2017年、大幅改正となった民法の「債権関係規定」。その影響は我々の生活にどのような形で及ぶのでしょうか。本連載は、早稲田大学大学院法務研究科教授・山野目章夫先生の著書、『新しい債権法を読みとく』(商事法務)から一部を抜粋し、債権法のなかの「賃貸借」に焦点を当てて解説します。

明治の制定以降、今回の民法改正は空前の規模に

2009年秋に法務大臣が民法の債権関係規定の見直しを諮問したことから始められた法制審議会の調査審議は、5年を要した。審議会に設置された部会の会議は、99回に及び、部会の審議の一環として行なわれた分科会も加えるならば、会議は100回を超える。その調査審議の成果を反映する法律案は、2015年の常会において内閣から衆議院に提出された。そして、この政府案について若干の修正が施されたものが、2017年の常会において両議院において可決され、これが法律となった。

 

明治に民法が制定されてからこのかた、空前の規模の改正である。内容は多岐にわたり、従来の考え方を改める事項があるかたわら、確立した判例や通説として定着している考え方を確認する事項もみられる。

 

夏前に国会で法律が成立した年の秋、銀行にインハウスで勤める弁護士が同僚の銀行員と共に講演会を企画する。とはいえ、本書『新しい債権法を読みとく』(商事法務)が刊行されるとき、まだ秋は先である。本書によって、その少しばかり近未来の講演会をのぞいてみることに読者の皆さんをお誘いしたい。そこで私たちは、改正事項の全般を概観することにより、多岐にわたる改正の諸側面を知ることができる。

さまざまなドラマを生んだ「調査審議」

改正事項は、本当に多岐にわたる。現行の民法のわかりにくいところを改め、明快な制度にしているところも目立つ。現在の民法は、労力を提供して得られる報酬は、1年が経つと時効で消滅すると定める。会社である貸金業者の融資の債権は、5年間、時効に煩わされないで取り立てることができる。いろいろ比較やバランスのことを考えると、わからなくなってくる。明快な制度に変更する消滅時効改革は、今般改正の1つの注目点である。

 

新しい規定の中には、その文言を眺めるのみでは、趣旨をつかみにくいものもみられる。契約自由の原則を定める規定は、しかし、契約の相手方を選択する自由に沈黙し、言及がない。立案の経過までみると、背景がわかってくる。

 

また、民法というと、とかく専門的、技術的な法律であるとみられがちである。しかし、そうでもない。頼まれて知人の借金の保証をし、責任を負って家計が破綻した人たちがいる。借金をしたその人が自ら生涯を閉じた事例は、もっと痛ましい。遺書には、娘さんに宛て「お父さんらしい事、ひとつも、してやれなかったネ」と記されていた(毎日新聞2013年2月18日)。いったい、こんなことが許されてよいか。私たちと同じ時代に生きる人たちの境涯を思わずにはいられない。

 

5年にわたる調査審議は、さまざまなドラマも生んだ。個人保証の問題は、併行した中小企業庁と金融庁、そして日本商工会議所と全国銀行協会の取組みにより、事業資金の融資で保証の安易な徴求を控えるよう促す試みが始まっている。

 

実務的には、新しい規定がいつから適用されるか、ということも見落とすことができない。また、民法は他の多くの法令と関連があり、今般改正に伴い、他の各種の法令のどこが変わるかも、みておかなければならない。本書においても、施行の時期についての附則の定め、経過措置や関係法律整備について紹介に努めている。

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