今回は、セガ・エンタープライゼス事件の判例を見ていきます。※本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。

解雇を無効とし、地位保全・賃金仮払いを求めた事案

〈判例〉

セガ・エンタープライゼス事件

(東京地裁平成11年10月15日決定、労判770・34)

 

〈負け裁判の概要〉

 

S社は、業務用娯楽機械・家庭用ゲーム機器の製造販売を業とする株式会社であり、Xは、平成2年広島大学大学院社会科学研究科博士課程前期を修了し、同年4月1日、S社と期限の定めのない雇用契約を締結した社員である。

 

Xは、人事部採用課、人材開発部人材教育課、CS品質保証部ソフ卜検査課等に配置された後、平成10年12月、所属未定、特定業務のない「パソナルーム」に配置されていた。

 

本件は、S社が、人事考課平均値が3点台であるXを含む56名に退職を勧告し、Xのみが応じなかったところ、就業規則に定める解雇事由である「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」にあたるとして解雇したため、Xが右解雇を無効として、地位保全および賃金仮払いの仮処分を求めた事案である。

 

なお、Xの配置先の経歴は以下のとおりである。

 

<平成2年4月1日> 

入社(試用期間:3カ月)

人事部採用課の配属(担当業務:採用事務)

 

<平成2年7月1日> 

正式採用

 

<平成2年9月1日>

人材開発部人材教育課へ異動(担当業務:社員教育)

 

<平成3年5月1日> 

企画制作部企画制作一課に異動(担当業務:国内の外注管理)

 

<平成5年7月1日> 

企画制作部企画制作一課が解散

開発業務部国内業務課に移管・同課の配属(担当業務:アルバイト社員の雇用事務、労務管理および品質検査業務)

 

<平成6年9月1日>

第二設計部(後に第二開発部と名称変更)に配属(担当業務:従前と変更なし)

 

<平成9年8月1日>

CS品質保証部ソフト検査課に配属(担当業務:従前と変更なし)

 

<平成10年12月10日>

パソナルーム勤務開始

※所属は未定で特定の業務はなく、私物の持込みは禁じられるとともに、みだりに職場を離れない、外出するときは人事部へ電話連絡をするといった条件が付されていた。パソナルーム勤務は、通常、異動候補者が受入れ先を探しはじめて1カ月後に命じられており、これまで9名がパソナルーム勤務となり、そのうち2名がパソナルームから社内の部署に異動している。

 

<平成11年3月31日> 

解雇

解雇事由が「合理的な理由を欠く」と判断

〈なぜ会社が負けたのか? 弁護士のポイント解説〉

 

セガ・エンタープライゼス事件は、リストラ解雇が相次いだ当時、「労働能力の低い者」の大幅な人員整理を始めた業界大手の同社において、退職勧奨に応じない高学歴のXに対し、人事考課の平均的な水準に達していないことをもって解雇できるか注目を集めた事件ですが、結論として、本件の解雇は無効であると判断されました。解雇は、①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります(解雇権濫用法理、労働契約法16条)。

 

本決定は、解雇事由である「労働能率が劣り、向上の見込みがない場合」にあたらない、すなわち合理的な理由を欠くものとして、Xの主張する解雇権濫用の主張を採用したものですが、なぜ会社は、負けてしまったのでしょうか。本決定も、以下の事実を認定し、Xの業務遂行能力が平均以下であることを認めています。

 

① 的確な業務遂行ができなかった結果、配置転換させられた。

② 海外の外注管理を担当できる程度の英語力を備えていなかった。

③ 取引先から苦情が出て、国内の外注管理業務から外された。

④ アルバイト社員の雇用事務、労務管理についても高い評価は得られなかった。

⑤ 3回の人事考課の結果は、いずれも下位10%未満の考課順位であり、Xのように平均が3であった社員は、約3500名の社員のうち200名であった。

 

以上の事実を見ますと、いかにも、会社が勝てそうなのですが、解雇事由である「労働能率が劣り、向上の見込みがない場合」を限定解釈されて、会社は負けてしまいました。

 

本決定は、会社に解雇回避努力を求めて、安易な解雇に警鐘を鳴らしたものでしょうが、私見ではありますが、事前法務を徹底していれば会社は勝てていたのではないかと思われます。

 

果たして、どのような場合に能力不足を理由とする解雇が有効となるのでしょうか。会社が負けた事情を分析すれば、能力不足を理由とする解雇が有効となる可能性が高まります。

労務管理は負け裁判に学べ!

労務管理は負け裁判に学べ!

堀下 和紀,穴井 隆二,渡邉 直貴,兵頭 尚

労働新聞社

なぜ負けたのか? どうすれば勝てたのか? 「負けに不思議の負けなし」をコンセプトに、企業が負けた22の裁判例を弁護士が事実関係等を詳細に分析、社労士が敗因をフォローするための労務管理のポイントを分かりやすく解説…

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