高齢患者の在宅復帰を実現した「在宅サポートチーム」の尽力

前回は、高齢者を支えるインフラとなりつつある地域密着型サービスを解説しました。今回は、在宅サポートチームの尽力により、入院していた高齢者の在宅復帰が実現できた事例を紹介します。

介護施設への入所を勧められたAさんだったが・・・

こうした介護施設を運営し、その一つひとつと医療を連携させることによって、私の病院では多くの患者を受け入れ、自宅に帰すことができています。

 

なかには、他の病院から「自宅には帰せないだろう」といわれ転院してきた患者であっても、患者本人の「自宅に帰りたい」という意思を引き出し最適な治療とリハビリを行うことで、在宅復帰が可能になった例もあります。

 

しかも、自宅に帰ったあとでも、病院や介護施設と連携を行うことによって、常に患者の状態を把握し、必要があれば再入院などの処置ができるため、患者やその家族の安心感につながっています。ここでは、いくつかの患者の例を紹介していきます。

 

症例a 寝たきりの状態でも妻の協力と医療連携で自宅へ

 

80代の男性患者Aさんは、脳梗塞による後遺症で左半身麻痺、ろれつ障害を持ちながら自宅で生活していました。ある日発熱、呼吸不全を起こし、E病院に入院し、胸部レントゲン検査の結果、誤嚥性肺炎と診断されました。抗生剤を点滴することで肺炎は治癒したのですが、嚥下障害、体動困難が残り、まったくの寝たきり状態になってしまいました。

 

退院して自宅に戻ることは難しいだろうと介護施設への入所を勧められましたが、「自宅で介護したい」という奥様の希望もあり、在宅復帰を目的とし、私の病院の地域包括ケア病棟に転院してきました。

 

まず、理学療法士による関節可動域訓練やベッドで座位を維持するギャッジアップ訓練、作業療法士による手指の作業訓練、言語聴覚士による嚥下訓練と発語訓練を開始し、ベッドから起き上がること、話すことができるように積極的にリハビリを進めました。

 

入院当初Aさんはまったくの寝たきり状態で発語もほとんどできず、誤嚥も多く、ギャッジアップしただけで血圧が低下してしまう状態でしたが、リハビリの成果から次第にギャッジアップにも耐えられるようになりました。さらに、計算もできるようになり、発語量も増え、ついには冗談までいえるようになったのです。

 

積極的なリハビリの効果でかなり改善したことは事実でしたが、それでも在宅介護が困難なことには変わりありません。しかしAさんの奥様は、リハビリによりAさんの日常生活機能が改善していくことに自信を持ち、「在宅で過ごさせてあげたい」という思いがますます強くなっていくようでした。内心私は「本当に、こんな小さな身体の奥様が、大きな身体で全介助を要するご主人の介護ができるのだろうか?」と心配をしていました。

 

内科的な全身管理は私が行っていましたが、Aさんにとって難しいのは医療の管理ではなく、介護の管理でした。奥様の「在宅介護がしたい」という希望を叶えるべく、私の病院で介護支援連携会議を開催することにしました。

 

リハビリと退院後の介護プランの作成で、無事自宅へ

会議にはご本人、奥様、主治医、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、介護支援専門員が参加し、病状の知識や能力の情報共有をし、在宅介護のために必要な機器や体制について話し合いました。

 

地域包括ケア病棟には60日間という期限があるため、残りの入院期間で、できる限りのリハビリを行い、身体機能の改善に努めました。最終的にほぼ誤嚥はなくなり、発語量も増え、座位が保持できる状態まで改善することができました。

 

同時に介護支援専門員に介護プランを作成してもらい、退院後は自宅に介護ベッドを用意し、訪問診療、訪問看護、訪問リハビリ、訪問薬剤指導、訪問入浴サービスを利用するプランを立て、無事退院となりました。

 

退院後も、医療連携は続きます。私が自宅へ訪問診療をし、経過を診させて頂きましたが、ほぼ寝たきりで嚥下機能も低下している状態での在宅介護のため、状態が悪化し、再入院することは防ぎきれないだろうと予想していました。

 

しかし、予想に反し奥様の献身的な介護と多職種のサポートにより、その後一度も再入院することはなかったのです。いつもご自宅に伺うと笑いが絶えず、奥様は素晴らしい介護をしているなと感心していました。

 

訪問診療を開始してから約1年後、Aさん夫婦は息子さんの家の近くに転居することが決まり、Aさんは私達の手から離れることになりました。どんなに介護を要する場合でも、適切なリハビリによって身体機能を回復させ、家族と医療・介護の連携がうまくいけば、安定した在宅介護が可能になるのだと驚くとともに、チーム医療・介護の大切さを実感した貴重な体験でした。

 

Aさんは、きっと今でも新たな在宅サポートチームとともに、笑いながら楽しい毎日を過ごしているはずです。

 

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連載高齢者のための地域医療――「地域」と「医療」の連携で取り組む体制作り

医療法人清水会 理事長
相生山病院 院長 医学博士

1970年10月ニューヨーク生まれ。1歳半で帰国し、以後名古屋で育つ。
1989年愛知県立旭丘高等学校卒業。1996年藤田保健衛生大学医学部医学科を卒業後、1998年より名古屋第一赤十字病院循環器科へ赴任。翌年に藤田保健衛生大学医学部循環器内科に帰局し、内科認定医、循環器専門医を取得。
2007年、相生山病院副院長に就任、2013年には院長に就任。「患者に寄り添う医療」をモットーに、看護師や医師の対応、サービス等を改善するなどホスピタリティ向上に尽力している。
2016年3月、医療法人清水会理事長に就任。現在は高齢患者の健康寿命を延ばすため、認知症かかりつけ医・認知症サポート医として認知症予防や運動療法の普及にも積極的に取り組んでいるほか、介護施設も多数運営。地域で先駆けて「地域包括支援センター」として市の委託事業に参画。地域の医療・介護サービスの充実を目指している。趣味はトライアスロン。

著者紹介

医療・介護連携で実現する 高齢者のための地域医療

医療・介護連携で実現する 高齢者のための地域医療

佐藤 貴久

幻冬舎メディアコンサルティング

2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となり、全国民の3人に1人が65歳以上になると予想されています。これまでと同じ医療体制を続けていては、高齢者は自分の望む最期を迎えられないばかりか、増える高齢者によって医療費が膨…

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