今回は、「クオーター化の原則」を取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

公衆の面前で殺害することに意味がある

ところで、北朝鮮の偵察総局、これはインテリジェンス部隊なんだけども、その能力からすれば、闇の中で金正男を殺すことは簡単です。今回、あえてそうしなかったところに意味がある。

 

先ほど「革命家の血筋を引いているからといって、その子がおのずと革命家になるわけではありません」ということを確認しました。

 

実は、金正男以外にも金日成の血を引いている人はほかにもいます。金正恩と母親が同じである兄の金正哲(キムジョンチョル)もそうだし、遠縁なら幾らでもいる。そういった人たちに、金正恩に逆らうとどうなるかをきちんと見せておく必要がある。そのために、劇場型の殺人を行わないといけない。この考え方は合理的です。

「クオーター化の原則」

では、実行犯は、何であんな訳の分からない素人の女を使ったのか。おおよそテロで使うような人材ではない。

 

インテリジェンスの用語で、「クオーター化の原則」というのがあるんです。作戦において一部分しか知らせず、全体像は司令塔以外、誰にも知らせないようにしておくという考え方です。

 

この「クオーター化の原則」の強みは、例えば、選挙違反で検挙することを考えてみると分かる。一番警察が困るのは「クオーター化の原則」を取って選挙違反をやられた場合だからです。末端の人間を買収や戸別訪問で逮捕しても、「言われた通りにやっているだけで、そこしか知らない」と言われる。さらに自分に指示を出した、さらにその上がどうなっているかは全然知らない形になっていると、立件したとしても公判を維持するのは非常に難しい。それと同じ構造です。あるいは「振り込め詐欺」の入れ子とか出し子。これを捕まえても、捕まった奴らは全体像は知らなくて、せいぜい漠然と何かよからぬことに関与しているなと思っている程度。今回の事件はこれと似たような形で、実行犯の女の子たちは全体像を知らない。

 

では、どうやってそういった子たちをリクルートするのか。

 

普通だったら、報酬が100ドルのテレビ番組に出るのに、何で2カ月も訓練するのかとか、何で外国まで行くのか、コストパフォーマンスがおかしいじゃないかと、ごく普通の人だったら考える。そういうことに疑問を抱かない、率直に言って頭の回転がそんなに速くない子を連れてきたわけですよね。それは、ちょっとしたインテリジェンス能力があれば、それぐらいの仕掛けというのはできるわけなんです。

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