今回は、隣の空き家から崩れ落ちた瓦等の妨害物を撤去してもらいたい際の対応について解説します。※本連載は、『空き家・空き地をめぐる法律実務』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、困った空き家・空き地の問題について、Q&A形式で解説します。

仮処分の決定により、妨害物を撤去させることが可能

Q:先日の台風で、隣の空き家の屋根が壊れ、私の土地に崩れ落ちてきました。しかも、崩れ落ちてきた場所が駐車場であるため、その後車を停められずに困っています。崩れ落ちた瓦等が大量で、私自身で取り除くことは困難です。すぐにその妨害物を取り除いて欲しいのですが、どうすればよいでしょうか。

 

A:空き家から崩れ落ちてきた屋根の一部は、あなたの土地の所有権を侵害していますので、土地の所有権に基づいて妨害排除請求をすることができます。ただ、空き家の所有者が任意に崩れ落ちてきた屋根の一部を撤去してくれればよいのですが、そうでない場合には、訴訟を提起する必要があり、時間がかかってしまいます。

 

しかし、本問のように早く撤去してもらう必要がある場合には、仮処分の申立てを行うという方法があります。仮処分の決定が出れば、早期に屋根の一部の撤去をさせることができますし、それでも撤去しないときは、空き家の所有者の費用で執行官に撤去をさせることができます。

空き家の所有者に「内容証明郵便」で撤去を要求

解説

 

1 土地の所有権に基づく妨害排除請求

 

本問のように土地の上に妨害物が存在する場合には、土地所有権に基づいて、その妨害物の撤去を求めることができます。そのため、妨害物によって、土地の所有権を侵害されている所有者は、まずは、妨害物の所有者(空き家の所有者)に対し、内容証明郵便で妨害物の撤去を求めるなどして、任意に妨害物の撤去を求めることになります。

 

次に、妨害物の所有者が任意に撤去してくれない場合には、訴訟を提起することになりますが、その際には、次の事実を主張・立証する必要があります。

 

① 原告が当該土地を所有していること

② 被告の所有物が当該土地上に存在すること

 

なお、被告が当該土地の占有権原を有しないことは、所有権に基づく妨害排除請求権の発生要件ではないため、主張する必要はありません。

 

2 仮処分

 

妨害物を撤去してもらうために訴訟を提起した場合、判決が出るまでには時間を要することが多いため、妨害物を早期に取り除くことは困難です。

 

その場合は、仮処分という手続があります。

 

仮処分の申立てをするには、次のことを主張立証する必要があります。

 

① 被保全権利
② 保全の必要性

 

(1) 被保全権利

 

被保全権利では、どのような権利を有しているのか、どのような権利(理由)に基づいて何を請求するのかということを記載することになります。

 

本問の場合の被保全権利は所有権であり、妨害物によって所有権を侵害されているので、その撤去を求める権利を有していることを具体的に主張することになります。

 

(2) 保全の必要性

 

保全の必要性では、判決を待っていられない事情を具体的に記載する必要があります。この保全の必要性があるか否かは仮処分が認められるか否かを決するといってもよいくらいですので、裁判官を納得させられるように説得的に主張する必要があります。

 

(3) 立証の程度

 

本案訴訟の場合には、「証明」という厳格な立証が必要になりますが、仮処分の場合には、証明ほどの厳格な立証までは必要でなく、「疎明」という証明と比較して軽度の立証で足ります。

 

(4) 保証金

 

仮に、仮処分の申立てが不当であって、本案訴訟で原告が敗訴した場合、被告である仮処分の相手方は損害を受ける可能性があります。その相手方からの損害賠償請求の対象になる資産を確保する必要があることから、申立人は保証金を提供する必要があります。

 

保証金の額は、裁判所の自由な裁量によって決定されます。裁判所によって、一定の基準を設けていることもあるようですが、あくまでもそれは参考であって、当該事件の具体的事情や申立ての理由についての疎明の程度を考慮して妥当な額を決定しているのが通常です。

 

(5) 本問の場合

 

本問では、妨害物が駐車場にあるため車を停められないという状況にあるので、保全の必要性は高いといえ、仮処分は認められる可能性が高いと思われます。

 

(6) 申立ての趣旨(例)

 

申立ての趣旨は、以下のようになると考えられます。

 

1 債務者は、この決定送達の日から〇日以内に、別紙物件目録記載の土地上にある〇〇を収去(撤去、除去)せよ

2 債務者が上記期間内に上記物件を収去(撤去、除去)しないときは、債権者は、債務者の費用で、〇〇地方裁判所執行官に上記物件を撤去させることができる

との裁判を求める。

 

参考判例

●台風に伴う風雨により土砂が隣地に崩壊落下したため、隣地の所有者がその所有権に基づいて土地内に堆積されている土の撤去と将来の土地崩壊を予防するための擁壁工事の実施を求める請求をしたところ、土砂の撤去は認容したものの、予防工事に関する請求については棄却した事例(東京高判昭51・4・28判時820・67)

本連載は、2016年2月15日刊行の書籍『空き家・空き地をめぐる法律実務』(新日本法規出版)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

空き家・空き地をめぐる法律実務

空き家・空き地をめぐる法律実務

編集:旭合同法律事務所

新日本法規出版

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