ビジネス戦略「選択と集中」が中小企業で奏功しない理由

前回は、展示会への出店が、未来の協力企業と出会うきっかけとなった事例を取り上げました。今回は、有名なビジネス戦略「選択と集中」が中小企業では効果が出ない理由を見ていきましょう。

米のゼネラル・エレクトリック社CEOが始めた戦略

私の会社は本当に田舎のたいした娯楽もない名張市にあります。きっと名張と聞いてすぐにそれがどこにある町か答えられる人の方が少ないような田舎です。にもかかわらず、川合を筆頭に私の会社には非常に優秀な技術者が集まる。それはやはり技術オタクにとってやりがいのある環境があるからだと思います。

 

プロジェクト成功のセオリーとして「選択と集中」、「合議制」という考え方がよくあげられますが、私の会社には存在しません。むしろその逆、種は蒔けるだけ蒔いて、芽が出て、花が咲きそうだとわかってから栄養という名のお金を費やすことを心がけています。その環境がいい人材を呼びユニークな商品を開発することにつながっていると思います。

 

そもそも、選択と集中という考え方は、1980年代に米・ゼネラル・エレクトリック社のCEOであった、ジャック・ウェルチが始めた戦略として有名です。

 

具体的には企業が行っている事業のうち、得意分野の1、2の事業に絞って大きな投資をしていく一方、それ以外の事業は縮小もしくは撤廃するやり方で、事業の再構成と資源の再配分を行うことで全体の業績を効率的にあげようとするものです。近年、本屋に行くとこの「選択と集中」にまつわる経営書がとても多く、私の周りの中小企業経営者たちの中にもその思想を自分の会社に取り入れているケースをよく聞きます。

 

しかし、それによって圧倒的に業績をあげている中小企業は少ない印象です。そればかりか、うまく自社のシステムの中に組み込むことができず、大きく業績を下げている会社の話をよく耳にします。

リスクの大きさ、長期的な展望の描きにくさが問題に

どうしてこのようなことが起こるのか。原因は大きく2点あります。

 

一つ目は資金力の問題です。選択と集中という経営術は、当たりはずれがあまりにも大きく、確かに成功すれば大きな利益を出すことができるかもしれませんが、その分失敗した時のリスクも大きい。資金潤沢な大企業が行うならともかく、一度失敗してしまえば倒産に追い込まれてしまいそうな規模の中小企業が行うのはあまりにもリスキーなのです。メディアで取り上げられているのは全て「成功例」です。しかしその陰で何千、何万という経営者が悔し涙を流していることを理解しなければなりません。

 

私の会社のような規模の企業では、ギャンブルではなく小さな種を身の丈サイズでコツコツ育てていく方が向いているのです。だから最初から開発テーマを設定し予算をつけるなどということはしません。できないというのが正しいかもしれませんが、当たるか当たらないかわからない商品に予算をつけてしまえば、予算を使って開発することが仕事になってしまう。社員にとって目標が開発を成功させることではなくなり、計画を進めることになってしまうのです。

 

その点、当初から予算を設けてプロジェクトを組み、大々的に取り組むのではなく、日常業務の延長上で、研究者がチャレンジする小さなトライであれば、開発の途中で技術を転換したりテーマを変えることは容易です。そこに社員に対するプレッシャーや無駄な費用は発生しない。だからこそ自由な研究風土が生まれるのです。やりがいも生まれるのです。

 

川合はこう語っています。

 

「私がオキツモを選んだのは、まずは耐熱塗料の分野でトップシェアを持っているということ。ナンバーワンの企業はどんな技術力を持っているのか、どんな開発をしているのか、そこに興味がわいたのです。もともと技術職での求人を探していて、なるべく先端の商品を開発している会社がいいなと思っていたので、私の会社は希望とぴったりでした。

 

なぜ中小企業を選んだのかというと、私の中では大企業はお堅いイメージがあったのです。大企業に入った先輩たちの話を聞くと、まず研修がやたらに多いといいます。企業イメージもあるだろうし、規則やルールも多そうじゃないですか。人事的にも希望の部署に行けるかわからないし。

 

でも中小企業だったらもっと伸び伸びできそうです。実際私の会社の研究者は、本当に自分のスタイルで好きなだけ研究をしています。自分の性格もこういう規模の中小企業に向いていたのだと思います。

 

研究費のことや残業時間のことも最近はあまりいわれませんし。研究をコストではなく投資と見てくれていると思います」

 

二つ目は、開発に関しては長期的な展望が描きにくくなっているということです。いうまでもなく私たちは、ゴーイングコンサーン(継続企業)を前提として経営を続けています。ある事業を行っている間にも、次世代事業への種蒔きは絶えず続けていかなければならないのです。特に、驚異的なスピードで技術が発達する時代です。商品のライフサイクルは短くなり、次々に新しい技術が世に出てきます。そんな中では小さな予算で、より多くの商品を開発しながら、常にアンテナを張ってビジネスチャンスを狙わなければ生き残っていけません。

 

グローバル社会で情勢がめまぐるしく変化し、先が予測できないいまだからこそ「選択と集中」という成功セオリーは通用しなくなってきているのです。

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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オキツモ株式会社 代表取締役社長

1967年生まれ。三重県出身。耐熱塗料やフッ素樹脂塗料など、世界トップシェア製品を次々と生み出すオキツモ株式会社の後継者として1992年、大学卒業と同時に入社。1996年オキツモ・インターナショナル(アジア)代表取締役社長、2000年オキツモ株式会社常務取締役を経て、2002年に同社代表取締役社長に就任。

著者紹介

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小しています。大手メーカーは海外に市場を求め、海外での現地生産を加速していますが、海外に拠点を持たない国内の中小企業は、生き残りをかけた熾烈な競争を余儀なくされています。…

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