前回は、幅広く利用された「手形取引」のメリット・デメリットを取り上げました。今回は、「電子債権化」「下請法等改正」により、従来の手形取引のデメリットが解決できる理由を見ていきます。

支払期日前の現金化で、3%以上割り引かれることも・・・

前回の続きです。

 

手形には従来、特に受取人の側に大きなデメリットがもうひとつありました。それは、受け取った手形を支払期日前に金融機関に持ち込み買い取ってもらう際のコストが高いということです。

 

手形は支払期日になれば振出人が決済して現金化できるのは当然ですが、その前でも一定の利率で割り引いたうえで、金融機関が買い取ってくれます。

 

その際の利率は、普通に考えれば、振り出した企業の信用力も加味して計算されそうなものですが、実際には慣例上、手形を持ち込んだ企業の信用力によって決まるのです。

 

市場金利は、バブル崩壊を経て、ゼロ金利政策、さらには安倍政権でマイナス金利が導入されたことで大幅に下がりました。いまや信用力の高い大企業であれば、0%台の金利で銀行から資金を借りることも可能です。

 

銀行は大企業に対しては、無担保コール市場の金利を反映した「TIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate)」を基準にします。これは、東京市場で銀行同士が短期の資金を融通し合うときの金利であり、一般に非常に低く、直近では6カ月もので0.1%台です。

 

一方、中小企業向けには、銀行は短期プライムレートを基準にします。TIBORは2008年に0.9%台だったものが現在0.1%まで下がっていますが、短期プライムレートは2007年の1.875%が現在1.475%に下がっただけです。大企業向けの基準金利は0.8ポイント下がっているのに、中小企業向けのそれは0.4ポイントと半分しか下がっておらず、しかも2009年以降8年間も横ばいです。

 

さらに、銀行は中小企業に対しては短期プライムレート(1.475%)に一定の利率を上乗せします。上乗せ幅は手形を持ち込んだ企業の信用力によって変わり、だいたい1〜3%といったところです。

 

その結果、中小企業では手形を支払期日の前に銀行で現金化しようとすると、3%以上割り引かれてしまうことがあるのです。額面1億円の4カ月の手形であれば100万円以上です。

電子記録債権により、手形決済が低コストに

この点については、下請法等の改正により、大企業が下請けの中小企業に振り出した手形であれば、今後、割引利息を大企業が負担することになる可能性があります。そういう意味では、大企業が中小企業などの下請企業に振り出す手形については、受取人側のデメリットはなくなります。

 

しかし、手形は大企業と下請けの中小企業との間で振り出されるものに限りません。中小企業同士や、中小企業からさらに零細な事業者への振り出しにおいても広く利用されており、一定のニーズがあります。

 

理由のひとつは、銀行による中小企業向けの貸し出しがここ20年で81兆円も減少しているなか、それをカバーするために企業間信用のマーケットが大きくなり、運転資金をカバーするために手形を使用しているからです。

 

また、一般に銀行は各企業の前期の決算書を参考に、翌年の融資枠を設定します。そのうえで、企業から融資の依頼があればその枠内で融資を実行します。中小企業からすれば、その枠は万が一というときのために備えてとっておきたいのです。融資枠を使い切ってしまった状況で追加融資を依頼しても、銀行は簡単には応じてくれません。そのため、中小企業としては、銀行からの借り入れという手段は万が一の際に残しておき、手形で支払を済ませようという傾向があるのです。

 

さらに、下請法では、支払条件の改悪、例えば現金払いから手形払いに切り替えることなどは違反行為となります。一度、手形をやめたら、手形に戻れないのです。そういうこともあり、手形払いを継続している中小企業が、いまだに多くを占めているのです。

 

こうした中小企業同士の手形決済においても、電子記録債権は有効です。手形と同じように支払まで一定の猶予期間を設けることができるうえ、手形払よりも低コストですみます。

 

紙の手形を廃止していくことは2017年年明けの安倍首相の施政方針演説でも明言されていましたが、電子記録債権は中小企業振興基準でも推奨されています。

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