プラス資産が多くても、実家を「相続放棄」すべきケースとは?

今回は、プラス資産のほうが多くても、実家を相続放棄したほうがいいケースを見ていきます。※本連載は、長年、不動産会社で不動産金融・不動産法務に従事し、現在は相続・不動産コンサルタントとして活躍する藤戸康雄氏の著書、『「負動産」時代の危ない実家相続 知らないと大損する38のポイント』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、実家の相続について問題点や対策をわかりやすく解説します。

限界マンションの所有には、様々な「面倒ごと」が伴う

前回の続きです。

 

さて、話をもとに戻しましょう。もし、あなたの実家が「限界マンション」や「限界集落の老朽戸建て」である場合、被相続人の財産から葬儀費用を賄った後に200万円の現金が残るとしたら、単純承認しますか? 相続放棄しますか?

 

実家を相続した後で管理組合の総会等に出席して、「大規模修繕のための一時金を払えない人をどうするか?」などの困難な話し合いに参加を余儀なくされ、挙げ句の果てに結局は相続した200万円の現金をそれに充てることになっても、あなたはその限界マンションに住む予定がないとしたら、何のために相続したか分からなくなりますね。

 

遠くの限界集落の老朽戸建てを相続したらもっと大変かもしれません。役所が「特定空き家」に指定するかしないかの実態調査に「立ち会ってください」と言われれば、飛行機代など往復で何万円もかかります。

 

また、特定空き家に指定されたら解体業者を探して解体作業を依頼しなければなりません。そのときも立ち会いを求められるかもしれません。解体費用が200万円でも、相続財産をトータルで考えたら赤字=マイナスになっているかもしれません。

 

もし、親が生きている間に「親が亡くなった後の実家をどうするか」について、家族会議ができるならとても良い方法があります。それは、親が持っている預貯金について、葬儀費用に充てるお金を取り分けて、その残余の額(例えば200万円だとして)で一時払いの生命保険(一時払い終身保険)に入るのです。そしてその生命保険の受取人を相続人(複数いる場合はもめないような取り決めをしておきます)にしておきます。そして親が亡くなったら相続放棄をするのです。

 

相続放棄をしても受取人が相続人の生命保険は「法律上は相続財産ではなく、相続人固有の財産」とされ保険金を受け取れます(相続税法上は「みなし相続財産」として相続税計算の対象になりますが)。そのうえで「要らない実家」の相続は免れることができるのです。

 

相続放棄しても「管理責任」が発生!?

でも、その場合でも注意は必要です。相続人のいない実家はどうなるかといいますと、「相続財産管理人」が選任されて何らかの方法で処分され、最終的には国庫に帰属することになります。ところが、相続財産管理人が選任されるまでは放棄をしたはずの「相続人になる予定だった人=元法定相続人」には老朽家屋の管理責任が発生するのです(民法940条1項)。

 

●民法940条1項

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

 

従って、相続財産管理人が選任されるまでの間に、もし屋根瓦が落下して通行人に当たるなどの危険性があれば修繕をしなければなりませんし、万一のことを考えると家屋に保険を掛けておくことも必要かもしれません。

 

そして、一番重要なことは、ほかに債権者等の利害関係人がいない場合は、相続放棄をした元法定相続人が「利害関係人」として家庭裁判所に「相続財産管理人選任の申し立て」を行わない限り、いつまでも相続財産管理人が選任されず、管理責任がついて回るということです。

 

この相続財産管理人の選任申し立てには、家庭裁判所に収める収入印紙代800円と官報公告料3775円が必要となりますが、その他の費用は原則として必要ありません。不動産等の財産がある場合は、その売却費用や管理人の報酬は相続財産の中から支払われることとなるからです。

 

ところが、限界集落の老朽戸建てなど買い手がつかないような不動産では管理人の報酬すら賄えないと見込まれるため、相続財産管理人選任申し立てを行う者が「予納」する必要があるのです。予納とは読んで字のごとく「予め納める」お金です。払った後で余りがあれば戻ってきます。しかしながら、この予納金が高額なのです。裁判所や地域ごとに異なりますが、だいたい20万~100万円の範囲で必要といわれています。それでも、「特定空き家」を相続するよりも相続放棄をしたほうがいいのかもしれません。

 

限界マンションの場合はちょっと異なります。相続人が全員相続放棄をしてしまえば、管理責任はマンションの区分所有者全員で構成される「管理組合」になりますから、元相続人であった人が相続財産管理人の選任申し立てを行わなくて済みます。ですから、もし、親に多少なりとも預貯金があれば生前に「家族会議」を行って、預貯金は生命保険に使ってもらい、実家だけが残ったなら相続放棄をすることで相続人は「負の遺産」から解放されることになります。

 

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連載「実家相続」の落とし穴…大切な家を「負動産」にしないノウハウ

相続・不動産コンサルタント ファイナンシャルプランナー

1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピューターメーカー、コンサルタント会社を経て、バブル崩壊後に大手住宅ローン保証会社で不良債権回収ビジネスに6年間従事、不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、J‐REIT黎明期にREIT上場準備会社、世界最大級外資系不動産投資ファンドのアセットマネージャー、不動産投資ベンチャーの役員等、大小数々の不動産企業において不動産金融・不動産法務の最前線で活躍して25年が経過。アパート2棟と自宅不動産を東京都内に所有する妻の実家で相続が発生。それを契機にアパートオーナー等の不動産相続の大変さに気付き、相続・不動産コンサルタントを目指す。現在1級ファイナンシャルプランニング技能士・公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士。

著者紹介

「負動産」時代の危ない実家相続  知らないと大損する38のポイント 

「負動産」時代の危ない実家相続  知らないと大損する38のポイント 

藤戸 康雄

時事通信出版局

日本全国で約820万戸の「空き家」「所有者不明の土地」が九州の面積以上!実家や土地は、もはや「負動産」不動産は捨てられない! 2015年1月から相続税の基礎控除が大幅に縮小され、課税対象となる人が増えました。「実家が持…

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