今回は、親族外事業承継(M&A)における、自社情報開示のポイントを説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

情報開示の方法「インフォメーション・メモランダム」

買い手候補が買収するかどうかの検討を行う際には、その材料となる情報が必要となる。売り手は買い手候補の意思決定に役立つ情報を開示しなければならない。もちろん、情報開示の前には「秘密保持契約」を締結しておく。

 

情報開示の方法の一つは、インフォメーション・メモランダム、すなわち、買い手候補が買収価格を算定するために必要な情報を一式まとめたパッケージを開示することである。

 

買い手候補は、このインフォメーション・メモランダムを材料として交渉に入るか否か、どの程度の買収価格の提示が必要か検討することになる。

 

買収価格の算定は、買い手候補にとって極めて重要な検討プロセスであるから、対象会社の事業価値を評価するために必要十分な情報が提供され、買収の意思決定を後押しするような情報を開示しなければならない。

 

インフォメーション・メモランダムの精度が低ければ、交渉プロセスに参加する買い手候補先も少なくなり、結果として取引の実現可能性が低くなる。

 

ただし、この段階では自社の機密情報まで出す必要はない。たとえば、製造原価明細や工程レイアウト図など極めて重要な企業秘密、工場の土壌汚染などの深刻なマイナス情報については、大まかな概要だけの説明にとどめ、詳細は後から実施されるデュー・ディリジェンスにおいて開示するようにすればよい。

 

インフォメーション・メモランダムは、用意した資料をコピーして、そのままバインダーに綴り込むようなもので構わない。

 

ただし、「事業計画」の説明資料だけは、見せ方に工夫しなければならない。事業計画は、数値データやグラフ、説明文によってとして開示されることになるが、単に数字だけを開示するのではなく、その根拠となる事業戦略を経営分析のフレームワーク(SWOT分析など)に基づいて整理し、見やすいプレゼンテーション資料として開示すべきである。

 

インフォメーション・メモランダムの構成

 

(1)会社概要(設立年月日、沿革、株主構成などの基本情報、会社パンフレットなど)

 

(2)事業の概要

●業界動向の分析(競合他社の説明、市場占有率)

●製品カタログ、製品の強みを説明

●商流図、事業系統図、子会社との資本関係

●主要な固定資産(土地、建物、機械設備など)のリスト

●事業別・地域別・製品別売上高明細書

●得意先リスト(売上高上位10社)

●仕入先リスト(仕入額上位5社)

●許認可、知的財産権のリスト

 

(3)組織の情報

●組織図(各部署ごとの人数)

●経営陣の紹介(担当職務、略歴)

●従業員(名前は個人情報なので隠すが、職種と年齢、保有する技能や資格を記載)

●社内規程(就業規則、退職金規程など)

 

(4)財務情報

●過去3年間の財務諸表(P/L、B/S、C/F)

●直近の事業年度の税務申告書

●土地の時価情報

●生命保険の解約返戻金の情報

●退職給付債務

●銀行借入金、保証債務の明細書(銀行名、残高、返済期限、月額返済額、利率など)

 

(5)事業計画

●将来3年~5年の損益予測、運転資本予測、投資計画(減価償却費)

●具体的な事業戦略の説明(経営環境に対する見方、投資計画の詳細、営業計画、組織・人事計画、製造、情報システム、財務)

売上等の「細分化された数値」を開示し、信用を得る

財務情報については、決算書や申告書だけではなく、貸借対照表の非事業性資産を評価するための時価情報が必要となる。たとえば、不動産や有価証券の時価、保険積立金の時価、簿外となっている退職給付債務の時価などである。

 

また、買い手候補による価値評価を可能とするため、将来3年~5年分の損益予測および投資計画が必要である。中小企業の場合、実際に事業計画を作っているケースは少ないだろうから、その作成を顧問税理士に依頼することになるだろう。投資計画についても、将来の収益性に影響する情報となるので、必ず作っておく。また、従業員の解雇や機械設備の撤去を行うのであれば、リストラ費用の発生まで事業計画に織り込んでおくほうがよい。

 

さらに、売上予測や費用予測の算出根拠となる資料もあわせて開示する。たとえば、売上であれば店舗別や製品別等の細分化された数値を、過去実績及び将来計画に関して開示し、過去の実績と将来の計画が整合性を持って作成されていること、つまり事業計画の信頼性を示す。この細分化された数値を精緻なレベルで開示することができない場合は、事業計画そのものの信頼性に疑間を持たれることになり、事業価値を高く評価してもらうことはできない。

 

インフォメーション・メモランダムによって買い手候補の買収意欲を喚起させるためには、「情報の分かりやすさ」「数値に裏づけされた明確な根拠」の二つが必要なのである。このような情報を整備するためには、ある程度の時間がかかる。売り手および対象会社は、早い段階においてインフォメーション・メモランダムの作成に着手することが望ましい。

 

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