前回は、トップが「現場」に出る目的について解説しました。今回は、「経営理念」がテーマです。「経営理念」とはそもそも誰のためにあるのか、何のためにあるのかを見ていきましょう。

経営理念とは「社長が自身を律する」ためにあるもの

最近書店に行くと、会社にとって今、経営理念がもっとも大事などという本を多く見かけるようになりました。

 

「そうか、経営理念が大事か」と共感される社長に聞いてみると、「だいたいうちの社員がだらしがないのは、経営理念がなかったからだ。早速、経営理念をつくって壁に貼って、朝礼で全員に唱和させることにしたら、社員が変わってきた!」

 

ホントですか? 変わったと思っているのは社長だけではないですか? そもそも経営理念というのは、社長自身の信念として、この会社を通して、世の中でどんな役割を果たしていくのか。社長自身が道を外れそうになった時、常にここに立ち返ろうとするものですから、経営者理念とでもいうべきものです。

 

人間には、エゴも欲もある。社長自身のエゴや欲を、常に照らし合わせながら自戒していくべきものが理念だと思うのです。そして、その社長の後ろ姿を見て社員が発奮する・・・。社員の行動を律するのは、二義的な要素です。

ヨシケイ埼玉の例に見る「真の経営理念」とは?

私の顧問先に、夕食材料宅配サービスを行っているヨシケイ埼玉という会社があります。この会社は、東日本大震災の直後、安心安全な食材の確保とガソリンの確保に非常に困難な状態の中で、「お客さまが夕食でお困りにならぬよう、何としてもお届けを継続していきます」と宣言して、約束通りすべてのお客さまに通常通りの宅配を実施しました。

 

「まさかこんな時に届くと思わなかったよ」という感動の声とお礼の手紙をたくさんいただいたそうです。後日、社長とお会いした時に、うれしそうにその手紙を見せてくれました。この「姿」こそが、経営理念だと思うのです。社長の「どんな状況下であろうと、何としても安心安全な食材をお届けする」という信念です。

 

理念が具体的なエピソードとして解釈されなければ、経営理念などというのは、絵に描いた餅であり、壁に貼って「カラスのカーカー」と社員に歌わせることとは次元の違う話です。

 

人というのは、目に見えるものだけで行動を決めているわけではありません。その人の奥底にある考え方や価値観があるのです。私は今でも、この文章を手帳の中に大切にしまっています。

 

[図表1]ヨシケイ埼玉「お届け商品と配達について」

私の事務所でも、震災後の計画停電では、計画通りに100%消えたので、通常の2.5倍の値をつけたインバーター付きの発電機を早速手に入れ、デスクワークができるように、デスクライトも数個購入しました。停電中は固定電話が不通になるので、緊急連絡用に携帯電話を急いで3本そろえ、「毎月の訪問は予定通り、必ずお伺いします」とFAXでアナウンスしました。

 

ヨシケイ埼玉のような感動の声はまったくいただけませんでしたが、それでもこういう時こそ、何としても私たちの役割を果たそうと思いました。同業者の中には、停電で仕事にならないからと事務所を休みにしている方も多かったということを後で知りました。

本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『低成長時代に業績を伸ばす社長の条件 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

低成長時代に業績を伸ばす 社長の条件

低成長時代に業績を伸ばす 社長の条件

関根 威

幻冬舎メディアコンサルティング

バブル崩壊以降、日本経済は長期的な低迷を続けています。いまや日本企業の75%が法人税を払っていないのが現状です。このような低成長時代には、経営者は何を心がければいいのでしょうか――。 本書では、外部コンサルタント…

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