今回は、中小企業の事業承継の現状をより詳しく探ります。※本連載は、島津会計税理士法人東京事務所長の岸田康雄氏と、事業承継コンサルティング株式会社の取締役である村上章氏による共著、『図解でわかる 中小企業庁「事業承継ガイドライン」完全解説』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋し、中小企業庁によって策定された「事業承継ガイドライン」を分かりやすく読み解き、「事業承継」の重要性について詳しく探ります。

業績が好調なのに、後継者不在で廃業する企業は多い

【1】 中小企業における事業承継の現状

 

経営環境の変化によって業績が悪化し、事業の存続が難しくなる企業があります。これは時代の流れの中で避けることはできません。そのため、業績の悪化、将来性の無さから、多くの経営者が廃業を考えています。

 

その一方で、子供がいないことから後継者が見つからない、子供がいても事業を引継ぎたいと思わないケースも多く見られます。大企業に就職して活躍してしまうなど、子供の生き方が多様化しているからでしょう。このような場合、業績が悪化していない企業でも事業承継ができなくなります。つまり、後継者不在に起因する事業承継が大きな問題となるのです。

 

このことから、近年は、親族以外から後継者を選ぶケースが増えてきています。つまり、従業員や社外(第三者)から後継者を選び、事業承継を行うのです。

 

【2】 後継者確保の困難化

 

日本政策金融公庫総合研究所が2016年に公表した調査(日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2016年2月))によれば、調査対象企業約4000社のうち60歳以上の経営者の約半数(個人事業主に限っていえば約7割)が廃業を予定していると回答しています(図表1)。

 

そのうち廃業を予定している企業に廃業理由を聞いたところ、「当初から自分の代限りで辞めようと考えていた」(38.2%)、「事業に将来性がない」(27.9%)に続いて、「子供に継ぐ意志がない」「子供がいない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者難を挙げる経営者が合計で28.6%に達しました(図表2)。

 

この背景には、近年の息子・娘の職業選択の自由をより尊重する考え方の広がりや、足下の業績から予測される自社の将来性が不透明であること等、事業承継に伴うリスクに対する不安の増大等の事情があると指摘されています。

 

[図表1]後継者の決定状況

出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2016年2月)

 

[図表2]廃業予定企業の廃業理由

出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2016年2月)

 

なお、この調査では、廃業予定企業であっても、約3割の経営者が、同業他社よりも良い業績を上げていると回答し、今後10年間の将来性についても約4割の経営者が少なくとも現状維持は可能と回答しています。このことは、廃業予定企業が必ずしも業績悪化や将来性の問題のみから廃業を選択しているわけではないことを示しています。

 

[図表3]同業他社と比べた業績

出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2016年2月)

 

[図表4]今後10年間の事業の将来性

 

こうした企業が円滑に事業承継を行うことができれば、次世代に技術やノウハウを確実に引き継ぐとともに、雇用を確保し、地域における経済活動への貢献を続けることにもつながることでしょう。

早期の事業承継計画と、後継者確保を含む準備が必要

【3】 親族外承継の増加

 

後継者確保の困難化等の影響から、近年、親族内承継の割合が減少するとともに、親族外承継の割合が増加しています

 

2015年に中小企業庁が実施した調査(みずほ総合研究所(株)「中小企業の資金調達に関する調査」(2015年12月))によれば、在任期間が35年以上40年未満(現経営者が事業を承継してから35年から40年経過している)の層では9割以上が親族内承継、すなわち現経営者は先代経営者の息子・娘その他の親族であると回答しています。

 

一方、この調査では在任期間が短いほど親族内承継の割合の減少と従業員や 社外の第三者による承継の増加傾向が見られ、特に直近5年間では親族内承継の割合が全体の約35%にまで減少し、親族外承継が65%以上に達しているとの結果が示されています。

 

[図表5]経営者の在任期間別の現経営者と先代経営者との関係

出典:みずほ総合研究所㈱「中小企業の資金調達に関する調査」(2015年12月)

 

【4】 早期取組みの重要性

 

後継者の育成、後継者を中心とした経営体制への移行の作業には時間を要します。そのための移行期間が5年~10年です。事業承継のターゲット、引退する年齢を70歳と設定しますと、逆算して60歳には事業承継の準備に着手しなければいけないのです。

 

必ずしも業績に問題のない中小企業が廃業の道を選んでしまう実態が存在しています。そのような中小企業が、やむを得ない廃業に至ることなく、円滑な事業承継を実現するためには、早期に事業承継の計画を立て、後継者の確保を含む準備に着手することが不可欠なのです。

 

現に、中小企業経営者の高齢化が進んでいる状況の中、実際に準備に着手し ている企業は70代、80代の経営者ですら半数もありません。準備に着手していない中小企業の中には、様々な事情から実際の取組に移ることができていない中小企業の他、そもそも事業承継に向けた準備の重要性を十分に認識していない中小企業も多数存在しているものと考えられます。


後継者の育成期間も含めれば、事業承継の準備には5年~10年程度を要することから、平均引退年齢が70歳前後であることを踏まえると、60歳頃には事業承継に向けた準備に着手する必要があると言えるでしょう。

 

[図表6]経営者の年齢別にみた事業承継の準備状況

出典:㈱帝国データバンク「中小企業における事業承継に関するアンケート・ヒアリング調査」(2016年2月)

 

[図表7]後継者の育成に必要な期間

出典:中小企業基盤整備機構「事業承継実態調査」(2011年3月)

 

事業承継には明確な期限がないことから、差し迫った理由、例えば健康上の問題等がなければ、日々の多忙さに紛れ、対応を後回しにしてしまうことはやむを得ないことでしょう。

 

しかし、経営者の交代があった中小企業において、交代のなかった中小企業よりも経常利益率が高いとの報告もあり、事業承継を円滑に行うことができれば事業の成長の契機となるのです。その反面、失敗すれば事業の継続自体も危ぶまれる可能性があります。

 

このことから、中小企業経営者が、自身の経営者としての責任において向き合わざるを得ない課題が事業承継なのです

 

[図表8]経営者の交代による経常利益率の違い

出典:㈱帝国データバンク「COSMOS1 企業単独財務ファイル」、「COSMOS2 企業概要ファイル」、2007年度から2008年度にかけて経営者の交代の有無により、経常利益率を比較

 

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    本連載は、『図解でわかる 中小企業「事業承継ガイドライン」完全解説』(ロギカ書房)を一部抜粋し、加筆・再編集したものです。

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