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連載知っておきたい海外投資にまつわる税金【第10回】

海外移住後の相続発生時、相続税と贈与税はどうなる?

制限納税義務者ジョイントアカウント

海外移住後の相続発生時、相続税と贈与税はどうなる?

前回は、海外移住後にどんな税金が日本で発生するのかを解説しました。今回は、海外移住者が死亡した場合、相続税や贈与税の取扱いはどうなるのかを見ていきます。

5年以上海外に移住していた場合、国外財産は非課税

前回に引き続き、海外移住後にかかる税金について見ていきます。今回は、海外移住者が、移住先で死亡した場合の相続税や移住期間中に財産を贈与した場合の贈与税について説明します。

 

海外移住者が継続して5年を超えて海外に住所を有している時に死亡し、相続人もその時点で継続して5年を超えて海外に住所を有している場合は、相続人は制限納税義務者となり国外財産については相続税が課税されません。贈与の場合も同じように、贈与者と受贈者の双方が継続して5年を超えて海外に住所を有する時点で贈与を行えば、国外財産の贈与については贈与税が課税されません。

 

また、海外移住者の場合は日本に住所を有していないことから、平成25(2013)年度税制改正大綱による「日本国内に住所を有しない個人で日本国籍を有しない者が、日本国内に住所を有する者から相続もしくは遺贈または贈与により取得した国外財産を相続税又は贈与税の課税対象に加える」の規定は当てはまらないため、日本国籍を有しない者への相続や贈与は以前と同じように制限納税義務者に該当することになります。

 

具体例で言うと、例えばXはA国に移住後20年目に死亡しました。奥さんのYは一人になったため半年後に日本に帰る予定です。長男Zは日本国籍を有する日本企業のサラリーマンで、B国の子会社に赴任しており、Xの死亡時はちょうど4年間B国在住となっています。Xの相続財産は、日本にある旧自宅を賃貸している不動産とA国の金融資産のみです。これら財産を二人で均等に相続しました。

 

この場合の相続税の取り扱いについて説明します。奥さんのYはXの死亡時点では住所がA国のため、XとY双方が継続して20年間海外に住所を有していることから制限納税義務者に該当します。従って日本にある不動産のみが相続税の課税対象となりA国にある金融資産は対象外になります。Yは半年後にA国を出国し日本に帰国する予定ですが、そのことは制限納税義務者の判断に影響しません。

 

次に長男Zですが、死亡時点では継続して4年間海外に住所を有しています。また、日本国籍を有しています。海外に住所を有する期間が5年を超えていないことから無制限納税義務者に該当します。従って相続した日本の不動産はもちろんのこと、A国にある金融資産も相続税の対象となります。

 

この事例は、奥さんのYは制限納税義務者ですので、YがA国にある金融資産を全て相続した方が今回(Yの相続「以下、二次相続」を考慮せず)の相続税では有利になります。日本の不動産については、YとZのどちらがいくら相続しようが相続税の総額は変わりませんが、配偶者控除(最高相続財産1億6000万円まで)や二次相続を考慮して各人が納付する相続税の合計額をシミュレーションし、最も節税できる分割割合を決めることになります。

共有口座「ジョイントアカウント」のケースでは・・・

海外移住後の贈与に関しては、ジョイントアカウントの利用によって贈与税が課されるか否かという議論もあります。

 

海外の銀行には、ジョイントアカウントという共有名義で口座開設できる制度があります。海外移住者が現地でジョイントアカウントを開設し、そこに日本から資金を送金した時点で贈与税の問題が発生するのか疑問が生じます。

 

そもそもジョイントアカウントは日本に無い制度のため、馴染みがありません。夫婦でジョイントアカウントを利用する場合、預け入れた資金の50%の権利が強制的に一方へ移転するのか、あるいは単に名義人(夫婦)が預金を引き出せる権利があるだけなのかで、入り口で贈与税が課税されるのか、あるいは資金を引き出し自己の名義で資産等を購入した時に贈与税が課税されるのかという2つの見解があるのも事実です。

 

ここでは、ジョイントアカウントの原資の相当部分を夫が稼得したもので、それに対する管理支配を夫が行っているとの前提で日本の税務上の解釈がどうなるかを検討します。まず、日本では夫、妻が各々、過去に稼得した金額に対して、各々の銀行口座を開設しているはずですが、それが外国ではたまたまジョイントアカウントという種類の預金で保有されているにすぎないと考えることができます。

 

つまり、名義上、夫婦はジョイント(半々で)口座を持っていますが、実質は日本での金額割合を維持していると捉えるわけです。例えば夫が90%、妻が10%の預金原資を各々拠出したならば、そのジョイントアカウントの真実の所有者は90%が夫、10%が妻となるでしょう。ここでの40%分(すなわち妻の持分2分の1である50%と拠出割合10%の差額)は、夫の持分が単に妻の名義分(ジョイントアカウントとして)とされているにすぎないとみなせます。従って、ジョイントアカウントを開設し資金を送金した時点では夫から妻への贈与は発生しないと言えます。

 

ただし、妻が夫婦の日常の生活費を引き出すことについては問題ありませんが、妻名義の資産や口座へ資金を移動すると、その時点で贈与の問題が発生する可能性があります。この場合でも、贈与を受ける妻が制限納税義務者に該当すれば、すなわち、夫と妻が継続して5年を超えて海外に住所を有していれば、そのジョイントアカウントが国外財産である限り日本の贈与税の問題は生じません。

 

次に、海外移住していたが高齢になったため日本に帰国する時に、海外のジョイントアカウントの資金をどのように日本に送金するかという問題があります。

 

日本の銀行口座は夫婦各々の名義となるので、それぞれの口座にいくら送金するのか悩ましいところです。日本の銀行口座に海外から送金した資金は国内財産となるのかどうか、国内財産に該当すると制限納税義務者であっても贈与税の課税対象です。また、日本に住所を移した後に送金すると、無制限納税義務者に該当し、国外財産でも贈与税の対象となります。

 

そこで、最も税務的に問題が生じない日本への送金は、先に述べた課税の原則からすると、ジョイントアカウント開設後に移住先でさらなる資産形成が無い限り、当初のジョイントアカウント開設時点で夫婦各々が拠出した資金割合で計算した金額で各々の口座に送金することです。

 

ただし、海外移住中に夫婦間で贈与が行われた場合は、その贈与後の各々の資金になります。この場合は、贈与契約書や妻名義口座に資金移動した事実等、納税者が贈与を立証する書類等を保管しておいてください。ちなみに夫婦間の贈与は非課税としている国もあります。

本連載は、2013年3月22日刊行の書籍『富裕層のための海外分散投資 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

永峰 潤

永峰・三島会計事務所  パートナー

公認会計士・税理士。 東京大学文学部西洋史学科卒業。米国ペンシルヴァニア大学ウォートンスクール卒業(MBA)。等松青木監査法人(現監査法人 トーマツ)、バンカーズ・トラスト銀行(現ドイツ銀行)を経て、現在、永峰・三島会計事務所パートナー。

著者紹介

三島 浩光

永峰・三島会計事務所 パートナー

税理士。
中央大学大学院商学研究科修了。BDO三優監査法人税務部門を経て、現在、永峰・三島会計事務所パートナー。

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富裕層のための海外分散投資

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永峰 潤,三島 浩光

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