今回は、金正男殺害事件に残された「謎」を取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

残された謎

前回の続きです。

 

ほかにも、謎がいろいろある。

 

例えば、マレーシアにある北朝鮮大使館の二等書記官が関与しているといわれている。ところが、最初からマレーシアは「この人間を逮捕する」と言っている。本来なら、外交関係に関するウィーン条約で外交官は逮捕されないはずです。

★外交関係に関するウィーン条約:1961年にオーストリアで開かれたウィーン会議で採択され、64年に発効。外交官の特権や免除を規定。

 

ただし、それには条件がある。マレーシアに赴任してマレーシアの駐在外交官としての申請をして受け入れられた場合です。外交官リストに載っていて外交官身分証明書をもらう、そういう外交官でないといけないんです。そういう人に対して外交特権が適用される。

 

ちなみに今回、殺害された金正男が持っていた「キム・チョル」という人物のパスポートは、実は外交旅券でした。しかし、金正男は外交官ではありません。だから、外交旅券を持っていても外交官としての登録がなされていなければ外交特権がないわけです。

 

私はもともとソ連を担当していました。だから経験があるのですが、東京に来るソ連の外交官の中には、「長期出張者」というのがいたんです。これは外交官リストに名前が載らない。外交官としての外交ビザは出るんだけども、厳密に言うと外交特権を持っていないわけです。だから、表に名前が出ない。諜報活動というのはそういう長期出張者にやらせることもあります。

 

その手口から考えると、今回のマレーシアの北朝鮮大使館の二等書記官も、事件後しばらく北朝鮮大使館の中に逃げ込んでいたけれど、これも長期出張者だった可能性がある。こういうことを含めて、さまざまな問題点があるわけです。

 

いずれにせよ、ここで明らかになったのは、北朝鮮という国は必要になれば外国の領土の中でも自分にとって都合の悪いやつは殺すと、これぐらいの国際法違反は平気でやるということですね。

心配なのは、独裁者の「痛風」と「痔ろう」

ところで、ちょっと余談ですが、今、世界のインテリジェンス・コミュニティーで、金正恩の病気についてみんな心配しているんです。

 

何について心配しているのか。がんとか、脳卒中とかではありません。心配している病気は二つある。一つは痛風。もう一つは痔ろう。

 

金正恩は相当太っています。かなりの確率で痛風を持っているはずです。痛風の発作って、これは本当に耐えられない痛みだといいますね。もし痛風の痛みがあるときにミサイルを撃つかどうかという判断をやらないといけなくなったらどうなるか。「イテテ」といいながら、ミサイルのボタンを誤って押してしまうかもしれない

 

それから、痔ろうを持っている人は、椅子なんか痛くてずっと座っていられないし、集中できないでしょう。だから、会議の報告を最後まできちんと聞かない。それで判断を間違えることがある。

 

痛風と痔ろうは、独裁国家で指導者が判断を間違えるときの理由になり得る。

 

病気で判断を間違えるというのは、歴史上に結構ある事例なんです。

 

例えば西郷隆盛。西郷はなぜ政府軍に負けたのか。西郷隆盛の軍の方が軍隊としての訓練はできていたんです。士気も高かった。一つは、当時、アメリカの南北戦争の後だったでしょう。あのときに政府軍は南軍の負けた将軍たちから南北戦争で余った最新の武器を手に入れたというのがあった。

 

あと、もう一つの理由は、西郷隆盛の判断ミスですよ。西郷隆盛が馬に乗っている銅像ってありません。どうしてか。彼はフィラリアだったからです。フィラリアが睾丸に来ちゃって、小玉スイカぐらいの大きさになっていた。それを三角布でいつも吊っていた。今は、フィラリアで睾丸が膨れてひざの辺りまできている人なんてめったにいないけどね。これもものすごくつらくて、やっぱり判断ミスを起こす。

 

だから、独裁国家とか軍人を分析する際に病気を考えるのは、非常に重要な視点です。これは私だけが言っているのではなくて、東京大学名誉教授の山内昌之先生も強調しています。

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優

時事通信出版局

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