今回は、隣の空き地に積み上がった廃タイヤの撤去を求めるケースについて解説します。※本連載は、『空き家・空き地をめぐる法律実務』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、困った空き家・空き地の問題について、Q&A形式で解説します。

「安全に生活する権利」が侵害されている場合なら・・・

Q:隣地は空き地となっていますが、少し前から、別の場所でタイヤ販売店を営んでいる空き地の所有者が廃タイヤを持ってくるようになり、現在では廃タイヤが山積みになっています。崩れ落ちないか心配なのですが、廃タイヤを撤去してもらえないでしょうか。

 

A:空き地の所有者がタイヤ販売店を営んでいるとすると、廃タイヤを有償あるいは無償で引き取った上で、自己の所有地である空き地に持ち込んでいると考えられます。そうだとすると、廃タイヤは、産業廃棄物あるいは一般廃棄物に当たるため、廃棄物処理法によって処理する(行政に対応してもらう)ことが考えられます。

 

次に、原則的には自己の所有地をどのように利用するかは所有者の自由であって、廃タイヤが山積みになっているからといって、隣に住んでいるあなたが法的に廃タイヤを撤去するよう請求することは困難です。しかし、廃タイヤの山積みによる損害が、社会生活上一般に受忍すべき限度を超えているような場合には、安全に生活する権利(人格権)が侵害されているため、その撤去を求めることも可能と考えられます。

屋外で廃タイヤを保管する際、保管基準遵守が必要に

解説

 

1 廃タイヤの適正処理

 

(1)産業廃棄物と一般廃棄物

 

事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物は産業廃棄物とされ(廃棄物2④一)、一般廃棄物とは産業廃棄物以外の廃棄物とされています(廃棄物2②)。

 

廃タイヤの場合、営業用の車から取り外したものは産業廃棄物(廃プラスチック類)に該当し、一般ユーザー(営業車以外)の車から取り外したものは一般廃棄物とされています。

 

(2)産業廃棄物処理業の許可

 

産業廃棄物である廃タイヤの引取り(処理の受託)をするには、産業廃棄物処理業の許可が必要となります。以前は環境大臣の指定を受けたタイヤ販売店等では、産業廃棄物処理業の許可がなくても産業廃棄物である廃タイヤの引取り(処理の受託)が可能でしたが、平成23年4月1日以降は上記許可が必要となりました。

 

(3)廃タイヤの保管

 

タイヤ販売店は処理業者等に処理を委託して廃タイヤを適正処理しなければなりませんが、それまでの期間、廃タイヤを保管しておくことがあります。屋外で廃タイヤを保管する場合は、産業廃棄物の保管基準を遵守する必要があります。その中には高さについての制限もあります。

 

本問では、廃タイヤが山積みになっているということですが、その場所における高さ制限等に違反していれば保管基準違反となり、行政機関に改善命令(廃棄物19の3)や措置命令(廃棄物19の4)を出してもらうことで、廃タイヤを撤去させることが可能です。また、それでも対応がない場合には、行政代執行(廃棄物19の7)による廃タイヤの撤去もあり得ます。

 

なお、高さ制限以外にも、保管基準に違反している可能性もあります。

 

2 所有者の権利と限界

 

(1)原則

 

原則として、自己所有の土地をどのように利用するかは所有者の自由です。そのため、当該土地に何らの権原を有していない他人が、所有者の土地利用の方法について法的に何か請求することはできません。

 

しかし、他の人と共存しながら社会生活を送っている以上、自己所有の土地であるからといって、他人の迷惑を顧みずに何をしてもよいというわけではありません。すなわち、所有者の自己の土地の利用方法(本問では廃タイヤを山積みにすることによる損害)が、社会生活上一般に受忍すべき限度を超え、隣人の権利を違法に侵害しているような場合には、所有者に対し廃タイヤの撤去を求めることも可能といえます。

 

(2)安全に生活する権利

 

本問では、廃タイヤの山積みによる損害が社会生活上一般に受忍すべき限度(受忍限度)を超えて、隣人の安全に生活する権利を侵害しているか否かが問題となります。安全に生活する権利は憲法上明文がありませんが、憲法13条では、人が社会生活上有する人格的利益を目的とする権利(人格権)が保障されており、安全に生活する権利も同条で保障されていると考えることができます。

 

(3)受忍限度

 

受忍限度を超えているか否かを判断する上で、廃タイヤの山積みが産業廃棄物の保管基準に違反しているか否かは重要な判断基準になると思われます。そこで、廃タイヤの山積みが産業廃棄物の保管基準に違反しているか否かをはじめ、様々な要素を考慮して、受忍限度を超えているか否かを判断することになります。

 

そして、受忍限度を超えており、具体的な危険が生じているような場合には、廃タイヤの撤去は緊急を要します。そのため、本問がこれに当てはまる場合は、仮処分の申立てをして、早急の撤去を求めることになります。

 

逆に、仮に受忍限度を超えていないと判断される場合には、法的に廃タイヤの撤去を求めることは困難です。

 

受忍限度を判断する上で参考になる事例として、平成22年9月28日に廃タイヤ14万7,000本を山積みにした業者に対し廃棄物処理法違反の疑いで現場検証したという事件があります(出典:沖縄タイムズ)。

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    本連載は、2016年2月15日刊行の書籍『空き家・空き地をめぐる法律実務』(新日本法規出版)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    空き家・空き地をめぐる法律実務

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    編集:旭合同法律事務所

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