病魔との闘い、貫き続けた信念・・・ルノワールの晩年

前回は、ルノワールの生涯を取り上げました。今回は、リウマチに苦しんだ晩年のルノワールと、貫き続けたポリシーについて見ていきます。

年をとっても「描きたい絵」を描き続けたルノワール

1897年、自転車から落ちて腕を骨折した56歳のルノワールは、以前から患っていたリューマチ性関節痛にしばしば苦しめられるようになりました。

 

70歳以降のルノワールは、リューマチのせいで手も足もろくに動かなくなり、車椅子に座ったまま、手に固定した筆で絵を描いていたといいます。

 

そんな晩年のルノワールが描いたのは、若い頃のアリーヌのような、お尻の大きく血色の良い裸婦ばかりでした。

 

1913年、72歳のルノワールが描いた『化粧室の裸婦』を見てみましょう。

 

歩けない老人が描いたとは思えないほど、みずみずしく美しい絵です。この作品は2016年、ロンドンのクリスティーズ・オークションで、手数料込み389万ポンド(約6億7700万円)で落札されました。

 

決して低い価格ではありませんが、ルノワールの絵画の中でも最高額で取引されるのは、やはり『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏場』(120億円)に代表されるような印象主義時代のものや、かわいらしい女の子たちを描いた肖像画であって、晩年のお尻の大きな裸婦像は人気があるというわけではありません。

 

しかし、ルノワール自身は自分の絵画の変化に満足していたようです。年を取ると制作意欲を失い、若い頃の評価の高い画風を「売らんかな」の精神で再現する画家も多い中で、ルノワールは最後まで自分の技術の進歩を信じて絵を描き続けました。

最も魅力が発揮されたのは、好きな女性を描いた時

最晩年のルノワールの言葉の一つに、次のようなものがあります。

 

「私はまだ、少しましになっていくようだ。どう描けばいいのか、わかりかけてきたんだ。ここまでくるのに50年かかったが、やるべきことは、まだたくさんある!」

 

ルノワールは、生活の糧となる肖像画も含めて、ただ自分の楽しみのために絵を描き続けました。

 

職人を辞めて画家を目指した20歳のルノワールに対して、画塾の先生グレールが次のように語りかけたそうです。

 

「君はまるで自分が楽しむために絵を描いているようだね?」

 

それに対して、ルノワールはこう答えました。

 

「もちろんです。楽しくなかったら、絵なんて描きませんよ!」

 

さらに、次のようにも語っています。

 

「絵というものは、僕にとって、愛すべきもの、愉しくて美しいものじゃなきゃならない。人生には厭なことが多すぎるから、これ以上厭なものは作りたくないんだ」

 

女性の裸婦像や、かわいい女の子の絵が多いルノワールは、しばしばブルジョワ的だと批判の対象になります。しかし、好きなもの、美しいものを描いて何が悪いのでしょう。実際、多くの人がルノワールの女性に魅了されているのです。

 

ルノワールには、若い頃に唯一男性のヌードを描いた『少年と猫』という作品があります。その作品が1992年のオークションに出品された時には、9000万円程度の値段しかつきませんでした。

 

また『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏場』とほぼ同時期に描かれた『ヴェルネヴァルの海景色』という荒涼とした風景画は、2014年のオークションではおよそ8000万円でした。

 

同じルノワールでも、題材によって価格が大きく異なります。やはりルノワールは、好きな女性を描いた時こそ、その魅力が最もよく発揮されるのでしょう。

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連載モネ、ゴッホ、ルノワール・・・「値段」から読み解くフランス近代絵画

株式会社ブリュッケ 代表取締役

1961年愛媛県生まれ。多摩美術大学に進学後、美術大学で彫刻を専攻する過程で、人々の生活に溶け込む平面表現の魅力に目覚め、絵画の世界へ転向。卒業後、都内の画廊での修行を経て、1990年に独立。東京・銀座に、故郷の秀峰の名を冠した「翠波画廊」をオープンさせる。以降26年の長きにわたり、ピカソ、マティス、藤田嗣治、ユトリロ、ローランサン等、絵画愛好家なら誰もが知っている巨匠の作品を数多く扱う。特に20世紀初頭に活躍したフランス近代の画家に造詣が深い。
翠波画廊https://www.suiha.co.jp/

著者紹介

「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画

「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画

髙橋 芳郎

幻冬舎メディアコンサルティング

ゴッホ、ピカソ、セザンヌ、ルノワール、ゴーギャン、モディリアーニ…“あの巨匠”の作品に、数十万円で買えるものがある!? 値付けの秘密を知り尽くしたベテラン画商が、フランス近代絵画の“新しい見方”を指南。作品の「値…

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