多忙な研究者が「北極の生き物たちの物語」を執筆した理由

~著者インタビュー

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幻冬舎ルネッサンス新社
多忙な研究者が「北極の生き物たちの物語」を執筆した理由

今回は、多忙な研究者である著者が、1冊の書籍にどのような想いを込めたのかをインタビュー形式で探ります。※本連載では、毎回ひとつの事例をあげ、なぜ人々は本を出すのか、そして、本を出すことでどんなドラマが生まれるのかを探っていきます。

「生き物たちの関わり合い」を伝えたい

林健太郎氏は国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の研究員である。なぜ多忙な業務の傍らで筆をとり続けてきたのか。著書『薫風のトゥーレ』を執筆された経緯を聞いてみた。

 

――出版をされたきっかけや目的は何ですか?

 

私は書き物が好きです。研究者という仕事柄、書く機会はたくさんありますけれど、仕事の文章には様々な縛りがあります。思うままに書きたい、と今回上梓した物語の落書きを始めたのは2015年の夏でした。私が大好きな北極の生き物たちの物語を作ろう、そんな思いからキャラクターや話のプロットを創り、次第に膨らんでいきました。

 

ところが、書いては消しての繰り返しが続き、いつになれば完成するのか全く掴めずにいたのです。完成には「締め切り」とそれを「仕切る人」が必要だと思い、幻冬舎ルネッサンスに相談をもちかけたのは2016年の春でした。すぐに編集者が付いてくださり、実現に至ったのです。

 

――出版前後で何か変化はありましたか?

 

まとまった分量の物語を書き切ったのはこれが初めてで、大きな達成感を覚えました。出版物として仕上がった本書を手にした時の喜びは忘れられません。関心を持ってくださる知人が多く、物語を通じて北極の生き物たちの関わりがスッと理解できた、主人公のホッキョクギツネが可愛らしい、北極の自然をもっと知りたくなった、などのありがたい感想をいただいています。

 

 

――出版社や編集者とのやり取りで印象深かったことはありますか?

 

編集者の締め切り管理は全く厳しいものではなく(笑)、それでも、編集者が付いてくださることでスケジュールに沿ったメリハリの利いた執筆ができたと思います。初校、二校、念校と校正が丁寧で、間違いの単なる指摘のみならず、具体的な改善提案があったことにも感謝しております。帯の紹介文や本書のカテゴリー分けなどは編集者がどんどん進めてくださりました。

 

中には私の思惑と異なるところがあり、それについて指摘するとすぐに対応くださりました。つまり、執筆者からもどんどん提案することが大切だと思います。

 

――原稿に散りばめたこだわりや制作秘話など、ご著書の紹介をお願いします。

 

北極の自然を紹介する書は様々にありますが、薫風のトゥーレは、物語を通じて北極のツンドラに暮らす「生き物たちの関わり合い」を知っていただくことを狙っています。ファンタジー小説とも括れますけれど、私としてはスバールバル諸島をモチーフとした「ネイチャー・ライティング」と捉えています。

 

全20章の物語の各章末に北極の事柄を紹介するイラストと記事を入れ、小説&解説という一風変わった本になっています。生き生きとしたイラストを多数描いてくださったイラストレーターにも感謝しています。

 

この物語の主人公がホッキョクギツネであることは最初から決めていました。北極に棲むネコのようなイヌと称される彼らは、とても興味深く愛らしくたくましい動物です。彼らと関わり合う動物たちもツンドラの植物たちも魅力的ですし、厳しくも美しい北極の自然も素晴らしいものです。

 

そして、北極は急速に変わりつつあります。是非もっと知ってください。実は、解説パートの構成と記事は第58次日本南極地域観測隊の帰りの観測船しらせの中で作り上げました。文字通りの缶詰生活のおかげでじっくりと取り組めました。

 

 

林健太郎 著

『薫風のトゥーレ』

 

 

極北の冷たい海に囲まれた隔絶の地、トゥーレに5頭のホッキョクギツネが生まれた。

やがて子ギツネ達は自分で狩りをするようになるが、ソルだけはどうしても狩りができなかった。「ボクのために何かを新たに殺すのはダメなんだよ」そういってソルが食べるのは既に死んでいる生き物ばかり。ホッキョクギツネは生まれて約3カ月で親離れをする。はたしてソルは極北の冬という長い試練を耐え抜き、トゥーレの地で生きて行けるのか。

「生きるってことは、食うってこった」――雄大な自然と命のつながりを、極北の島に住む生き物たちの目線で描いたファンタジー小説。