中国地元紙で最も頻繁に報道される話題の1つになった「雄安新区」。本連載では、計画の概要と進捗状況、中国社会が計画をどう受け止めているのかを見ていくとともに、政治経済的意味合いは何かを中国内外の中国語媒体を通じて探る。最終回は、今後の展望等を見ていく。

関係者の入れ替わり等から憶測される政治的背景

計画発表は突然と受け止められたが、一定の政治的背景と時間的必然性があった。京津冀構想が停滞した背景として、①「省級役人は口先だけ上に従い、市級役人は前例踏襲、県級役人はわが道を行き、その下の役人は雷が落ちても何もしない」と言われる一般的官僚気質、②構想に関係する北京、天津、河北各々の役人の「一亩三分」、自分の狭い所掌範囲のことしか考えない縄張り意識(亩は中国の広さの単位)が指摘されてきた。

 

この間、2015年7月、周本順河北省党委書記(失脚した周永康元常務委員の元部下)、その約1年後、黄興国天津市長・代理党委書記が相次いで規律違反容疑で失脚、さらに江派大物と目される王安順北京市長も閑職に異動した。

 

新たに天津の「一把手(イーバーショウ)」、トップである党委書記となった李鴻忠はやり手として名高く(「一把手」にはやり手とのニュアンスもある。習主席を核心と位置付けることを支持する発言を繰り返し、江派から習陣営に‘反水(ファンシュイ)’、寝返った代表格と見られている)、就任後直ちに、京津冀構想では「北京が主役、天津は脇役、北京の指導的役割に協力」する姿勢を鮮明にした。残る構想の関係者、郭金龍北京党委書記も高齢を理由に17年7月退職した。

 

構想関係者が次々に習陣営と目される人物に入れ替わる中(例えば趙克志河北党委書記、元々、胡錦濤前主席に近いと見られていたが、いち早く習政権の反腐敗政策支持を表明。蔡奇北京前市長、17年5月に市長を辞職し北京市党委書記に就任したため、巷では‘三級跳’の異例昇進と言われた。その他、王東峰天津市長・党委副書記など)、17年2月、習主席が安新県を視察し雄安地区開発座談会を主催、4月1日に計画が発表されるという時系列だった。

 

長年、江派の富と権力の源泉と言われてきた広東や上海の特区、新区と同等の重要性を雄安新区に与え、また計画発表前日、習主席と深い関わりがある陝西、浙江(陝西は故郷、また浙江の副省長や党委書記を歴任)を含む7省市を新たに自由貿易試験区に指定したことと合わせ(他は遼寧、河南、湖北、重慶、四川。既存の上海、広東、天津、福建、及び18年4月海南省ボアオで開催されたボアオフォーラムに合わせ、海南島全島を指定、合計で12)、計画は、習主席が、17年が5年に一度の党大会が開催される年であることを意識し、経済面でも江派と対峙しその影響力を削ぐことで、自らの体制を盤石にする姿勢を鮮明にしたものとする見方が流布した。

 

 

「中国夢」の実現か、高い代償か?

中国社会では、計画が成功すれば、習主席が就任以来言及している「中国夢」の実現になり、習政権の基盤を揺るがしかねない住宅バブル、格差拡大、環境汚染などの社会問題の是正に繋がることも期待され、習主席の大きな政治遺産になる可能性があるが、失敗するとその代償は大きいと見られているようだ。

 

特に、突然の発表と受け止められたことは、計画が習主席とその周辺のごく一部の上層部のみが関与してトップダウンで提唱されたもので(中国で言う「頂層設計」)、市場から出てきた実需をベースにしたものではないことを意味している点への懸念が大きい。そうした見方は一時、北京不動産業界の大物と見られている人物の論評という形でもネット上で出回った(その後、本人が否定)。

 

国務院が17年4月発表した雄安新区に関する「8項目決議」(注)では、新たに雄安戸籍は設けず、就業許可証を発行するだけとされているが、ネット上では戸籍への関心が高い。中国内で農民工から批判の絶えない都市と農村を分離した戸籍制度になぞらえ、「雄安特別待遇戸籍を新設して、北京の戸籍を放棄し、雄安戸籍に乗り換える人々が出てくるほどにならないと、計画は成功しない」との声があるなど、国家主導の人為的手法の必要性が囁かれている。

 

(注)以下の8項目からなる。

①科学技術・イノベーションの拠点とする。進出企業は3〜5年免税とするなど、税制面での優遇措置。

②税収は河北省と北京で按分。北京は北京所在企業の移転を奨励する。

③環境汚染企業、生産型企業の進出は認めない。

④ハイテク産業主体で「中国のシリコンバレー」を目指す。ハイテク産業はインターネットを手段とするため、立地を沿海部ではなく内陸部とする。

⑤雄安戸籍は設けず、就業許可証を発行。

⑥商業性住宅は認めず、全て国家所有の公共住宅を賃貸提供する。

⑦退職後は雄安で年金支給せず、出身地または周辺地域に居住し、そこで年金を受け取る。

⑧北京は国有企業の本部等を雄安に移転することで範を示す。大学は北京大学、清華大学を除き、多くの大学が移転。雄安で生まれた者は雄安戸籍ではなく居住証を有し、雄安所在の学校に入学できる。

 

一部欧米諸国に見られる「市場万能主義」の対極をなす形で、中国では「中央集権」「国家(指導部)は全知全能」という「迷信」が一貫して続いており、習政権も発足以来、「市場に決定的役割を与える」と言いながら、この迷信から抜け出していないということだろう。

 

計画失敗の代償は大きいが、それによって、中国指導部が迷信から覚醒することになれば、失敗もあながち悪いことではないとの皮肉も聞こえる。中国内では当然ながら、表向き計画の意義を強調する論評が出回っているが、仔細に観察すると、習政権の政治的動きという側面が強いことがわかる。

 

おそらく世界で中国にしかできない壮大な計画だが、その実現には大きな不確実性を伴う。習近平主席は18年3月全人代で、国家主席の任期を2期10年までとする制限を撤廃する憲法改正を行い、少なくとも制度上、2023年以降も習氏が国家主席を務めることは可能になった。雄安新区建設は一帯一路と並んで、おそらく現在、習氏の最も優先順位の高い政策であり、その実現には相当の時間を要すると考えているということかもしれない。

 

 

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