前回に引き続き、中小企業の「事業承継に向けた準備」の進め方を説明します。今回は、経営改善について見ていきましょう。※本連載は、島津会計税理士法人東京事務所長の岸田康雄氏と、事業承継コンサルティング株式会社の取締役である村上章氏による共著、『図解でわかる 中小企業庁「事業承継ガイドライン」完全解説』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋し、中小企業庁によって策定された「事業承継ガイドライン」を分かりやすく読み解き、「事業承継」の重要性について詳しく探ります。

経営改善に努め、良い状態で後継者に事業を引き継ぐ

前回の続きです。

 

【3】 ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)

 

全国各地で開催されている「事業承継セミナー」では、中小企業経営承継円滑化法(事業承継税制)が教えられることがあります。

 

しかし、事業承継税制の適用が効果的である企業は、株価の高いごく一部の会社(法人)に過ぎません。日本の中小企業の大多数は赤字であり、債務超過です。ほとんどの会社(法人)の株価はゼロなのです。

 

 

このような中小企業にとって重要な課題は、企業そのものの存続であり、後継者が引継ぐと決心することができるかどうかです。例えば、損益は黒字ではあるが、多額の借入金を抱えて財務内容が悪い企業です。

 

このような景気の動向によって倒産するリスクを抱えていますから、後継者は先代経営者が負担していた個人保証を引継ぐ勇気があるかが問われます。

 

また、倒産するほど悪くはないが、僅かな赤字が続き、その回復が見込めない企業です。事業の将来性そのものが無く、それを経営する意味が無い状況であれば、後継者はその事業を経営したいとは思わないでしょう。

 

これら業績が悪化した企業の事業承継、これが大きな問題となっています。単体での再建が困難であれば、同業他社との経営統合などによる抜本的な業績改善が必要となるでしょう。それができなければ、再生プロセスを経て、金融機関の支援によって事業の存続を図るしかありません。

 

親族内承継においては、相続税対策に重点が置かれすぎるあまり、事業とは無関係な資産の購入や、節税を目的とした持株会社の設立等により株価を意図的に低下させるなど、中小企業の事業継続・発展にそぐわない手法が用いられる場合があるとの指摘がなされています。

 

しかし、事業承継は、経営者交代を機に飛躍的に事業を発展させる絶好の機会であること、経営者は、次世代にバトンを渡すまで、事業の維持・発展に努め続けなければならないこと等を考慮しますと、親族内に後継者がいる場合であっても、現経営者は経営改善に努め、より良い状態で後継者に事業を引き継ぐ姿勢を持つことが望まれます。

 

近年の親族内承継の大幅な減少の背景には、事業の将来や経営の安定について、親族内の後継者候補が懐疑的になっていることがあります。こうしたことからも承継前に経営改善を行い、後継者候補となる者が後を継ぎたくなるような経営状態まで引き上げておくことや、魅力作りが大切です。

 

「磨き上げ」の対象は、業績改善や経費削減にとどまらず、商品やブランドイメージ、優良な顧客、金融機関や株主との良好な関係、優秀な人材、知的財産権や営業上のノウハウ、法令遵守体制などを含み、これらのいわゆる知的資産が「強み」となること多くあります。また、「磨き上げ」は、自ら実施することも可能ですが、対応が多岐にわたるため、効率的に進めるために公認会計士や中小企業診断士を得ることも有益でしょう。

強みを作り、弱みを改善して「競争力」を強化

①本業の競争力強化

 

本業の競争力を強化するためには「強み」を作り、「弱み」を改善する取組みが必要となります。例えば、自社のシェアの高い商品・サービス、ニッチ市場における商品・サービス等の拡充、技術力を活かした製品の高精度化・短納期化、人材育成や新規採用等を通じた人的資源の強化などが挙げられます。また、取引先やマーケットに偏りが見られる場合は、これを是正し、事業リスクの分散を図ることも大切です。

 

なお、本業の競争力を強化するためには、「中小企業等経営強化法」に基づく「経営力向上計画」を策定・実行することが有効です。

 

「中小企業等経営強化法」は、人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や設備投資など、自社の経営力を向上するための「経営力向上計画」を作成・申請し、国から認定を受けることで支援措置が受けられる制度です。この申請書の「現状認識」においては、財務状況の分析ツールである「ローカルベンチマーク」の活用が想定されています。

 

②経営体制の総点検

 

事業承継後に後継者が円滑に事業運営を行うことができるよう、事業承継前に経営体制の総点検を行う必要があります。例えば、社内の風通しを良くし社員のやる気を向上させる、役職員の職制、職務権限を明確にすると同時に業務権限を段階的に委譲する、各種規定類、マニュアルを整備し、業務が効率良く流れる体制を作るなどガバナンス・内部統制の向上に取り組むことが大切です。

 

また、事業に必要のない資産や滞留在庫の処分や、余剰負債の返済を行うなど経営資源のスリム化に取り組むことも重要です。

 

③経営強化に資する取組

 

足下の財務状況をタイムリーかつ正確に把握することが適切な経営判断に繋がり(財務経営力の強化)、財務情報を経営者自らが利害関係者(金融機関、取引先等)に説明することで、信用力の獲得につながります(資金調達力の強化、取引拡大の可能性)。

 

④業績が悪化した中小企業における事業承継

 

中小企業の財務状態を改善することは、円滑に事業承継を行うために極めて重要です。債務整理等の事業再生を行う必要がある中小企業において、これを放置しておいては、後継者を確保することもままならず、事業承継を行ったとしても、後継者が苦労するであろうことは明らかでしょう。この意味で、事業承継のタイミングは事業再生を行う契機であり、事業承継を円滑に行うためにも、早期に事業再生に着手する必要があります。

 

事業再生が必要な場合、まずは弁護士等の専門家に相談することが重要です。また、中小企業の個別の事情に応じた適切な再生スキームの選択や金融機関等との交渉方針について、公認会計士の助言を得ることも有益でしょう。

 

さらに、個々の具体的な事情によって、金融機関の任意の協力がある場合や、 これを望めない場合も当然あり得る。財務状況にもよるが、いわゆる再生プロセスを経るべき場合も少なくありません。このような再生プロセスは、裁判所が関与するものを法的整理、関与しないものを私的整理として区別されます。

 

この話は次回に続きます。

 

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    本連載は、『図解でわかる 中小企業「事業承継ガイドライン」完全解説』(ロギカ書房)を一部抜粋し、加筆・再編集したものです。

    図解でわかる 中小企業庁「事業承継ガイドライン」完全解説

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