今回は、「海外留学を理由とした別居」を、財産分与の基準時としない例を紹介します。※本連載は、弁護士として活躍する森公任氏、森元みのり氏による編著、『2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、財産分与の概要と、分与対象財産の確定方法を説明します。

夫婦相互の協力関係を、具体的に考慮する必要がある

②別居時を財産分与の基準時としない場合(海外留学を理由に別居した例)

 

<POINT>

財産分与の基準時は夫婦相互の協力関係を具体的に考慮した上で、当該協力関係が失われたときとする。

留学を理由とした別居は、協力関係が存在すると決着

<事案の概要>

申立人:妻(無職・40代前半)

相手方:夫(会社員・40代後半)

 

① 申立人と相手方は、平成13年に婚姻し、平成20年に協議離婚した。

 

② 離婚後、申立人が相手方に対して、財産分与を求めて、財産分与調停を申し立てた(不調により審判に移行)。

 

③ 婚姻期間中、申立人は平成15年4月から平成16年11月までの間、海外に留学していた。同留学期間中に、相手方は数回申立人に会いに渡米したほか、申立人との間で頻繁に電子メールのやり取りをし、申立人の求めに応じて日本から荷物を送るなどしていた。

 

④ 申立人と相手方は、婚姻後、上記申立人の留学期間を除き、同居して生活し、家事の分担に加え、住居費や光熱費等を相手方が負担する等の経済的協力関係も続いていた。

 

⑤ 相手方は、申立人が帰国してからは、同居はしていたものの、顔を合わせることもなく、会話もなく家庭内別居状態であったのだから、財産分与の基準時は、協議離婚した平成20年でなく、申立人が海外留学した平成15年4月であると主張した。

 

⑥ そのため、財産分与の基準時について争点となった。(参考:平成25年10月東京家庭裁判所審判(【事例6】【事例18】【事例19】【事例25】【事例34】【事例44】と同一事例))

 

<審判内容>

申立人と相手方は、婚姻後、本件留学中の約1年8か月間は別居していたものの、これは留学に伴う事実上の別居にすぎず、メールのやり取り等に照らして同期間中について夫婦の協力関係が存在しなかったとはいえないこと、上記以外の期間は同居して生活しており、この間、家事の分担に加え、住居費や光熱費等を相手方が負担する等の経済的協力関係も続いていたことからすれば、基準時については、離婚時とするのが相当である。

 

この話は次回に続きます。

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