンがあるが、失敗というリスクも抱えているものなのです。

「株式投資」にもお金以外のリターンがある!?

もう一つ、自己投資で得られるものは決して「お金」だけではないという観点もあります。弁護士になれば、弁護士としての社会的な名声や社会に貢献しているという充実感を得られるでしょう。確かに10年の歳月をかけて司法試験に合格しなかったとしても、その間に得られる人生経験はその人にとってかけがえのないものでしょう。

 

しかし、株式投資によって得られる人生経験というものもまたあります。景気の行く末を常に睨にらみつつ、各企業の財務分析を繰り返しているうちに、世界情勢に詳しくなり教養が豊かになるという副産物が得られるかもしれません。法科大学院で人生の伴侶が見つかることもあれば、株式投資という共通の趣味を通じて気のおけない友人ができることだってあります。

 

「お金」以外の尺度で物事の満足度をはかろうとすると、個人の多様な趣味嗜好に影響されてしまうため、正確な比較ができません。そこで「投資」のリターンというものは、もっぱら「お金」ではかることになっているのです。

 

自己投資はよくても株式投資には抵抗を感じるという人は、おそらく、自己投資の場合には、「お金」以外のリターンが目的になっている場合が多いので、「お金」を主な目的にしているかのように見える株式投資と同列に並べることに、違和感があるのかもしれません。しかし、「お金」とはそんなに悪いものでしょうか? 次回は、その答えについて考えてみます。

本連載は、2014年7月29日刊行の書籍『インフレ時代の投資入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「資産運用」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

「株式投資」この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

連載インフレ時代の投資入門

パインブリッジ・インベストメンツ株式会社 代表取締役社長

学習院大学経済学部卒業後、1985年に野村證券投資信託委託入社。日本株式運用、総合企画、秘書室勤務を経て野村アセット・マネジメント・シンガポール、野村ブラックロックで幅広い資産運用ビジネスを経験。その後、メリルリンチ・インベストメント・マネジャーズのディレクターを経て、2002年5月に投資信託本部長としてAIG 投信投資顧問(現 パインブリッジ・インベストメンツ)入社、その後、常務執行役員投資信託本部長を経て、2011年6月から現職。日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

パインブリッジ・インベストメンツ株式会社 執行役員 グ ローバル・マルチアセット運用部長

慶應義塾大学商学部卒業後、1987 年に三井生命保険入社。1993年より同社英国投資顧問現地法人に勤務し、ロンドン・シティからグローバルな株式・債券投資を行う。その後、スカンディア生命保険、三井住友海上シティインシュアランス生命保険を経て、2004年にAIG 投信投資顧問入社。その後、執行役員 運用本部長兼グローバル・バランス運用部長を経て、2013 年1 月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員およびCFA 協会認定証券アナリスト。

著者紹介

インフレ時代の投資入門

インフレ時代の投資入門

杉浦 和也・前野 達志

幻冬舎メディアコンサルティング

仮に今、あなたに1000万円の預金があるとしましょう。安倍内閣が掲げるインフレ目標2%が今後毎年達成された場合、その預金の価値は毎年2%、つまり20万円ずつ目減りしていくことになります。預金の金利はもちろんつきますが、現…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧