前回は、円満相続実現のカギとなる「不動産の名義変更」「遺言書」について解説しました。今回は、相続争いを防ぐため「不動産鑑定評価」を参考にして遺言を作成したケースを紹介します。

「財産を公平に分割したい」と考え、不動産鑑定を依頼

<事例2>鑑定評価をもとに遺言書を作成し、争続の不安を解消

 

私が不動産鑑定士の試験に合格し、2年間の実務修習期間を終え、不動産鑑定士として登録して初めて携わったのが相続に関係する鑑定評価でした。それは弁護士からのご紹介の案件で、横浜市内の住宅地域にある所有アパート数棟とご自宅、そして駐車場を鑑定評価するというものでした。

 

依頼目的は、遺言書を作成する際の参考とするため。依頼者は70代の男性(Fさん)で、奥様はすでにお亡くなりになっており、お子様は3人いらっしゃいました。ご自分が居住されている戸建住宅に長男と同居されており、長女と次女はご結婚され、首都圏にお住まいとのことでした。

 

基本的には、すべての財産をお子様たち3人に対し、公平に分割するお考えなのですが、今のご自宅とその敷地は長男に相続するつもりでした。しかし、それぞれの不動産の価格がわからないため、具体的な分割方法について、大いに頭を悩ませていらっしゃったのです。

 

ご依頼いただいた鑑定評価の内容は、特に難しいものではなく、オーソドックスなものでしたので、私は基準に従って適正に評価をし、納品させていただきました。私としては、通常どおり淡々と業務をこなしただけだったのですが、依頼者であるFさんは鑑定評価書をお受け取りになり、各不動産の価格が具体的にわかったことで、しっかりと説得力を持った遺言書を作成することができたようです。とてもお喜びになり、感謝とお礼の言葉を頂戴しました。

「不動産鑑定評価」を使った遺言書で不安を解消

Fさんは、遺産を巡る兄弟姉妹間の争いの話をよく耳にしていたので、自分の子どもたちはどうなるだろうかと、とても心配で夜も眠れなかったというのが、今回、鑑定評価を依頼されたそもそもの動機であったとのこと。そして鑑定評価を参考に、しっかりとした遺言書を作成することができ、一安心して穏やかに過ごすことができるようになったということです。

 

不動産鑑定士の仕事は、通常、役所や金融機関、弁護士や税理士からのご依頼が多く、一般の個人の方から直接ご依頼を受けることは多くありません。私もこの事例にあたるまでは、個人のお客様からの鑑定評価依頼にほとんど携わった経験がなく、特定のお客様から深く感謝されたことがなかったので、間接的とはいえ、お客様から感謝のお言葉を頂戴したこの事例は、非常に心に残るものでした。

 

当時は晴れて不動産鑑定士になったものの、その後の自分の在り方について、いろいろと考えていた時期でした。この案件に出会って、私は相続の分野であれば、不動産鑑定士としての力を活かし、人に感謝される仕事ができるのではないかと考えるようになりました。

 

そして、この案件以降、私は相続に関する本を読んだり、相続コンサルタントの資格を取得したり、相続に関わる仕事をしている多くの弁護士や税理士、コンサルタントと積極的に交流することに力を入れるようになったのです。

 

以上、<事例2>は、不動産鑑定評価を使って遺言を残すことで、将来起こり得る相続争いへの不安を解消できたというものでしたが、逆に鑑定評価を使っても問題が解決できなかったケースもあります。

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