前回は、セザンヌが絵画表現において模索し続けた「空間認識」を紹介しました。今回は、絵画のあるべき姿を探求したセザンヌの作品の特徴を紹介します。

「実在への認識が希薄な印象派」にいだいた疑問

印象派が、網膜に映る光の反射にこだわるあまり、対象の実在に対する認識が希薄になることに疑問をいだいたセザンヌは、円筒形、球、円錐のような、そこにあるという実在にこだわりました。

 

気難し屋で知られるセザンヌですが、ラテン語やギリシャ語を理解し、ボードレールの詩を愛するなど教養豊かな文化人でした。賞賛してくれる人もなく、仲間もいない中で、ただ一人、生まれ故郷の田舎にこもって絵画のあるべき姿を探求したその姿は、まさしく近代絵画の父と呼ばれるにふさわしいものでしょう。

 

しかし、いくらセザンヌといえども、すべての絵が高く評価されているわけではありません。2016年にロンドンのクリスティーズに出品された肖像画は1866-1867年頃、つまりセザンヌが27〜28歳の修業時代に描いた絵で、100万ポンドちょうどの落札額しかつきませんでした。それでも手数料を含めて120万ポンド(約2億円)という金額は、並の画家ではとうてい考えられないものです。

セザンヌが描く人物画の表情が、硬く冷たい理由

セザンヌはモデルにリンゴのような物体であることを求めたことから、人物画についてはそれほど得意としていません。どちらかといえば静物画や風景画のほうが有名です。

 

残された人物画の多くは自画像か、あるいは後に妻となるオルタンス・フィケのものです。マイペースなセザンヌに辛抱強く付き合ってくれるのは、彼女くらいしかいなかったのでしょう。

 

いくつか残っているセザンヌの人物画を見ると、モデルの表情が硬く冷たいものが多いことに気づきます。セザンヌにとって、絵の中の人間はあくまでも絵を構成する物体の一つにすぎなかったのかもしれません。それだけ純粋に描くことを追求したセザンヌだからこそ、死後、多くの芸術家の尊敬を集められたのです。

本連載は、2017年4月28日刊行の書籍『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画 』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画

「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画

髙橋 芳郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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