「消滅時効」の期間を原則として統一
前回の続きです。
②消滅時効の期間の変更
現在、消滅時効は「権利を行使できるとき」から進行するとされ、その期間は10年とされています。しかし、たとえば工事代金はその時効が「3年」とされ、そのほかも特定の債権は「1年」や「2年」というように、通常の消滅時効よりも短い、短期消滅時効として規定されています。
しかし改正案では、バラバラだった消滅時効の期間を原則として統一。消滅時効の原則的規定として、「債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年」「権利を行使することができるときから10年」で時効によって消滅すると規定しています(定期金債権、不法行為に基づく損害賠償請求権などのような例外はあり)。
③売買のリスク移転時期の明示
たとえば不動産取引で、代金支払前に、第三者の不注意で火事が起こったときに売主と買主のどちらがリスクを負担するか(売主は代金を請求できるのか、買主は代金の支払いを免れるのか)という問題に関し、契約実務においては、売買の目的物の実質的な支配が買主に移る以前は売主が、移った後は買主がそれぞれリスクを負担すると考えられていました。しかしながら、この点を明確に規定した条文がなかったため、改正法では、引渡し(物の支配の移転)を基準にリスク負担者が変更する旨を明示しました。
「定型約款」に対する法的拘束力について明文化
④定型約款に対する法的拘束力
今回の民法改正は「120年ぶりの大改正」となるため、120年前には一般的ではなかった「定型約款」に関する規律が改正案では新設されています。
定型約款とは、定型取引(たとえば消費者ローン契約、鉄道・バスなどの運送契約、電気・ガス・水道の供給契約など)における契約内容とすることを目的として、その事業者により準備された契約文書をいいます。
現状では、定型約款に法的な拘束力があるかどうかについて明確な規定がなく、専門家の間でも意見が分かれていましたが、改正案では、定型的な約款に対して一定の条件の下で法的拘束力を認め、また、その拘束力の限界についても明文化しました。
⑤時効の完成猶予及び更新
たとえば売買代金の支払いについて相手方との間で協議をしていたとしても、時効の完成が近づいた場合、時効の完成を阻止するためには、「訴えの提起」等により、時効を「中断」することが必要です。
改正案では、時効の「停止」「中断」の制度が、時効の「完成猶予」「更新」の制度に再構成されます。時効の「完成猶予」は、時効の完成が妨げられるという効力一般をいい、時効の「更新」は、進行した時効が効力を失い、新たな時効が進行を始めるということをいいます。
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