今回は、損害保険の仕組みを見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、世の中で大数の法則がどのように活用されているかなどをご紹介します。

「同一性」を保つのが難しいと思われる損害保険だが・・・

次は、損害保険について話をしよう。生命保険は人が死亡したときにお金を払う保険だが、損害保険は、モノに対してかける保険である。例えば、自動車保険や火災保険などである。そのほか、飛行機や巨大タンカーなど、もっと大きなモノに対する保険もある。

 

生命保険と損害保険は、同じ保険でも中身はかなり違う。例えば、生命保険の保障額は大きくてもせいぜい1億円程度だが、損害保険の補償額はそれより遥かに大きくなることもある。巨大タンカーの海難事故や石油コンビナートの爆発事故では、補償額が1億円では済まないわけだ。

 

それに、損害保険の場合、生命保険に比べると契約数を増やすことが難しい。例えば船舶保険でいうと、人間と比べて船の数は遥かに少ないので、いくら頑張っても契約数を増やしていくことには限界があるわけだ。自動車保険や火災保険などは多くの契約を集めることができるが、補償するモノの規模が大きくなると、どうしても契約数が限られてきてしまう。

 

さらに、生命保険は予め保障額が決まっている「定額保障」なのに対して、損害保険は実際の損害額に応じて補償金を支払う「実損てん補」が基本である。そのため、契約毎の補償額が不均一になってしまい、「同一性」を保つのも難しい。

保険会社は契約を肩代わりし合い、ネットワークを形成

そのようなケースだと、一見して大数の法則を働かせるのが難しいように思える。それでは、損害保険会社は座して死を待つしかないのか? そんなことはない。彼らには、再保険という武器がある。

 

再保険とは、自社が補償している保険契約の一部をほかの損保会社に肩代わりしてもらい、その対価としてお金(再保険料)を支払う契約のことである。例えば、ある運航会社が、自社の豪華客船の海難事故を補償する保険を損保A社から購入したとする。そして損保A社は、豪華客船が万が一事故を起こした場合に補償額が巨額になることを懸念し、保険契約の40%を損保B社に再保険に出していたとする。

 

運悪く、その豪華客船は氷山に激突し沈没してしまい、損保A社は500億円の補償を請求された。ここで、損保A社が自分の財布から支払わなければならないのは、300億円である。残りの200億円(500億円×40%)は再保険に出しているので、損保B社が肩代わりしてくれるからだ。

 

さらに、損保B社も契約の一部を再保険に出していたとしよう。例えば、自社が補償している割合のうち50%を損保C社に再保険に出していたとする。その場合、損保B社が自分の財布から支払わなければならないのは、100億円である。残りの100億円(200億円×50%)は、損保C社が肩代わりしてくれるからだ。

 

さらに損保C社も、契約の一部を他社に再保険に出すことができる。また、再保険会社という、再保険のみを専門で取り扱う保険会社も存在する。このように、損害保険会社は、お互いの契約を再保険で肩代わりし合うことで世界的なネットワークを形成していて、その全体として大数の法則を働かせているのである。

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