正しい医療知識を伝えたい・・・多忙な医師が筆を取った理由

今回は、多忙な医師である著者が、1冊の書籍にどのような想いを込めたのかをインタビュー形式で探ります。※本連載では、毎回ひとつの事例をあげ、なぜ人々は本を出すのか、そして、本を出すことでどんなドラマが生まれるのかを探っていきます。

巷に氾濫する「根拠の乏しい健康法」を是正したい

作田英成氏は内科のドクターである。なぜ多忙な医業の傍らで何年も筆をとり続けてきたのか。最新著書『「老い」を遅らせる食べ方』を執筆された経緯を聞いてみた。

 

――出版のきっかけ、目的はなんですか?

 

テレビでも新聞でも雑誌でも、世の中には健康や減量効果を謳ったサプリや食事法が溢れかえっています。BS放送では特にそれが顕著です。また、そうしたサプリの販売と一体化した「商業的アンチエイジング」が流布しています。

 

私は内科医です。外来の患者の中にはそういったサプリや食事法に傾倒している方を多くいます。しかし、そういった健康法はどれも根拠が乏しいのです。でも、それを信じる人が多いというのは、きっと宣伝が上手なのでしょう。

 

――なぜこのタイミングで出版を決意したのですか?

 

私は10年前に仙台の病院に赴任したのですが、その頃から食事や生活習慣が健康や肥満や老化に及ぼす影響について創設(まとめ論文)を書いてきました。年10本くらいずつ書き続けたので、たまりにたまって百本近くになりました。

 

最初から意図してそうしたわけではないのですが、結果的にこの「生活習慣と老化」にかかわる分野について。まるまる十年間多くの英文論文を読み勉強してきたことになるのです。それで、それを集大成してみようと思ったのです。

 

私が書いてきた総説は、これまで医療関係者からは好意的にみられ、感想のお言葉なども頂戴していました。しかし、医師や看護師が読むにはよいのですが、主婦や会社員の方が読むにはちょっと難しい。そういう問題がありました。

 

ちょうど、今年は定年を迎える区切りの年だったので、それらをひとまとめにしてみようと思いました。総説は一般の人が読むには難しいので、一般の人が読めるように、総説百件の成果をわかりやすくまとめようと、そう思ったのです。

 

――出版前後の変化(自身の気持ちの変化や、家族・知人の反応など)はありましたか?

 

最初は「売れなかったらどうしよう」などと思っていましたが、途中で考えを変えました。一般の人々の受けを狙ったような「売れる本」を書くのが目的ではなく、一般の人々に真実を知らせる「知らせたい本」を書くのが本意なのだと。

 

だから、いまは売れるか否かは主な問題ではなく、「自分の心の中で思っていること」、自分がここ十年来、数千もの英文論文を読んできた中で「妥当であると考えていること」を書こう、今はそれが書けたという満足感があります。

 

よい本が売れるとは限りません。今年ノーベル文学賞をとった石黒氏でさえ、初期の代表作の日本語訳は受賞前には3万部しか売れていなかったのです。(いまは何十倍も売れているでしょうが)。まして、私の本が売れるはずもありません。

 

本文にゲーテの格言集から2つを引用しました。それを自画自賛していたのですが、この機会にこの格言集を30年ぶりに読み直してみました。そうしたら、著者の心構えのような一文が見つかったので、それを後書きの文末に一ページとって引用しました(240ページ)。なお、これは売れなかった時の言い訳になっています。

 

著者が読者に対して払い得る最大の敬意は、人の期待する[人気取りの]ものをもたらすことではなくて、著者自身が自他の教養のその時々の段階で正しく有用だと思うものをもたらすことである。ゲーテ(括弧書きは著者の追加)

 

本が出版されたとき、母が右膝の人工関節置換手術のため入院していました。本を母に届けたら、知り合い(多くは高齢者)にも読ませたいので、20部ほどほしいといってきました。高齢者でも読めるようには書けたのだと思いました。

 

 

――出版社、編集者とのやりとりで印象深かったことはありますか?

 

打ち合わせで幻冬舎に行ったとき、渋谷から地下鉄に乗ったのですが、その電車は降りるべき北参道駅を通過してしまいました。何十年も東京に住んでいますが、山手線の内側で地下鉄の止まらない駅があると知ったのはこのときです。

 

この本の最大の特徴と難しさは引用文献が多いということですが、文献番号のふり方、体裁、引用文献の字の大きさなど、様々なところで工夫して下さいました。このお陰で、文献番号や文献の「うるささ」を回避することができました。

 

最初に編集の方に言われたのは「難しい言葉が多すぎる」ということです。「たとえば?」とお尋ねしたときに言われたのは、「家畜肉」と「短鎖脂肪酸」です。最初、自分はこれらの言葉はこれ以上簡単にしようがないと返事しました。

 

しかし、考えを変えました。難しい言葉があると、特にそれが続くと、読者は読み進めようとする気がなくなるからです。そこで、多少のニュアンスの違いは覚悟で「家畜肉」を「肉」、「短鎖脂肪酸」を「短い脂肪酸」と言い換えました。

 

ところで、出版社のご提案として出色だったのは、カバーの「健康は1日にしてならず」です。病院の看護部長にこの本を差し上げたら、皮肉にも特にそのロゴが良かったというので、これは自分が考えたものではないとお答えしました。

 

――執筆していくなかでの苦労はありましたか?

 

なるべく、読みやすく、読者がそこで頓挫しないように書くというのは、難しく、家族を含め、いろいろな方のご意見をききました。しかし、もっぱら医師(専門家)に意見を聞いたので、本当にわかりやすくなったかどうか、不安もあります。

 

大学生の娘から「蛋白という漢字は高校の生物の教科書に出ておらず、あまりみかけない」と聞いたときには、驚きました。早速ひらがなにしました。また、文献が各章の後ろにあると鬱陶しいといわれたので、一括して文末に移動させました。

 

文献を多く引用するか否かかなり迷いました。この種の新書で多くの文献を引用することは例がないからです。でも結果としてよかったと思います。というのは、医師である読者から、エビデンスがあるとして好意的に受け止められたからです。

 

文中にしばしば出てくる「長い解釈」についても、「本文との区別がわかりにくい」という意見を社会人の娘から聞いたので、注釈の字の大きさを小さくし、かつ本文より段を下げて書くことにより、注釈であるとはっきりわかるようにしました。

 

工夫したのは注釈自体を面白いものにしようとしたことです。週刊誌のチラシの見出しに倣い、えっ何が書いてあるのだろうと思わせるようにしました。たとえば、「短い方が魅力的?(p58)」や「何でもない日おめでとう(p139)」などがそれです。

 

――自著の紹介をお願いします。

 

この本は、奇をねらっていません。そうではなく、ごく当たり前のこと、一般の良心的な主婦なら心得ているにちがいない、ヘルシーな食事と食べ方について、それが最も科学的に老いを遅らせるという証拠があるのだ、ということを述べています。

 

野菜や食物繊維に富むものを豊富に摂ること、肉ばかり沢山たべないこと、カロリーは控えめに摂ること、夜遅くに食べないこと、朝ご飯はちゃんと食べること、そういう当たり前の主婦の知恵が実は正しいのです。そのことを言いたいのです。

 

サプリや糖質制限食を非常に強く推奨する者が多くいます。それらが「効かない」とはいいません。何かが「効かない」と証明することは難しいからです。しかし、読者に気づいてほしいのは、「効く」エビデンス(証拠)も乏しいということです。

 

地中海食、菜食主義食、和食、それが健康によいことについては、十分なエビデンスがあります。それらは商売にならないので、マスコミなどを通して強く推奨する者がいません。しかし、食様式だけが、十分のエビデンスを持っているのです。

 

 

作田英成 著

『「老い」を遅らせる食べ方』

 

 

健康に良いとされる食事法がなぜ良いのか。はたまた世間で流行っている健康法は本当に体に良いのか。こうした疑問を徹底解明した本書を読めば、老いに逆らうことはできなくても、老いを遅らせることはできる!

あなたの食事習慣を見直して、いつまでも若々しい体を育てよう。

<著者プロフィール>
東京都出身、1957年生まれ。蒲田リハビリテーション病院勤務。1982年防衛医科大学校卒業、自衛隊中央病院、自衛隊熊本病院などで勤務、1989~1993年防衛医科大学校医学研究科、1997~1999年皇太后宮侍医(宮内庁出向)、2007年自衛隊仙台病院副院長、2013年自衛隊中央病院診療技術部長、2015年自衛隊中央病院総合診療科部長、2017年8月から現職。医学博士、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本内分泌学会評議員・内分泌代謝科専門医・指導医、日本医師会産業医。

 

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連載<実録>本の出版を通して「人生の足跡」をのこした人々

幻冬舎ルネッサンス新社 代表取締役社長

企画編集室・室長を経て現職。代表取締役となった現在も、毎月10冊以上の書籍編集に携わる。手がけるジャンルはノウハウ書、旅行記、写真集、絵本など幅広いが、特に得意としているのは小説と自叙伝。著者の出版目的を満たすことを重要視し、書き手と細かく議論を重ねる編集スタイルが特徴。これまで多数の重版実績を持つ。

著者紹介